第37話 運命の人ジュン

「アドミラァァァァァァァァッ!てめえコラぁぁぁ!ぶっ殺してやらぁぁぁぁ!」


大股開きで悪魔へ近づき、胸ぐらを掴み上げた。


このボケだけは絶対許さん。


「こわ~い」


「俺のほうが怖かったわ!掘られかけたんだよこっちはよぉ!なにが、こわ~いだコラッ!ふざけんじゃ――」


えぇぇぇぇぇぇ?なんで?どうしてこうなるのぉぉぉ?


「止めろジュン。手を離せ」

「私の腕で堀り殺してやろうかゴミが」


ジャキン――。


「騎士団詰め所での狼藉。愚かだな」

「変質者1名!婦女暴行の現行犯だ!」

「手を離せ変態!」


レイアとシェリスに睨まれ、騎士たちの剣が顔面に向けられ、俺は……詰んだ。


「フフフ。本当に面白いですねぇ」


「……んはぁぁぁぁ!神様ぁぁぁ!こんなの間違ってるってぇぇぇ!」


「変質者確保ッ!」


こうして俺は、騎士団に捕まった。

婦女暴行する変質者……もはやただの変態犯罪者として。


ガチャン――。


「ここで大人しくしていろ、ド変態」


「誰がド変態だハゲ!一生髪が生えないよう神に祈っとくぜ!」


「これは遺伝だッ!先祖代々からイジりおって!ただじゃおかんぞ!」


「ヒィッ、す、すんまそん。ちょっと、気が立ってて、すんまそん」


ガチャン――。


ちっ。最悪だ。

まったく暗くて、牢屋内はほぼ見えない。

唯一の灯りは、鉄格子の向こうっかわにある、ろうそくだけ。

石床ってことは分かるし、なんか湿ってるのも分かる。


ガシャリ――。


俺の手には重たい枷がつけられて……ズボンすら履かせてもらえなかった。

SMプレイ中にパクられたとかじゃない限り、こんな格好で捕まっていい人間はいないと思うんだ。


ピチャン――。


地下は涼しいもんだけど、湿気も多い。

だから水滴が垂れて、床に広がってんだろうな。


「っしょ、ちべて」


パンツオンリーのケツには、ちょっと刺激が強すぎた。

だが突っ立ってるわけにもいかんしな。

どうせ座るんなら、今座ったほうがいいに決まってらあ。


「おーい、誰かさーん」


「ひやっ、だ、誰だ!悪霊退散!悪鬼滅殺!鬼滅◯刃!」


「隣の牢屋ですよーお話しましょう。暇でしょう?」


か細い声が聞こえてきた。

あの声量は、ほぼ幽霊。ゴーストバス◯ーズを呼びたいとこだが、一旦話を聞いてみよう。


「なんすか?誰すか?痴漢ですか?」


「あ、あれー?声だけで痴漢て決めつけるのはヒドすぎるよー。僕はイリャワ・カルゥト、元コウロンギルドの支部長ですよー」


「支部、長?アンタ、プリッケギルドの支部長さん!?」


「ええ。なにか?」


「なにかって、昨日からギルド戦争始まってますけど、ご存知でない?」


「あ、はい。長らく投獄されてましてー。かれこれ2年ほど……」


「2年!?」


こんなとこに2年……。気が狂ってもおかしくねえぞ。

つーか、2年って知ってるのはなんでだろ。

壁に爪を立てて、日数を数えてた的な?ものすごい執念的な?

それはもう幽霊じゃん。


「取り憑かないなら、このまま話を続けます。取り憑く気なら、俺は今すぐシコって寝ます」


「シコ……ああ!取り憑かないから、ていうかエルフなんで、生きてるんで、取り憑けないんで」


「エルフ?ほう、王都支部にもいましたなエルフ。奴は性悪でしたけど、アンタもその口?」


「違いますよ!王都の支部長って言えばマリアさんですねー。あの人はたしかに性悪です」


「……その心は」


「あの人に嵌められてここにいるんですよー。横領の罪を着せられちゃいましてー」


「ハメら……ああ、そっちか。ふーん、なんか恨み買ったんすか?」


「はい。この辺を縄張りにしてる盗賊団【ムカスムカムカ】ご存知ですか?」


「ああはい。さっき換金してましたよ」


「換金?ああ、え?捕まえたんですか?」


「はい。俺の純情を弄んだ日本人の女と、その他6名っすね。それがなにか?」


「その盗賊団と、プリッケギルドに関わりがあるのではと思い調査していたんです。その直後ですよー、僕が捕まったのは」


「ざっくりしすぎ……っすね。そもそもなんで盗賊団とギルドの関係を疑ったんすか?」


「長い話になりますけどーいいですよねー。どうせ暇ですし」


「……まあ、そっすね」


「僕は――」


まあ長命種のエルフだから、クソ長話もお手の物ってとこなんでしょうが、いやー長い。

長かったので、ものすんごく割愛して、ものすんごく要約すると……。


ジ◯リババアが言ってた通り、バイオ村のあたりには通商路があったけど、あったがゆえに盗賊団が襲うようになった。

ほんとなら国が対処すべきだが、万年貧乏のハゲ散らかした国なので、騎士派遣を渋り渋り、渋りまくっていた。

で、盗賊団は増長し、通商路はほぼ破壊されたと。

その直後、新たな通商路が整備され始め、ほぼ同時期にプリッケ王都支部が誕生したと。


これだけなら、ただ単にバイオ村可愛そうって話だが、それは着眼点がズレにズレている。

なんでバイオ村は放置されてたのか、そこが問題。


国が見捨てたのは良くないけど、理由はわかる。

それならば他の組織が助けるのでは?例えば冒険者ギルドとか。

バイオ村に近いコウロン支部は、王都支部ができるよりも前から存在してたのに、盗賊はなーんで自由に動けた。

バイオ村や近辺の村々から、盗賊団の討伐依頼は出てたらしいが、一向に討伐できなかったのは何故か。


あれれ?おかしいなあ、と思ったイリャワ・カルゥト元支部長は、調査を始める。

で、いわれない罪でパクられたと。


「証拠は見つからずっすか?」


「はい。でも状況を見れば明白ですよねー。盗賊は一向に駆逐されず、むしろ勢力を増していたんですから、冒険者が与していたはずなんです」


「……たしかに。調査直後にクビって、組織ぐるみって自白してるようなもんすけど。そんなことしますかね?」


「僕が一番良くわかってます。やってないものはやってないんです」


犯罪者はみんなそういう……と言うが、2年も投獄されてんだから、今さら隠す理由もないんじゃね。

この人はマジで白なんじゃないだろうか。


ふむふむ。

この、ジュンロック・ホームズ、わくわくしてきたぞ。


「国も関与してるのでしょうね。あえて盗賊をパクらず、新通商路を敷設した。プリッケギルドと共謀してね!なーに、簡単な推理ですよ」


「いえ、それはないです」


「え!そ、その根拠は」


「国が貧乏なのは昔からで、王都ばかりに騎士が集中しているのも昔から。それに、新通商路敷設に一番苦情を入れていたのは、プリッケギルドです」


「……ん?通商路って大きな道ができれば、ギルドもウハウハっすよね?依頼が増えて冒険者も増えるじゃないすか」


「ギルドがある町を経由する形で、通商路を敷設しようとしたので、苦情を入れたんです。ギルドの威を借りて盗賊を追い払おうって魂胆が見え見えじゃないですか。でも手打ちになりましたねー」


「二八蕎麦?十割ですか?」


「……へ?蕎麦ってーなんです?」


「すみませんふざけました。手打ちの対価はなんですか?」


「ああ、それはギルドの土地ですよー。新通商路に面する土地を譲ってもらったんでしょうね」


「ふーむ、名推理だ。どうです?これからワトソン君として働くというのは」


「ワトソン?いえ、僕はイリャワ・カルゥトです」


「そすか。で、これからどうしたいんだい?イリャワトソン君」


「……無実の証明と、盗賊とギルドの関係を立証したいですよー。でも鉄格子の中じゃあ、無理ですねー」


「よし、分かったあぁぁぁあッ!」


「ひっ、ど、どうしたんです急に」


「このジュンロック・ホームズ、イリャワトソン君の依頼を引き受けようと思うぞ」


「だからイリャワなんですけどー」


「それと、盗賊団のボス……というか、幹部なのか?まあ、偉い人間なのは間違いない。ソイツ知ってるぜ」


「ええっ!?誰です?」


「スカムだ。【スカムカムカム】【カムスムカムカ】バカがつけたパーティ名だとは思ってたが、アナグラムまでバカとはな」


「スカム……いました。僕が支部長時代にコウロン支部にいました」


「今は王都支部でっせ」


「……でも、それだけじゃあ証拠にはなりませんよねー」


「今から見つけるんだ!イリャワトソン君!ここから出るにはどうしたらいい!?」


「止めたほうがいいですよー。半殺しにされますからー」


「よしっ!大人しくしておこう!」


カツカツ――。


すると、タイミング良く足音がした。

騎士がいびりに来たんか?

俺は屈しないぞ、このジュンロック・ホームズ、軽やかな皮肉で貴様に「くっ」と言わせてやるわ!


「ジュン!おいジュン!」


「レイア?」


やってきたのはレイアだった。

騎士……ではないな。


「どしたよ?ああー俺の釈放が決まったか。そうだよな、あれはあの悪魔大元帥が悪い――」


「いや違うぞ。お前にどうしても会いたいという人を連れてきた。どうか、どうかこの人の想いを受け取ってくれジュン!とても、熱い想いを持った御仁だぞ!」


「……ん?」


カツカツ――。


再び足音がした。

レイアの背後からやってきたのは、ぼんやりした人影だった。

レイアよりも背が高く……がっしりした……。


「ジュン……」


「あ、アンタは」


灯りが、ぼうっと揺れる。

そのたびに照らし出される、その面影に俺は見覚えがあった。


「ジュン、ああジュン。ジュンという名だったのか」


ガシャンッ――。


鉄格子を掴む手は、とてもゴツゴツしていた。


なんというか、職人の手?


「会いたかったよジュン!たとえ君が悪人でも、俺は君を見捨てたりはしない!だって」


いや止めろ。それ以上はよせ、止すんだぁぁぁぁあ!


「――運命の人なんだからね」


ソイツは銭湯で、背を流してくれた男だった。

なぜか泣いているが、俺も泣きそうだよ。


ああ、俺がこんな言葉を口にするとは……。

でも言いたい言わずにはいられない!


「くっ、殺せ」






――――作者より――――

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