第3話 秘密の手紙

 それから数日が過ぎ、凛は田舎での生活に少しずつ慣れてきた。朝は早起きして、祖父母の家の周りを散歩し、午後は町を散策したり、森の秘密の花畑を訪れたりして過ごしていた。そんな穏やかな日々の中、凛と光の関係も少しずつ深まっていった。


 ある日、凛は祖母の頼みで、家の掃除を手伝っていた。祖母が古い書類や手紙を整理しているのを見て、凛は懐かしい気持ちになった。古いアルバムや手紙には、祖父母や母の若かりし頃の思い出が詰まっている。凛は一枚一枚、手に取って眺めていた。


 「凛、お母さんの部屋も掃除しておいてくれる?もう使っていないから、片付けが必要なの。」


 祖母の言葉に、凛は少し驚いた。母の部屋に入るのは久しぶりだった。かつては夏休みに訪れた際、母と一緒にその部屋で過ごしたことを思い出しながら、凛は母の部屋へと向かった。


 部屋の扉を開けると、当時のままの状態で時間が止まったかのようだった。窓辺には風鈴がかかり、淡いカーテンが風に揺れている。凛は静かに部屋に入り、まずは机の上の埃を払った。その時、机の引き出しに何かが入っているのに気づいた。


 凛は引き出しをそっと開けてみた。中には一通の手紙と、古びた鍵が入っていた。手紙の封は開けられておらず、送り主の名前も書かれていない。ただ、「夏の日に」とだけ記されたその手紙に、凛は強く惹かれた。


 「これ、母さんの手紙……?」


 凛は少し迷ったが、好奇心に勝てず手紙を開けてみることにした。中には短い文章が書かれていた。


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 **「私がいなくなっても、この鍵を持ってあの場所へ行ってください。そこには私の想いが詰まっています。」**


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 この手紙が書かれたのはいつなのか、誰に宛てたものなのか、凛には分からなかった。しかし、「あの場所」という言葉が何を指しているのか、気になって仕方がなかった。


 その日の午後、凛は光と一緒に秘密の花畑を訪れる約束をしていた。手紙と鍵のことが頭から離れず、凛は光に相談してみることにした。森の中で待ち合わせた場所に到着すると、光はすでにそこに立っていた。


 「やあ、凛。今日はどんな冒険をしようか?」


 光の明るい声に、凛は少しほっとした。そして手紙と鍵のことを打ち明けた。


 「実は、家で掃除をしていたら、母の古い手紙を見つけたの。鍵も一緒に入っていて、『あの場所』って書かれていたんだけど、どこを指しているのか全然わからなくて……」


 光は凛の話を真剣に聞いていた。彼は少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


 「もしかしたら、その『あの場所』っていうのは、君のお母さんが大切にしていた特別な場所なんじゃないかな。この町には、そういう思い出がたくさん詰まっている場所がいくつかあるって、僕の祖父母も言っていたよ。」


 光の言葉に、凛は心が少し軽くなった。しかし、それでも具体的な場所がわからないままだった。


 「でも、どこを探せばいいのか……」


 凛がため息をつくと、光はにっこりと笑って彼女を励ました。


 「一緒に探してみよう。もしかしたら、君のお母さんがこの町で大切にしていた場所が見つかるかもしれないし、そうすれば鍵の意味も分かるかもしれない。」


 凛は光の言葉に勇気をもらい、二人で手紙に書かれた「場所」を探し始めることにした。夏の日差しが強く照りつける中、二人は町を歩き回り、母が過ごしたであろう場所を一つ一つ訪ねていった。


 夕方になり、町の風景がオレンジ色に染まる頃、二人は町外れの古い神社にたどり着いた。神社の境内には古びた石段があり、その先に何かがあるようだった。凛と光は石段を登り、ふと足を止めた。目の前には、小さな木製の祠があり、その扉には古びた錠がかかっていた。


 「もしかして……この鍵で開けられるんじゃない?」


 光の言葉に、凛は持っていた鍵を取り出し、祠の錠にそっと差し込んだ。すると、鍵はぴったりと合い、音もなく錠が外れた。


 凛は少し緊張しながら、祠の扉を開けた。中には、一枚の古びた写真と手紙が置かれていた。写真には若い頃の母が写っており、手紙にはこう書かれていた。


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 **「ここは私が初めてこの町で見つけた、大切な場所。もしもあなたがこれを見つけたなら、私の想いを感じ取ってほしい。」**


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 凛は写真を手に取り、胸に抱きしめた。母の若き日の思い出が、今、凛に繋がっているのだと強く感じた。


 「凛、君のお母さんは、この場所を本当に大切にしていたんだね。」


 光がそっと語りかける。その言葉に凛は頷きながら、母の想いを胸に刻んだ。


 「ここに来られてよかった……。ありがとう、光くん。」


 凛の言葉に、光は微笑み、二人は夕暮れの中、静かにその場所を後にした。母の秘密を共有したことで、凛は新たな絆を感じながら、この町での夏が一層特別なものになる予感がした。

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