第7話 秘密の告白

 夏の終わりが近づくにつれて、町の風景は少しずつ変わり始めた。朝晩は涼しくなり、昼間の暑さもやわらいできた。凛がこの町に来てから、もうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。


 ある日、凛は祖父母と一緒に食卓を囲んでいた。ふと、祖父が静かに口を開いた。


 「凛、そろそろ夏休みも終わりだな。君はこの町での時間をどう感じているんだい?」


 その質問に、凛は少し考え込んだ。最初はただの休暇のつもりで来た田舎町だったが、この1ヶ月で彼女の中に大きな変化が生まれていた。


 「最初は、ただ都会の生活から逃げたくて来たんだ。でも、この町で過ごすうちに、自分が本当に何を大切にしているのかが少しずつ分かってきた気がするの。」


 祖父母は凛の言葉に優しく頷き、微笑んだ。


 「そうか、それなら良かった。この町は、昔から人の心を静かにする力があるんだよ。」


 祖母が言った。その言葉に、凛はこの町の持つ不思議な魅力を改めて感じた。


 その午後、凛は光と約束していた森の花畑に向かうことにした。今日は何か特別なことが起こるような予感がして、心が少しそわそわしていた。


 花畑に着くと、光はすでにそこにいて、凛を待っていた。彼もまた、何かを伝えたそうな表情をしている。


 「光くん、何か話があるの?」


 凛が尋ねると、光は少し戸惑いながらも、意を決したように話し始めた。


 「凛ちゃん、実は君に伝えたいことがあるんだ。」


 光は少し息をつき、真剣な表情で続けた。


 「僕、君に出会えて本当に良かったと思ってる。凛ちゃんがこの町に来てくれて、僕の日常がすごく変わったんだ。君と一緒に過ごす時間が増えるたびに、君のことをもっと知りたいと思うようになったし、君のことを大切にしたいって思うようになった。」


 凛は光の言葉に驚きながらも、その気持ちが嬉しくて、心が温かくなった。彼がこれほどまでに自分のことを想ってくれていたなんて、思いもしなかった。


 「光くん……」


 凛は何を言えばいいのか分からず、ただ彼の目を見つめた。その瞳の中には、真摯な思いが込められていた。


 「僕は、凛ちゃんが都会に戻ってしまうのが怖いんだ。この町で君と過ごした時間が特別すぎて、君がいなくなると、僕はどうすればいいか分からないんだ。」


 光の告白に、凛の胸が締め付けられるようだった。自分もまた、光との別れを考えると、心が痛むのを感じていた。


 「光くん、私も同じ気持ちだよ。この町での時間がすごく大切で、あなたと一緒にいることが自然になってきた。でも、私にはまだやりたいことが都会にあるから、帰らないといけないんだ。」


 凛は少し涙ぐみながら言葉を紡いだ。光の手をぎゅっと握りしめる。


 「でもね、これが終わりじゃないと思う。私たちの絆は、距離があっても続いていくって信じてる。この町で出会ったことで、私たちはいつでも繋がっていられると思うんだ。」


 光は凛の言葉を聞いて、少しほっとしたように微笑んだ。そして、優しく彼女の手を握り返した。


 「ありがとう、凛ちゃん。君の言葉を信じて、これからも僕はこの町で頑張るよ。いつかまた、君がこの町に戻ってきたとき、もっと素敵な場所にして待っているから。」


 二人はその場で静かに抱きしめ合い、夕暮れが迫る中、心を通わせた。夏の終わりが近づくにつれて、二人の間には確かな絆が生まれていた。


 凛は心の中で、この町と光との出会いが自分に与えたものを改めて噛み締めていた。夏の終わりと共に訪れる別れが近づいていることを感じながらも、彼女は前向きな気持ちで未来を見据えることができた。


 「この町を忘れない。この夏が、私にとって一生の宝物になる。」


 凛はそう誓い、光と手を繋いだまま、花畑を後にした。これから訪れる最後の夏の日々が、二人にとってどんな思い出になるのか、まだ誰にも分からなかった。しかし、彼らは確かに、今この瞬間を大切にしていた。

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