第4話 夏祭りの夜

 母の残した手紙と祠で見つけた写真を通じて、凛はこの町に繋がる特別な記憶を受け取った。心の中で母への思いが一層深まり、また光との絆も強く感じられるようになった。夏の日々が穏やかに過ぎていく中、町では夏祭りの準備が進んでいた。


 凛が祖母から「今日は町の夏祭りだから、みんなで行こう」と誘われたのは、ちょうど夕方の涼しい風が吹き始めたころだった。子供の頃にも参加したことのある祭りだが、大人になってからは初めてのことだったので、少し緊張しつつも楽しみだった。


 浴衣に着替えた凛は、祖母に髪を整えてもらい、祖父母と一緒に町の中心へ向かった。祭りの会場には、提灯がずらりと並び、夕闇の中でほのかな光を放っていた。屋台からは甘い香りや、炭火で焼かれる食べ物の香ばしい匂いが漂い、町の人々の賑やかな声が響いていた。


 「懐かしいな……」


 凛はふと、幼い頃に訪れた祭りの記憶が蘇ってくるのを感じた。あの頃も、家族と一緒に賑やかな夜を楽しんだのだ。しかし、今は母がいないことに少し寂しさを感じつつも、祖父母と再びこの祭りを楽しめることに感謝の気持ちが湧いてきた。


 その時、ふいに光が現れた。彼も浴衣を着ていて、いつもとは少し違う雰囲気だった。


 「やあ、凛。浴衣姿、似合ってるね。」


 光の褒め言葉に、凛は照れくさそうに笑った。光もまた、浴衣姿が凛々しく、いつもより大人びた印象を与えていた。


 「ありがとう、光くんもすごく素敵だよ。」


 二人はお互いに少し恥ずかしそうにしながらも、一緒に祭りを楽しむことにした。祖父母に「行っておいで」と背中を押され、凛と光は賑わう人々の間を歩き始めた。


 まず最初に訪れたのは、金魚すくいの屋台だった。凛が子供の頃に夢中になった遊びだ。光が「やってみる?」と尋ねると、凛は頷いてチャレンジすることにした。


 「久しぶりだなあ、うまくできるかな……」


 慎重にポイを水に入れ、泳ぐ金魚をすくおうとするが、なかなかうまくいかない。すると、光がそっと手を添えて、「こうするとすくいやすいよ」と教えてくれた。二人で力を合わせると、見事に金魚をすくうことができた。


 「やった!すごい、光くんのおかげだよ!」


 凛は嬉しそうに笑い、光も満足げに微笑んだ。その後も、射的や輪投げなどを楽しみながら、二人は祭りの夜を満喫していった。


 やがて夜も深まり、祭りのクライマックスである花火大会の時間が近づいてきた。二人は少し静かな場所を探し、町の外れにある小高い丘へと登った。そこからは町全体を見渡すことができ、花火が打ち上げられる夜空もよく見える場所だった。


 「ここ、いい場所だね。」


 凛は目の前に広がる景色に感動しながら言った。光もまた、満足げに頷いた。


 「実はここ、僕のお気に入りの場所なんだ。子供の頃から、花火を見るときはいつもここに来ていたんだよ。」


 二人が空を見上げていると、遠くから祭りの音がかすかに聞こえてきた。そして、ついに大きな花火が夜空に打ち上げられた。光と音が一斉に広がり、闇夜が一瞬にして彩られる。


 「きれい……」


 凛はその光景に見とれながら、隣にいる光をちらりと見た。光もまた、花火に照らされる凛を見つめていた。


 「凛、君と一緒にこの町で過ごす夏が、僕にとって特別なものになっているんだ。ありがとう。」


 光の言葉に、凛の心は温かくなった。母の思い出や、この町での新しい出会いが、自分にとっても特別な夏を作り出しているのだと感じた。


 「私も、光くんに会えてよかった。これからも、この町でいろんなことを一緒に経験したいな。」


 花火が次々と打ち上げられる中、凛と光は静かに手を取り合った。二人の間には、言葉では表せない強い絆が芽生え始めていた。夏祭りの夜は、二人にとって忘れられない思い出となり、その絆をさらに深める一夜となった。

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