第38話 プロポーズ

「ザロッツ、ザロッツ・ローワンだ。ジュン、もっと声を聞かせてくれ」


「……レイア、どうして連れてきた」


「ジュン、彼の想いを聞いてやれ。本当に、涙が出るほど熱い男だぞ。聞いてやれジュンッッッッッッ!」


あれ?コイツ、すんげえうぜえや。

今までいい奴だと思ってたけど、バカもここまで来るとうぜえや。


俺が誰から逃げたと思ってんだ。

なんであの銭湯から逃げたと?

なんでアドミラにブチギレたと思ってんだ。


ちょっとは頭を使わんかい!


「ジュン、俺は全て聞いたよ」


「何を聞いたか知らんすけど、俺は女好きのド畜生で、えげつない数の女で抜きまくってるドスケベです。男に興味はねっす。悪いなラディッツ……じゃないや、ザロッツ」


「君は、まだ心に嘘をつくのかッ!」


はい?


雄汝禁教オナンキンきょうの敬虔な信徒なんだろ?女には触れたこともないはずだッ!」


くっ……悔しいが触れたことはないッ!

そして雄汝禁教オナンキンきょうは関係ないのが、また悔しいッ!


雄汝禁教オナンキンきょう徒が、あんな場所に来るはずない、来てはいけない。戒律があるから……でも君は、我慢できなかったんだろう?苦しくて、癒してほしくて、つい足が向いてしまったのだろう」


「いいえ違いますあれは嵌められたんですドSキチゲエ悪魔の巧妙な罠にしてやられただけのこと。俺がポンコツでしたこれからは注意して生きますアザした」


「そうか……性欲を悪魔の罠だというのか」


「いえそうは言ってません。いつの時代ですか中世暗黒時代っすか」


「分かった。絶つよ。禁欲する」


「……どうぞご勝手に」


「そして雄汝禁教オナンキンきょうに入信するッ!君のために!」


「……どうぞご勝手に」


「まだ疑ってるんだな。俺が……風呂屋で淫らな行いを求めるような俺が、雄汝禁教オナンキンきょうの戒律に耐えられるのかと」


「いえ――」


「耐えてみせる!」


……コイツ何を一人で盛り上がってんだ。

雄汝禁教オナンキンきょう?勝手に入れよ。

宗教なんて、誰かの許可を得て入るもんじゃないでしょうが。


「ジュン、まだ分からないのかッッッッッッ!お前のために、雄汝禁教オナンキンきょうに入信するんだぞ!?」


「いや、聞いてたよ。分かってるよ。何をそんなキレることがあんのよレイアさん」


「彼は……みそぎを受けなければならないんだぞッ!」


「み、みそぎ!?とはならんやろ。受けたらいい、頑張ってー」


「お前って奴は!ジュン!素直になれ!」


うん?なんで俺が悪者みたくなってんのよ。

レイアのこの剣幕、ただ事じゃないのは何となく分かったけど、みそぎってあれちゃうの?

水被って、護摩行ごまぎょうしてとか。

水に沈んで洗礼するとかじゃないの?


「聞いたことがありますねー。雄汝禁教オナンキンきょうみそぎは過酷だと。止めたほうがいいですよ、最悪命が……」


イリャワトソン!?お前まで入ってくんの、この会話に!?


「それでも俺は入信するッ!ジュンを……ジュンを愛しているんだッ!」


ぐっっっっっ、どうもすんませんねえ!

こっちはノンケなんすわ!ストレートなんすわ!

愛してると言われて、嬉しいのは嬉しいけども、アンタには1ミリの興味もないんだわ!すまん!


って俺言ってるよね?

女好きだって言いました。アンタに興味ないとも言いました。

ハッキリキッパリスッパリ言いました。

え?これでもダメとか、なんの呪いなん?


「僕の聞きかじりの知識だと、雄汝禁教オナンキンきょうみそぎの儀式は、三段階の工程をこなして達成される、荒苦行だったはずですねー。

まずは聖水で穢れを流し清めます。穢れを落とすため、何度も聖水に浸され中止はできない。何名も死んでいるとか……。

そして次は1週間の断食、断水、不眠、不臥ふが(横にならない)を行い、密室でろうそくだけを見つめ続ける。唯一ろうそくの交換時のみ、立つことが許される、過酷な工程です。

そして最後は……最も苛烈で最も陰湿な試練」


すんごく気になるんだけど!?

お前、分かってるな見せ場を!


誘導されたみたいでムカつくけど、聞かずにはいられなかった。


「それは?」


そしてイリャワトソンが答えたのは、恐るべき試練だった。


雄汝禁教オナンキンきょう教会の祭壇に、晒されます……全裸で」


「ふざけてる?イリャワトソン君、ナメてる?」


「イリャワです。聞きかじりなので、間違いかもしれませんが……祭壇で晒される24時間は、信徒たちからヒドイことをされるとか」


「ヒドイことって、終わってんな雄汝禁教オナンキンきょう徒」


「え?ジュンさんも雄汝禁教オナンキンきょう徒なのですよねー?」


「あ、ああ、まあな」


「ならご存知でしょう?ヒドイこと、をするのは俗世にはびこる欲を断つことができているか、試すための行いだと」


「……ああもちろん。知ってる」


「ならなぜ止めないんですッ!ザロッツさんが辱めを受けるのですよッ!どうして彼の想いを……ぅぅっ、彼があまりにも可哀想だ、うゔ」


……この世界を破壊したい。

少なくとも、コイツら全員ぶっ飛ばして、走って逃げたい。


お前ら全員間違ってんだよ。


俺の想いはどこいったんだよぉぉぉぉ!


「ジュン……君は言ったね。本気になりたくないと」


「……忘れてください。アレは嘘です」


「本気になってしまえば、己の信じる神を裏切ることになる。それが不安だったのだろう!」


「違うっす。嘘ですって、全部嘘。俺は女の子大好きな変態なんですよー」


「そうか。君は強情だ。でも心配するなジュン。俺が雄汝禁教オナンキンきょう徒になって、君を安心させる。本気にさせてみせる。その暁には……結婚しよう」


「……話聞いてます?」


コイツも、そうだがアホってのは人の話を聞きながらねえ。

なぜだ、なぜなんだ!

頼むから俺の話を聞け!女が好きだって言ってんだろ!


「おいジュン!お前こそ話を聞いてるのかッッッッッ!雄汝禁教オナンキンきょう徒になれば……結婚できるんだぞジュン。神を裏切ることもない、良かった。幸せになれ」


「ジュンざん゛、じあわぜに、なっで……ぅう゛ぐだざーい」


……。

…………。

………………。


「ジュン、俺は行ってくる。ビリガン冒険者ギルドに手紙を出すよ。必ずね。だから、返事をくれよな……愛してるジュンッッッ!」


ダダタダッ――。


「不安を隠して……行ったか。ジュンを本当に愛しているんだな」

「ぅぅぅ゛、感動だ。感動じだっ!」


……。

…………。

………………。


「ところでジュン、牢屋から出たいか?いやな、アドミラが許してやっても良いと言っててな。ただし、ちゃんと謝るんだぞ!ああそれと、ザロッツの手紙に返事をすることも忘れずにな、ハハハ」


……。

…………。

………………。


「ジュン?聞いてるか?」


「レイアー、牢屋から出してくれー」


「あ、ああ。ボーっとして……ははあ?のぼせてるのかハハハ。待ってろ、騎士を呼んでくる!」


ダダダッ――。


「ジュンざん、もう盗賊の件はわずれて……幸せになって――」


「おいイリャワ」


「は、はい」


「盗賊は俺が根絶やしにしてやる。王都支部のエルフも全員ぶちのめして、換金する」


「いやでも……そんな危ない橋を渡らせるわけには。これから幸せな人生があるって――」


「おいイリャワ」


「は、はい?」


「次、幸せって言ったら、マジで殺す。これはおふざけでも、シャレでもジョークでもねえ。本気と書いてマジだ、分かるな」


「……は、はい」


アドミラにはもう手を出さん方が良い。これ以上に、アドミラが喜びそうなこととなれば、ゴブリンに犯されるとかそんなんしか思い浮かばんからな。


あのザロッツにしても、アホだが悪いやつじゃない。

レイアもアホだが、いい奴だ。


だから……ムカつくんだよぉぉぉ!


八つ当たりしてやる。

盗賊、お前らには地獄を見せてやるからな!絶対に!





――――作者より――――

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