喧嘩

 いつもの桜の木も深くて濃い緑からだんだんと燃えるような赤に衣装チェンジしつつある。

それに合わせてかスリジエの服も紅色のセーターとからし色のコーデュロイのパンツ姿になっていた。そういえば最近は前より濃い緑のシャツになっていたな。まあ、それはいいとして。秋服、ニット姿の好きな人とはこんなに破壊力があるものなのだろうか。ついつい見惚れてしまって、どうした?と尋ねられることが増えてしまった。恥ずかしい。いや、だってだって萌え袖ニットは男女どちらでも、反則でしょ。というわけで今日も今日とて彼を見つめては揶揄われるということを繰り返していた。


 それは、突然私の心に突き刺さった。きっと彼にとってはなんてことない一言だったと思う。けどそれは私を傷つける鋭い刃となるのには十分だった。

「もう、秋だね。」

スリジエはツリーハウスで1番居心地がよいソファから立ち上がり唯一ある窓を開けた。

「そうだね。」

隣に立つと気持ちの良い秋風が吹いてくる。ここから見る景色もすっかり緑一色ではなくなって赤、オレンジ、黄色とカラフルになっている。

「そういえば、桜。6年生だったよね。」

「え、うん。そうだよ。」

「ってことは修学旅行だっけ。とかいうのもあるんだよね?」

思わず少し目を逸らす。

「うーん、どうかな。あるんじゃない。」

つい口調も冷たくなる。しかし、そんな少しの違いに呑気なスリジエが気づくことはなかった。

「そーなんだ!いいね。僕行ったことないんだ。」

「そっか。」

「うん、何するのかな、どこに行くの。ねえ、桜。」

ワクワクして質問攻めになっている。その姿がどうしても腹立たしくて強引に話題を変える。

「うん、もういんじゃない、この話。それよりスリジエ。秋だよ。芸術の秋でも、スポーツの秋でも、食欲の秋でもあるんだよ。何しようか。こっちの話の方が楽しいじゃん。」

早口で捲し立てると、スリジエは無言で私を見つめていた。

「な、なに。スリジエ。」

「もしかして、桜。まだ友達いないの?修学旅行も行かない気?」

彼の素直でハッキリと言葉は、時に凶器となって私の前へ突きつけられた。

「なによ、いいじゃない。そんなの。」

「よくないよ。」

思ったより大きな声で否定され、私は驚いてスリジエを見上げた。

「ずっと僕といるし、学校の誰の話もしないから。それでもいいって思ってたけど、友達なんていなくてもいいって思ってたけど、やっぱりそれじゃだめだよ。」

「な、何で。いいじゃん。ずっとスリジエといるから。友達なんて、要らないから!」

「そういうわけにはいかない。」

「どうして、」

「僕だってずっと桜といれるかなんてわかんないじゃないか。」

何よりも重い言葉が胸の奥までずっしりと届けられた。わなわなと震える手を握りしめて、私はスリジエに向かって思っていたことを全てぶつけた。

「だいたい、ずっと一緒だっていったのはスリジエじゃない。私だって友達作ろうと努力したよ。でも、できなかった。だからここで遊ぶのが救いだったのに。何も聞かないし受け入れてくれるスリジエだったから居心地がよかったの。それなのに今のスリジエの言葉は許せない。とても、傷ついた。ひどい、ひどいよ。ってゆーかスリジエだって友達いないじゃない!」

溢れてくる涙で視界が滲んだ。スリジエの声がしたけど振り向かず走ってツリーハウスを降り一目散に逃げ出した。荒い息が少し落ち着き、公園の入り口まできた。さっきの良い天気が一変し、怪しい雲が速度を上げて迫ってきている。後ろを振り返ってもスリジエは追っては来ていなかった。その場にしゃがみ込み

「ひどい、ひどいよ。スリジエ。」

泣きじゃくる中、彼への言葉を地面に落とす。空からも大粒の雫が降り出した。

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