第2話 風鈴と秘密の花畑
次の日、凛は朝早く目を覚ました。外からは小鳥たちのさえずりと、風に揺れる風鈴の音が心地よく響いていた。窓を開けると、清々しい夏の朝の空気が部屋に流れ込み、凛の心を静かに満たした。
「今日はどこに行こうかな?」
凛は、昨日出会った光のことを思い出しながら、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。彼とまた会えるかもしれないという期待が、凛の中で膨らんでいた。
朝食を済ませた後、凛は祖父に誘われて庭の手入れを手伝うことになった。祖父は、庭の一角にある小さな花畑を指さしながら、穏やかに語り始めた。
「あそこにある花畑、覚えてるかな?あれね、お母さんがまだ若かった頃に作ったんだよ。向日葵が好きでね、毎年夏になるとあそこにたくさんの向日葵が咲くんだ。」
凛は驚いた。母がそんなに向日葵を愛していたことを知らなかった。目の前に広がる向日葵畑は、まるで母の思い出が形となって残っているかのようだった。
「凛がここに来るのを、きっとこの花たちも待ってたんだね。」
祖父の優しい言葉に、凛はしばらく言葉を失った。しかし、心の奥で何かが静かに揺れ動いているのを感じた。母の残したものが、今の自分に繋がっている――その思いが、凛の胸に温かく広がっていった。
その日の午後、凛は再び町へと足を運んだ。昨日の駄菓子屋の近くで光に会えるかもしれないと思い、期待を胸に歩いていた。しかし、駄菓子屋の前に彼の姿はなかった。少し残念に思いながらも、凛はそのまま足を進め、町の裏手にある小さな森へと向かった。
森の中は木々の緑が生い茂り、涼しげな空気が漂っていた。凛は静かな森の中を歩きながら、子供の頃、母と一緒に遊んだ記憶を思い出していた。その時、遠くから風に乗って、鈴のような音が聞こえてきた。何かに引き寄せられるように凛はその音の方へと進んでいった。
音の源を探しているうちに、凛は森の奥にひっそりと隠れたような小さな花畑を見つけた。そこには色とりどりの花々が咲き乱れ、まるで別世界のようだった。花畑の中心には、大きな向日葵が一本だけ、堂々と立っていた。
「こんな場所、あったんだ……」
凛は驚きと感動で、しばらくその場に立ち尽くしていた。その時、背後から声がかかった。
「ここ、見つけたんだね。」
振り返ると、そこには光が立っていた。彼は昨日と同じ穏やかな笑顔を浮かべていたが、どこか誇らしげでもあった。
「この花畑、君が作ったの?」
凛が尋ねると、光は静かに頷いた。
「実はここ、僕の秘密の場所なんだ。誰にも教えたことがないんだけど、君なら喜んでくれると思って。」
光のその言葉に、凛は胸が温かくなるのを感じた。自分だけの秘密を共有してくれたことが、特別なことのように思えた。
「ありがとう、光くん。こんな素敵な場所を教えてくれて。」
凛が笑顔で答えると、光は少し照れくさそうに頭をかいた。
「もし良かったら、また一緒にここに来よう。向日葵がもっと咲く頃には、もっと綺麗な景色になるんだ。」
凛はその提案に大きく頷いた。彼と過ごすこの町での時間が、これからの夏をもっと特別なものにしてくれるだろう――そんな予感が、凛の中に生まれていた。
こうして、凛と光の間には、新たな絆が静かに芽生え始めていた。夏の日差しの中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。
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