アナタの3分、

おもち

アナタの3分、

「アナタの3分、ワタシにちょうだい」


自室のベランダで夜空に咲く花火を見ていた。

マンションの10階からは多彩な花火の光がよく見える。


そんなときだった。


背後から声が聞こえて、私は振り返った。

部屋の扉の前。

そこに気味の悪い女が立っていた。

乱れた髪のせいで顔は分からない。

分かるのは、私にこんな友人はいないということ。

こんな汚い女。


「あんた誰?」


私は女に向けて言い放った。

私は一人暮らしだ。

鍵は、たしかに閉めたはず。

こいつ、何処から入ってきて───。


「3分あったら音楽が聞けるね。

3分あったら着替えられるね。

3分あったらトイレに行けるね。」


女の声は部屋によく響いた。


「不法侵入、警察呼びますよ」


恐怖で、私の声は震えていた。


「3分あったらアイスを食べれるね。

3分あったらあの人に告白できるね。」


女は私の言葉に聞く耳を持たなかった。

じりじりと私に近寄る。

通報しようにも、恐怖で硬直した体が動かなかった。


「3分あったら大嫌いなあいつに復讐できるね。」


冷たい声。

女はついに私の前まで歩み寄った。

私は思わず尻もちをついた。


「ねぇ、先輩。」



女はそう言った。

そいつの顔が、髪の間から私を覗いた。


あ、、、、、、、、、、、、、、。


それは、








私がいじめていた、会社の後輩だった。





1か月前、飛び降り自殺をした私の後輩───。



「3分、」


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、


私は謝った。


生意気な後輩だから、ちょっとからかっただけなの。


私の好きな彼が、あなたを気になるって言うから、無視しただけなの。


そんなに思い詰めてるなんて知らなかったの。


掠れた声で何度も謝った。


「3分あったら、」


冷たい目で、彼女は私を見下ろした。

そして口だけうっすら笑って、




「そのフェンスをこえて、アナタの歪んだ人生を終わりにできるね。」


そう言って、彼女はベランダのフェンスを見た。


体が震えた。


心臓の音が耳のすぐ隣で聞こえた。


「だからねセンパイ

アナタの3分、ワタシにちょうだい」


意識がうっすら遠のいた。


そして───。










私の体はベランダのフェンスをこえ、

自由落下をした。


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アナタの3分、 おもち @omochi999

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