第17話 優は朝からお世話したい

♠信一side



「信ちゃん、起きて・・・ご飯もう出来てるよ?」


「うぅ~ん・・もう少し良いだろ・・市江・・」


「ううう・・信ちゃん・・」「はぁ・・そんな生温いやり方じゃおにぃは起きないって言ったじゃん」


「で、でもぉ~信ちゃんの寝顔が可愛くて・・無理やり起こすなんて・・私には・・」


「良いから!布団を剥ぎ取りなさい!」


「ううう、えいっ!!」


何時もの様に急に布団を剥ぎ取られる・・・


「ううう、なんだよぉ~もう少し優しく・・・って!なんで優が此処にいんだぁぁ」


眠い目を擦りながら、身体を起こすと制服姿の優が俺のベッド脇で布団を剥ぎ取った状態で顔を赤くして一点を凝視したまま固まっていた


「ん?・・・・うわぁぁぁ」俺は慌てて自分の股間をかくして後ろを向く


「こ、これは!朝の生理現象なんだぁぁ!」


「はぁ~なに、このお約束みたいな展開・・・つかおにぃ最低・・・」


「あ、あわ、こ、これ・・・これは・・ごめんなさいィィィ」


そう言うと布団を放り慌てて俺の部屋から出て行く優を生暖かい目で見送る市江に怒鳴りつける


「おい!市江どういうつもりだ!兄の寝起きに優を巻き込むとか、お陰で優に軽蔑されただろ!!」


生暖かい目を俺の方に向け不機嫌そうに腕を組み俺に冷たく言い放つ


「はぁ?毎朝おこしてもらってる身で何偉そうに言ってんの?つか文句あんなら自分で起きたら?」


「・・・・・・・・・」


妹からの正論に対し全く論破できない・・・


「たっく・・野球してた時は自分で起きてたじゃん・・はぁ・・・これから毎朝、おにぃを起こす役は優がするから」


「は?何で優なんだ?」


「なんででも!起こしてもらえるだけ有難いと思いなさい!!」


「・・・意味わかんね・・って未だ7時じゃねーか!」


「当たり前でしょ!私ら朝練あんだから、そんな事どうでもいいから早く支度してよね、今日は優も朝一緒に食べるんだから待たせないでよ」


「・・・ん?状況が分からないんだが?優がうちで朝ごはん食べるの?」


「そう」


「これから?」


「そう」


「毎日?」


「あああもう!だからそうだって言ってんでしょ!良いから早く着替えろ!この寝坊助が!」


朝から市江に罵声を浴びせられて、理解も納得も出来ないが渋々服を着替えリビングに降りると


「あらぁ、優ちゃん暫く見ない間にずいぶん料理の腕を上げたわねぇ~」


「いえいえ、まだまだ練習中です♪」


「これなら何時でも嫁に来ていいわぁ~」


「フフじゃぁ、そうしようかなぁ♪」


「うんうん、おいでおいで!」


台所から母親と優の黄色い声が聞こえる・・・


「おはよう~ふぁあぁぁ」欠伸をしながらテーブルに着くと目の前で新聞を読む父親と俺の隣にまだ機嫌を損ねたままの市江がソッポを向いて肘をついている


「おはよう信一、すこし、ダラけ過ぎじゃないか?」新聞越しに父親に注意される


「いや、父さん俺いつもより30分も早く起こされてだなぁ・・」


俺がそう言うと奥の方で優が申し訳なさそうに俯く、


するとテーブルの下で市江が俺の足を蹴とばす


「いでっ、でめぇ・・・あ、いや・・優、起こしてくれてありがと」


「その・・信ちゃんゴメンね・・水泳部の朝練で・・早く学校いかないと・・迷惑だったよね・・・」


「そんなこと無いわぁ優ちゃん!このぐうたら息子の朝をこれから優ちゃんに改善して貰うんだから!」


「そうだよ、優ちゃん・・他の誰でもない私と母さんと市江も味方だ・・遠慮はいらないよ」


「は、はい!信ちゃんの朝は私に任せてください!」


「クククク・・・これから健康的になれそうでよかったね、おにぃ」


「っ!?・・・はぁ・・・」


「はい、朝ごはん出来たわよぉ~」そう言うと母さんと優が朝食を食卓に並べる


「はい、信ちゃん♪」「ああ、サンキュウ優」


俺の取り分は優がよそってくれ、そのまま市江と反対の俺の隣に座る


「「「いただきます」」」


俺は鮭の塩焼きを箸で少し切ると口に運ぶ・・うん塩が効いててご飯が進む


次に卵焼きを一切れ口に運ぶ・・ん?いつもの出汁味じゃない・・少し甘いしネギが入ってるのか?・・でもこれはこれで旨いな・・


ご飯を一口かきこむと、みそ汁に口を付ける・・・お、俺の好きなナメコと茄子が一緒に入ってるし旨いけど・・何時もより少し濃いな・・


ふと気づくと隣でジッと俺の食べる姿を凝視する優に気付く


「ん?優食べないのか?今日のご飯いつもと味付け少し違うけど美味しいぞ?遠慮しないで沢山食べないと部活頑張れないぞ?」


「プッ・・フフフ・・「クククク・・」」


「は?何だよ?何が可笑しいんだ?」


急に笑い出す母親と市江・・それに目の前を見ると小刻みに父さんの持ってる新聞が震えている


「あ、あのぁ信ちゃん今日のご飯は美味しかった?」


皆の反応にイライラする俺に不安な表情を浮かべ優が聞いてくるので


「ああ、味噌汁が少し濃いけど、どれも美味しいけど?」


「そっかぁ~味噌汁はもう少し薄味かぁ~」


そう言うと優は制服の上から着たままのエプロンのポケットからメモ帳を取り出して何か書き出した


「信一、あんた本当に鈍感ね・・思いやられるわ・・今日の朝食は全部優ちゃんが作ったのよ」


「えっ!?嘘!ゴメン優、俺知らなくて味噌汁の味が濃いなんて言っちゃって、全然美味しいよ味噌汁」


そう言うと味噌汁を一気に飲み干す


「うんん、良いの私信ちゃんの好みもっと知りたいから、明日は期待してね♪」


「え?明日?」


「あら?市江、信一に言ってないの?」


澄ました顔で朝食を口に運ぶ妹は


「私は言ったし、これから毎朝優が来るからって」


「いやいや、起こしに来るとは言ったが毎朝優に朝食作らすとか、無理させすぎだろ!母さんも父さんも、こういう時こそ何とか言えよ瀬川のお父さん、お母さんにも悪いだろ!!」


「いいの!信ちゃん!私がしたくてお願いしたの!」


「優・・・・」


「それにこの事は優ちゃんのお母さんから頼まれた事だから、ねぇ――――優ちゃん」


そう話を振られた優は顔を赤くして俯きながら小さく頷いた


「そ、そういう事だから・・・その・・信ちゃんこれからもよろしくね・・」


「あ、ああ優こそ無理しないようにな・・」





勘違いの中すれ違い、道を分かった二人の途上には更なる運命の出会いがまっいている



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