第39話 ダークサイダージュン
「ほらよズボンを履け」
バサリ――。
騎士が投げたズボンを手に取り、俺は黙って足を通した。
ピチャン――。
暗い牢屋、暗い気分。
ダークな雰囲気が俺をその気にさせる。
これは……
ガチャン――。
「さあ出な……ぉぉっと」
「どうした、また口汚く罵らないのか?」
「……くっ。いや、止めておく」
どうやら溢れてしまっていたらしい。
騎士がたじろぐほどの殺気が。
イケない子だ。
まだ、暴れるには早すぎるぜ。
カツカツ――。
「くぅっ」
こんなにも眩しいのか……シャバってのは。
空気が澄んでいて、それでいて温かい。
今の俺には、毒だな。
「ジュン!こっちだ!」
そこにいたかお前ら。
悪魔の子。
淫乱ゆりウサ耳。
バカでいい奴。
俺の周りを囲むには相応しくないが、今は利用させてもらうぜ。
この
クックックッ。
クハハハ!
神よ、俺をこの世界によこしたこと、後悔させてやるぜ。
「フフフ。泣いてたんですかぁ?」
「怖かったぴょん?」
「熱いプロポーズに感動したんだな。分かるぞジュン!」
……このクソ共の手を、八つ当たりという血で染める、か。
罪悪感など皆無!
俺は、バッドガイなのだ。
ダークサイドに堕ちた、召喚勇者なのだ。
「またおかしくなったぴょん。クンクン……シンプルに臭いだけぴょん」
「生臭さなしねぇ。どうしたんでしょぉ、興味が湧いてきますねぇ」
「愛だよ二人共、ジュンは愛に目覚めたんだ」
……クハハハ。お前たちの言葉には耳を貸さぬぞ。
お前たちにいちいちツッコミを入れるのも疲れたのだ!
好きにボケ倒せ。そして!スベり散らかすがいいさ。
クハ、クハハ、クハ、クハ、クハハハハハハハ……。
「ふっ」
「……気取ってるぴょん。コイツなんか、クールを気取ってるぴょん」
「ふぅむ、歪んだ笑い方……クールというよりもぉ、まるで悪人ですねぇ。ワルを気取ったひ弱なゴブリンといったところでしょうかぁ」
「うーん、私は愛だと思うけどなあ。幸せな未来を想像してるんだろうきっと。そうだろジュン」
……。
…………。
………………。
「ジュン聞いてるのか?聞いてるのかジュン!」
「フフフ。女を知らない悪人ているのでしょうかぁ」
「ふぁぁぁ、コイツ面倒くさいぴょん。また牢屋に入れるぴょん」
はあ。ちょっとキャラ変したぐらいでグチグチ言いやがって……。
「このボケナスがぁぁぁぁ!イチイチうるせえよ!ちょっとカッコつけただけじゃん!いいじゃん無口になっても!そんな日は誰にでもあるでしょうがぁぁぁぁ!」
「あ、戻ったぴょん」
「さあ、換金は終わりましたしぃ、魔王領へ向かいましょうかぁ」
「ジュン……ふっ。カッコつけるのは、ザロッツの前だけにしろ。ハハハハ」
あーもう、何言ってもだめだー。
コイツらのメンタルバケモンだぁー。
俺が疲れちゃうよ。あームリムリ、抵抗するの止めます。
神ー?ちょっとふざけただけなんでー、すんませんしたー。
それとお願いなんすけど、コイツらの知能を500%増加してもろて、悪魔頭目の地獄成分を99%除菌してもろていいすか?
「っておい!ちょっと待たんかい!話があんだよ!ぇぇぇぇ、シカトはないでしょ、シカトはぁぁ!」
騎士団詰め所から出て、奴らの後を追った。
人の話も聞かず、ホイホイ歩きやがってほんと面倒くさい……ってあれ?
なんでプリッケギルドに、向かってんだ?
あれ?てかレイアの腰に剣が?あれ?荷車はどこいった?
「はあ、はあ、おいアホ共、荷車はどしたよ」
「臭いので捨てましたよぉ。その中にレイアさんの剣も入ってましたねぇ」
「うむ、荷車に盗賊を詰め込む時、剣までうっかり詰め込んでいたみたいなんだ。ハハハ、おかげで臭いのなんのって」
つーか、何がおもろいの?剣までうっかりって、そうはならんやろ。何をどうしたら腰から外れて荷車に積まれるんだって……ああ、アイツがバカだからか。筋は通ってるな。
「で、なんでプリッケギルドに向かうの?」
「おかしいと思いませんかぁ?名もなき村……ではなくてぇ、バイオ村近辺に盗賊が出たというのにぃ、なぜ放置されていたのかぁ。おそらく――」
「え?まさに俺は、その話をしようとしてたんだけど」
「……えぇ?」
「いやさ、牢屋で会ったんだよ。プリッケコウロン支部の元支部長さんと。で、盗賊団とプリッケギルドは繋がりがあるかもとか、国が貧乏だからあの村は見捨てられたとか聞かされて、本格的に盗賊狩りしたいなーと思って相談しようとしてたんだ」
「……うざッ」
「え?なに?」
「うざいですねぇ。私が話すはずだったのにぃ……まあ、聞きましょう。何かプランがあるんですよねぇ?」
あれ?あれれれれれれれれ?
ちょっと怒ってらっしゃる?
ほー。俺に先を越されたのがムカつくか。
アホだと思ってた俺が、すんごく賢くてお金持ちの私よりも、情報を持ってたことがムカつくか。
にょひょひょひょひょ。
反撃方法が分かったぜアドミラよ。
今後は、チクチクとイジメてやるから覚悟しやがれ。
ただし!今日のところは止めとく。疲れたからな、うん。
「プランはこうだ。盗賊を捕まえ、ボスの名前とアジトを吐かせる。
プリッケとの繋がりも吐かせれば最高だが、無理ならアジトで証拠を探せばいい。
んで、王都支部のエルフ支部長を捕まえて、牢屋に囚われてるイリャワトソン君の無実を証明させる。どうだ?完璧だろ」
「……まぁ、良いんじゃないですか」
おーっと!ドS陥落だぁぁぁ!
神よ感謝します!コイツの攻略法完全に把握です!マジアザした。
「で、でもぉ、盗賊が吐かなかったらどうするんですぅ?」
「……スカムを捕まえて吐かせようぜ。アイツがボスか幹部なはずだし。下っ端盗賊を捕まえるのは、証拠固めだからな」
「……スカムですかぁ?」
「盗賊団の名前【ムカスムカムカ】だぞ?どう考えたってスカムと関わりあるだろ」
「……ぅん?」
「【ムカスムカムカ】文字を入れ替えると、【スカムカムカム】だろ?まあもし、スカムが無罪だったら土下座してやるよ、それぐらい自信ある」
「……ぅん」
「え?」
「そのプランでいいんじゃなぃ……」
あれ?あ、ほへ?
くぁわ……くぁわう、くぁわうぃぃぃいい!
ドSが見せていい顔じゃねえぞそれ。
な、なんだこのときめきは。
くはっ、忘れてた。
コイツは可愛いんだ、顔面もスタイルも完璧なんだ。
性格がウンコなだけで……惑わされるな俺。
「ア、アドミラも盗賊捕まえる気だったんだろ?なのに、なんでギルドに行こうとしてたんだ?」
「この国にあるプリッケギルドの中で一番弱くてぇ、一番妬んでそうだからですぅ」
「妬む?」
「盗賊団に道は奪われてぇ、冒険者も依頼もぉ、よその支部に根こそぎ奪われたんですよぉ?」
少なくとも、王都からこの町に来たがる人はいないだろうな。盗賊団のいる場所を通らなきゃダメなわけだし。迂回してこの街に来るぐらいなら、よその町やらギルドに行けばいい。
そうなると、依頼は減り、依頼が減ると冒険者も減る。
トドメは王都支部の誕生か。
ここに来る必要はもはやない。
そりゃあ弱るし、そりゃあ妬むだろうな。
「その隙につけ込んでなにかしようって?」
「……このギルドを奪いたいなぁと、どう思いますぅ?」
「ど、どう思う?」
「ジュンさんの意見が聞きたいですぅ」
……ほっ、ほう?
悪くないなあ。そう素直に来られると、憎めないなあ。
「ビリガンギルドの支部にするってことだろ?良いと思うけど、案は?」
「説得ですぅ」
「はあ、まあ自信あるならどうぞ」
「ありがとうございまぁす!」
……素直だな。
いや素直すぎるな。
途中までは、敗北により屈服したのかと思ったが、これは変だな。
そうだ、良く思い出せ。
奴は悪魔だ。俺の攻撃を受けて、黙ってると思うか?
来るッ!
今はまだ見えないが、必ず来るッ!
デカい一撃が。
「早速行きましょうかぁ」
「……アドミラたん、なんの話してたぴょん?意味がわからなかったぴょん」
「小難しい話は、ジュンとアドミラに任せれば良いんだぞ、シェリス」
カランコロン――。
3人はプリッケギルドのへと吸い込まれていった……。
そんなバカな。
俺は、無傷だと!?
時間差攻撃か、それとも……忘れた頃に、きつい一撃を見舞う気なのか!?
分からない、ドSの思考が分からない。
まあいいや。
これ以上考えても、無理だあー。
カランコロン――。
「……よーこそー、プリッケギルド、コウロン支部へー」
クソやる気のない受付嬢に出迎えられ、俺はプリッケギルドへ潜入した。
今思うと、まともなギルドに足を踏み入れたのは初めてだな。
異世界のギルド……か。
まず出迎えるのは、頬杖をついたケバい受付嬢。たぶん独身で、いい男を見つけた瞬間、愛想を振りまくタイプだろう。
左端のスペースには、テーブルと椅子が並べられて、メニュー表らしき、立て看板まで出ている。
軽食屋かな?
その奥にはまたカウンターがあり、左は飲食で右は買い取りと書かれてる。
なるほど、買い取りもしてくれると。魔物とか売れるんだろうな。
……うん、ガラガラだ。
テーブルに顔をつけて、ぬるそうなジョッキを突いてるおっさん。
受付前に並べられたソファーで、キャッキャウフフしてる男女。
以上。
想定を大きく下回る風景だ。
「ジュン!支部長に会えるぞ!」
受付前にいるレイアが、俺を呼んでいる。
めんどくさそうに、奥へ消えていった受付嬢は、支部長を呼びに行ったのだろう。
こんだけ暇なら、支部長に会うのもチョロいか。
受付前で待機してると、受付嬢が気だるげに奥から戻ってきた。
そんで俺を一瞥して……。
「こちらでーす。どーぞー」
お眼鏡にはかなわなかったようだ。
――――作者より――――
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