第32話 優の初恋と愛おしい想い


☘安祐美side & 優side



二人は、校庭の中庭にあるベンチに腰を降ろす


「ねぇ優ちゃんは信一君の事が好きなの?」


「・・・・はい・・安祐美さんもですよね?」


「ええ」


「いつから?って聞くのも変だね」


安祐美は優しい笑顔で優を見つめる


「そうですね・・」



〇10年前


【おねぇちゃん、信ちゃん!まってぇぇ】

【まってぇぇおにぃぃぃあいねぇぇぇ】




私達は織田家と瀬川家で一緒にキャンプに来ていた、河川敷にテントを張って両家のお父さん達は川で魚を釣って今日のバーベキューのメインにすると息巻いていた


お母さん達は日頃の家事から解放それて、椅子に腰かけお酒を飲みながら談笑してる


子供連中はと言うと、お父さん達から近くの木陰で薪に使えそうな枯れ木を集めてくるよう言われ4人で近くの山道を歩きながら枯れ木を集めていた


「はぁ・・市江・・だからリュックは置いておいでってお兄ちゃんいっただろ?」


「優・・あんたもよ・・」


信ちゃんとお姉ちゃんは非常用の食料と水、懐中電灯と救急のセットを、それぞれ自分のリュックに詰めているのを見て、市江ちゃんが自分のリュックにジュースを入れて背負いだしたので私も真似して市江ちゃんと同じようにリュックを背負ってると


「ああ、市江と優はリュックは置いて行こうな・・重くて歩くの大変だしな」


「ほら、優も市江ちゃんもお母さん達に渡しといで」


この時背負ってるリュックは少し思い入れが有って、私のと信ちゃんが青い同じ色のリュックで市江ちゃんとお姉ちゃんが赤い同じ色のリュックで信ちゃんと同じなのが嬉しくて買ってもらってから毎日一緒に寝ていたくらいお気に入りだった


「え、でもおにぃもあいねぇもリュックしてるから、いちえもリュックするの」


「優も・・信ちゃんと同じがいい」


信ちゃんはお姉ちゃんと何やらコソコソ話していて私は、信ちゃんに除け者にされた感じがして余計に意固地になっていたかも知れない


「いやあああ」「いやいや」私につられ市江ちゃんも駄々を捏ねる


「愛・・いざとなったら俺が全部持つから・・時間も時間だしこのまま行こう・・・」


「しかたないわね・・・ほら、アンタたち行くわよ」


そう言うと信ちゃんとお姉ちゃんは二人で並んで地図を確認しながら楽しそうに歩きだした・・・私だって信ちゃんと楽しく地図見たいのに・・・


しかしそんな思いも直ぐに後悔する・・目的の広場迄半分も進んでないのに私も市江ちゃんも息が上がる




「おねぇちゃん、信ちゃん!まってぇぇ」「まってぇぇおにぃぃぃあいねぇぇぇ」


リュックにこだわって駄々を捏ねた事を信ちゃんとお姉ちゃんから怒られた・・・市江ちゃんも私も半泣きでグスグス言いながら持って来たジュースを飲んでいた


「もう少し休憩したら、歩こうな」後で思うこの時の自分が本当に我儘な子供だったと


そう声を掛けてくれた信ちゃんに私は


「やだぁぁぁぁ信ちゃんおんぶ―――ぅぅぅ!!」


私は自分の我儘で小さな子供には重すぎる荷物を背負ったせいで疲れたのにその上、信ちゃんに自分も背負って歩けと駄々を捏ねる


「だ、だめだよぉ優・・おにぃもあいねぇも私もあるくから・・一緒にあるいこ」


「やだぁやだぁぁ歩けないもん!!信ちゃんがおんぶしてくれなきゃやだもん!!」


【パシッ】被ってる帽子越しに軽い痛みと怒ってる姉が振り下ろした手が見えた


「お、おねえちゃん・・なんで・・・なんで、ゆうをたたくの?いたいよ・・ひどいよ・・うううぅぅ」


「優いい加減にしなさい、自分の我儘でリュックを持って来て疲れたから信一におんぶしろって?甘えないでぇ!!」


「う、うう、わたし・・わたし・・わるくないもん・・しんちゃんとおなじリュックいいもん・・おねえちゃんきらいいぃぃぃ」


「あ、ちょい!!優!!!」「優!!離れるな!!」「ゆうぅぅ!!」


私はその場を駆けだした・・おねえちゃんなんか、おねえちゃんなんか・・・そうして走ってると・・・


【きゃぁぁぁっぁ】足元にある大量の落ち葉で足が滑って傾斜になってる所を転げ落ちる


【ドガッ】私は背中に強い衝撃を受けて息が出来ない・・「うっ・・うっ・・(いたい、あしがいたい、せなかいたい)・・」


【ゆぅぅぅ!!】【優う――――!!】離れた所から私を呼ぶ声が聞こえる「ぉ、ぉ、ぉねぇちゃっ...しんちゃぁぁぁ」必死に叫ぼうとしたが声が出ない・・


必死に呼吸を整えてる間に私を呼ぶ声が遠ざかって行く・・(まって・・わたしここにいるよ・・まって、おねえちゃん、まってしんちゃん・・)


そのまま目の前が暗くなり意識が無くなった・・・



気付くと何やらユサユサと自分が揺れてる、自分の胸に暖かい感触・・そして良い匂い・・


ゆっくり目を開けると・・


「信ちゃん?」


「あ、優・・起きたか?」


私は信ちゃんに背負われていた・・・「しんちゃん・・たすけてくれたの?」


「ああ、優の飲んでたジュースが落ちてたからその下に降りたら、優を見つけたんだ」


よくみると信ちゃんの顔も腕も傷だらけで血が滲んでいた


「おねえちゃん達は?」


「ああ市江はお父さん達を呼びに行かせた、愛は・・・・お、来た来た」


「おおおい!信一ぃぃ連れてきたよぉぉ」


大きく手を振るお姉ちゃんに信ちゃんは笑顔で頷くと、お姉ちゃんの後ろから信ちゃんのお父さんと私のお父さんが息を切らしながら私らに駆けよる


信ちゃんはゆっくり私を下すと「ふぅぅぅ」その場で座り込んだ


「優ぅぅぅ無事かぁぁぁ」お父さんに抱きかかえられる


「信一・・無事か?」「ああ、大丈夫だよ・・少し疲れただけだよ」「うわぁぁん、おにぃごめんぇぇん」


信ちゃんは優しく微笑み市江ちゃんを撫でてる


「優!!」お姉ちゃんは・・泣きながら怒ってる・・


「おねえちゃん、ごめん・・なさい・・」


「もう!!心配したんだからぁぁl!」


そういうとお姉ちゃんに抱きしめられる、驚いていた私の事を信ちゃんが笑顔で見て頷きながら自分のリュックをこっちに見せてウインクしながらグッドのポーズをした


どうやら私のリュックが木にぶつかった時に衝撃を吸収してくれたみたいで大きな怪我はしなかった様だ


〇数日後の優の部屋


「市江ちゃん、私信ちゃんのお嫁さんになる!!」


「ええ、やだやだおにぃは市江とけっこんするのぉ!!」


「ふふ・・・ざぁんねん!妹はお兄ちゃんと結婚できません」


「ええずるいぃぃ優だけずるいぃぃぃ」




〇あれから約10年・・・


「市江ちゃん・・私あの時の気持ちのままだよ・・・信ちゃんのお嫁さんになりたい・・・今でも・・これからも・・この想いは変わらないよ」


そして今現在、私は安祐美さんを真っ直ぐに見つめ強い口調で告げる


「私は初恋が信ちゃんで、それが今でも私の全てです、だから信ちゃんの事だれにも渡しません」

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