出会い

 私、花村桜は憂鬱だった。父の転勤も新しい学校にいくことも慣れたもんだったが、小学6年生というみんな大人でも子供でもないこの時期に転校するとこんなにも馴染めないものなのか。今までは割とすぐに友達ができてクラスの仲間入りを果たしていたが、今回はどうもうまくいかない。しかも6年生の秋には修学旅行もある。こんな調子で大丈夫だろうか。まだ新学期からそこまで日にちは経っていないにもかかわらず既に少し諦めモードに入ってしまった。

まだ見慣れない通学路。この道は大きなマンション二つにも繋がる道だからか色鮮やかなランドセルで辺りを埋め尽くしていた。自分もその1人であることなど忘れてぼーっと眺めていた。

 

 「あっ。」という声とともに大きな音がした。振り返ると白髪のおばあさんが倒れている。私は慌てて駆け寄った。そばに落ちていた杖を見つけ「大丈夫ですか。」と尋ねようとしたその時、少し奥の方から若い女の人が走ってきた。

「ばあちゃん、大丈夫か。」

その声が思ったよりも2オクターブくらい低くて思わず目を見開いてしまった。腰ほどまである長い髪で女の人かと思ったが、よく見ると確かに肩幅も、筋肉もある男の人だった。淡い桜色の長い髪に、薄緑のサテン生地のシャツが合っていてこの世のものとは思えないほど綺麗だった。おばあさんは私の差し出した杖を手にとって起き上がり

「なあに、これしき。大丈夫だよ。」

「いや、年なんだからさあ。気をつけなよ。」

「いやだね、私はまだ若いよ。」

二人の会話をつい眺めてしまっていたがおばあさんに

「杖、ありがとうね。」

と言われて我に帰り

「いえ、お2人とも気をつけて。」

と言うと2人は顔を見合わせ、目で何か会話したのち結論が出たらしく頷いた。

「お嬢ちゃん、お礼をするから少し私のうちに寄って行かないかい。」

とおばあさんに言われた。怪しいし断ることもできただろうけれど、なぜか行かないと後悔する気がしてついて行くことにした。


 おばあさんのお家はすぐ近くの公園の裏だった。門まである屋敷のような家で少し入るのを躊躇っているとお兄さんに背中を押された。振り向くといたずらっこのように楽しそうに笑っていた。

「お礼をするって連れてきたのにこんなものしかなくて申し訳ないねえ。」

とおばあさんが緑茶を私の前に置きながら言った。

「いや、全然です。ありがとうございます。」

せんべいや、お団子、桜餅などなど目の前にはどんだけだとつっこみたくなるほどのお菓子が置かれている。おばあさんは私の前に座ってお茶を1口飲んだ。

「この公園の桜きれいでしょう。」

慌てて口の中のせんべいを飲み込み答えた。

「あ、はい。とっても。綺麗です。」

「でしょう。私がもう長い間管理していたの。うれしいわ。」

「そうなんですね。ほんと、綺麗です。」

沈黙が流れる。気まずい。やっぱりきたのは間違いだっただろうか。そんなことを思っているとお兄さんが後ろから私が食べていたせんべいを取り上げて

「うまー!ばあちゃんこれまた食べたい。」

とおばあさんに言った。おばあさんは笑って、そのあとまた私に向かって話し出した。

「実は私、最近あまり調子がよくなくて。今度少し遠くの病院に入院することになったの。子供も孫もあいにくいないし、近くにいるこの子は役に立たないし。だから守ってくれる人を探していたの。」

役に立たないって誰のことだよっと後ろで拗ねているお兄さんを無視しておばあさんは続ける。

「お願いできないかしら。大したことはしなくていいの。」

「でも、私まだ小学生だし。どうしたらいいかわからない。」

と戸惑っているとすかさず

「ただこの木がここにあり続けるようにしてくれたらいいの。ね、お願いできないかしら。あなたしかいないのよ。」

と説得されてしまい、どうして良いかわからなかった。けど2人があまりにキラキラとした目で見つめるから気づいたら首を縦に振っていた。なんだかすごく喜んで、踊りというか舞というかよくわからない動きを2人してしていたから、つられて私も笑ってしまった。

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