夏休み
長いようで短い夏休みが始まった。終業式の日も私は相変わらずスリジエのもとに足を運んだ。いつものように桜の木の下へ行くスリジエはなんだかたくさんの木材を運んでいた。
「スリジエ。」
声をかけると、すぐに振り向いてくれた。
「どうしたの。こんなにたくさんの木材。何に使うの?」
私が尋ねると
「桜、今日から夏休みだったよね。ちょっと手伝ってよ。」
「え?いや、だから。何をするの。」
「ツリーハウスを作るのに決まっているじゃないか。こんなに木が大きいんだからきっとできるよ。」
と木を見上げながらいうと、ほら手伝ってと私に木材を渡した。思ったより重くて倒れかけると前から支えてくれた。こんなに人と近づいたことがないし、スリジエからは甘い桜の香りがしたので妙にどきっとしてしまい、支えてくれたにも関わらず前に倒れてしまった。
「いたた。大丈夫、桜?」
と綺麗な顔が目の前で心配そうに見つめているのが目に入ると、状況がわかって慌てて立ち上がった。
「ごめん、大丈夫。これ持ってくね。」
と言ってとりあえずスリジエから離れた。残されたスリジエは「ここでいいのに」と呟いたものの大きな声で言い直すことはせず、桜の慌てっぷりを思い出して笑っていた。
「くっくっく。顔赤すぎだろ。」
作業は着々と進んでいった。ただ初日の私の反応が面白かったのか知らないが前より距離を近づけて来ることが多くなった。その度に私はしっかり驚き慌てた。多分それもいけない。わかっているけれど、顔が赤くなることを止めるなんて無理がある。その頃にはもうとっくに気づいていた。私はスリジエが好きなんだ。
「え、なんか言った?」
「え、え!?いや、何も」
危ない。声には出してないよね。またくっくっと笑いながらスリジエはどこかに行ってしまった。そして、すぐ戻ってきた。
「どしたの、材料あった?」
と聞いてから顔をあげてスリジエを見ると、ひどく顔が青ざめていた。
「えっ、どうしたの。」
駆け寄るとスリジエは目をそらして
「ばあちゃんが亡くなった。悪い、1人にして。」
「しない。」
今度はスリジエが顔を上げて驚く番であった。
「しない。しないよ。私の前ではかっこ悪くていいから。」
と言ってスリジエを抱きしめた。最初こそ驚いていたけれど、私の背中に長い腕を回し掠れた声で
「ありがとう。桜。」
と呟いた後、強く抱きしめられた。長いことそうしていたと思う。スリジエは泣き疲れたのか意識を失うかのように気づいたら寝ていた。でも抱きしめられた手が強くて、離そうにも離せず私も気づいたら寝てしまっていた。目が覚めるとそこは自分の家のベッドだった。帰ってきた記憶がなくて不思議に思っていると手のひらに1枚の桜の葉残されていた。月の明かりにかざすと文字が浮かんできた。え、と思ってよく見ると「一緒にいてくれてありがとう、桜。」と書かれていた。きっと木の棒のとかで引っ掻いて書いたんだろう。わたしはあたたかい気持ちになってもう一度眠りについた。
夏休みももうそろそろ終わりになるころ、秘密基地のようなツリーハウスは完成した。外観は狭そうだが中は思ったより広い素敵な隠れ家のようになった。スリジエは目を輝かせて振り向き、
「ありがとう、桜!嬉しいよ。僕は今日からここに住むね。」と言って、ハシゴを登って行った。
「気をつけて登ってね。」
私も後を追う。
「大丈夫だよ。僕は怪我しないから。」
「何言ってるの。」
スリジエに続いて中に入る。スリジエはくくっとまた笑ってターンしてソファに座った。絵になり過ぎていて、困る。
「なんか言った?桜」
この人はなんでこんなに勘がいいんだろう。
「言ってない。」
少し口すぼめた顔をして、隣に座る。
「桜。」
声をかけられ振り向くとまた思ったより近くに顔がある。
「ーっ。だ、から近いって。」
「うん。」
「うんって何よ。」
またまたスリジエはくくっと笑った。そして目を細めて
「キスでもしとく?」
と耳元で言われたので慌ててソファから離れる。
「ば、ばかじゃないの。何言ってんの。」
スリジエはキョトンとした顔をしたと思ったら大笑いしていた。
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