初戦闘とポンコツ聖女
あれからオレは街を目指して、ひたすら歩いた。今日の空は、いつもより灰色がかっている。
そう思い疲れたので一休みしようと砂の上に座り込んだ。
「シャルデネオの話を聞いているのが、つらかったせいもあるけど……簡単に引き受けてよかったのか?」
そう思い空を見上げる。するとその時、地表がグネグネとうねり始めた。
オレは驚き慌てて立ち上がる。
それと同時に巨大なミミズの群れが一斉に姿を現した。
「ウワアァァアアアー……なんだこの気持ち悪い生き物はぁ〜!?」
そう叫びオレは巨大なミミズのような生き物の群れから逃げようとする。しかし囲まれて逃げられない。
巨大なミミズの群れが、ジリジリと近づいてくる。だが逃げたいが逃げられない。
ここは普通なら戦闘の場面なんだろうけど能力が造形なために、どうしたらいいか悩みながら左手の甲をみる。
「そういえば攻撃力が千だと、どのぐらいの威力があるんだろう?」
そう思い防御力も千だから試してみることにした。
だが、そう思った矢先に巨大なミミズの一体がオレに体当たりしてくる。その衝撃で、オレの体が宙を舞った。
「ウギャアァァアアア~!!」
すると巨大なミミズは何を考えたのかオレをボールを扱うように、ポンポンッと宙に飛ばして遊び始める。
「まさか肉食って訳じゃないのか? だけど、もしかしたら死骸を食べる可能性もあるしな。そのためにオレを殺そうとしてるのかもしれない」
そう思った途端に、ゾッとして身震いした。
防御力が高いせいか痛みは感じない。だからって、このまま遊ばれてたんじゃ身が持たないよな。
そう思っていると巨大なミミズがオレの体を弾いた。
その瞬間にオレは別のヤツの体にしがみつき即座に右拳に渾身の力を込めると、巨大なミミズの体を思い切り殴る。
すると巨大なミミズの体を貫き肉片が四方八方に飛び散る。その後オレは、そのまま砂の上に落下した。
「グハッ!!」
巨大なミミズは、そのままバタンと倒れ動かなくなる。
それをみた他の巨大なミミズたちは、仲間がやられたのを察知し怯えるようにオレから遠ざかっていった。
「……思ったよりも簡単に倒せた。それにしても、なんで怯えて逃げたんだ?」
そう思いながら、ゆっくり起き上がると砂の上に座り直したあと手のひらをみる。その後、周囲を見回してみた。
「そういえば、みたことない小動物や虫がまわりにいる。それなのに、オレの側に寄って来ない……なんでだ?」
そう不思議に思い首を傾げる。
「んー……普通なら襲ってくるよな? まるで怯えてるみたいだ」
そう思い自分の体に視線を向けた。すると、さっきの巨大なミミズの肉片と緑色の血のような液が体の至る所に付着していることに気づく。
「臭うと思ったら、このせいか……」
改めて臭いを嗅いだ。プラスチックを溶かしたような変な臭いがして思わず吐きそうになる。
「ウゲッ、なんだよこの臭い。まぁ砂を水に変えれば水浴びできる。服を洗濯してもボロボロだし直した方が早いな。ああ、そっかぁ……その手があった!」
オレは自分の周囲に円を描き、その中心に手を翳した。そして丸いプールを脳裏に浮かべる。すると円の内側が激しく発光し魔法陣が展開された。
するとタライのような巨大なプールが現れオレは、そのまま水に浸る。
「うっ、ちみてぇ。……って云うか、冷たいのは最初だけかぁ。そうだよなぁ、この暑さじゃ水もお湯になるに決まってる」
そう言いながら服を脱ぎ始め素っ裸になって、お湯に浸った。
「まぁ温泉に入ってると思えば……いっか」
ザブンっと肩まで浸り瞼を閉じる。
「うわぁ〜、水ですわっ!」
そう女の声がしたと思った瞬間、ザバッンと誰かがプールに入ってきた。それに気づき慌てて瞼を開き眼前にいる者に視線を向ける。
オレは驚き持っていた服で下半身を隠してプールの外に出た。
「だ、誰だ……お前っ!?」
目の前の桜色でストレートヘアの女はキョトンとし、オレに視線を向けている。
「なぜ外に出てしまいましたの? 温かくて、こんなに気持ちいい水ですのに」
「そんなのは分かってる。オレは、お前が誰かと聞いてるんだっ!!」
「ああ、そういう事ですのね。私はリンラル・レンカと申します。一応これでもカルギア国の聖女候補でした」
そう言いリンラルは立ち上がり会釈をする。すると白い聖職衣の下が透けてみえ、オレは恥ずかしくなり視線を逸らした。
「聖女候補か。だが、なんでこんな所に居るんだ?」
そう聞いたあとオレは後ろを向き持っていた服を着始める。そして服を着るとリンラルをみた。
「私は聖女候補でしたが、なぜかポンコツはいらないと言われ追い出されたのです。ヒクッ、ねぇ酷いと思いませんか?」
涙目でオレをみつめる。
「確かに、ポンコツは酷いな。だけど、なんでポンコツって言われたか心当たりはないのか?」
「ヒクッ、ある訳がありませんわ。なんで、そのようなことを言われたのか考えても全く分からないのです」
その後もリンラルは、ここに来るまでの経緯を話し続けた。
「記憶にない……。それなのに聖女候補をポンコツ呼ばわり。んー……どういうことだ? 聖女候補なら尚更、大事にするはず。それを、なんで追放するんだ?」
そう思いながらオレはリンラルを見据える。
「だから分かりませんの。ヒクッ、ズル〜……ああそうでした。貴方の名前を聞いていませんでしたわっ!」
「そうだったな。オレはカケル・バンジョウだ」
「カケル……まあ、なんて素敵な名前ですの。それに先程の戦いといい砂から物を作り出す力。もしや貴方さまは神の使徒では?」
そう言い目を輝かせながらオレをみつめる。
そう聞かれ悩んだ。どこまで本当のことを言っていいのかと。だが何か言わないといけない。そう思い口を開いた。
「ああ、使徒ってわけじゃないだろうが。それに近いかもな。それはそうと、まさか今まで後をつけて来てたのか?」
「やっぱり、これは神のお導きですわぁ〜」
満面の笑みでリンラルはオレの方に駆け寄り抱きつく。それも濡れた服のままでスケスケだ。
「モロ……!?」
このままじゃ下半身がモロにやばいと思い慌ててリンラルを突き放した。
リンラルは、その拍子によろけ砂の上に倒れ込む。
オレは慌ててリンラルの傍に駆け寄る。
「悪い……大丈夫か? いきなり抱きつかれて……戸惑った」
そう言い、リンラルの手を取り抱き起こした。
オレは他に意識を散らし耐える。
「そうなのですね。ですが、これで進む道が見えましたわ。カケル様、どうか私を【ピィーーーー】してくださいませ!」
そう言い放つと、オレに抱きついてきた。
オレは青ざめ即座にリンラルを投げ飛ばし、プールを急いで元の砂に戻したあと一目散で逃げる。
その後もリンラルは、ひたすら逃げるオレのことを追いかけてきた。
「待ってくださいませぇ~ケル様ぁ〜」
「イヤァァ〜……まだ追いかけてくるぅ〜」
涙目になりながら、そう叫んだ。
そしてリンラルが、なぜポンコツ聖女なのか……なんとなく分かった。
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