第35話 コウロン町
「人間はみんな臭いッ!私たちも風呂に入ってないんだ、十分臭いぞ!ジュンばかりいじめるな!」
と、レイアは庇ってくれてるわけだが、もう止めちくれ。
お前の優しさが逆に辛いんだ。
もしかしてイジメてる?実は全てを知ってて、俺をズタボロの雑巾みたくしようって魂胆なのか?
いや、考えすぎだジュン。
そんなわけないだろう?見てみろレイアを。
「私の脇を嗅いでみろ!臭いぞ」
「分かりましたからぁ、離れてもらえますぅ?」
「ああ、はあ、はあ、すんすん。レイアたんの、はあはあ、ニオイ。好きぴょん」
アレがアイツだ。
人に脇を嗅がせるあの姿こそ、真に優しき人間の姿なんだ。
24時間テレビも、レイアを出演させたらいいんだ。誰も文句は言わないぞ。
ガラガラ――。
「……はっ!?止まれ!コウロン町へは何用か」
突っ立っていた警備の騎士が、あたかも今気づいたかのように、質問してきた。
ここいらは見通しがいいぞお。
遠くからでも見えただろうに。
俺たちが近づく間、何を考えて立ってたんだろう。
もっと早く声をかけてくれてもよかったぜ。
「この人の下着を洗いに来ましたぁ」
「うん?下着?んー、たしかに臭うな。腹でも下したか」
「あ、いや、それはこっちの荷車の臭いです。あ、でも俺の顔もこの臭いで、ああああ、説明が……そうです!漏らしました!」
「そうか、町を汚さぬよう気をつけろ。通ってよしッ!」
雑だな!今のやり取り必要だったか?
もういっそのこと、カカシでも置いとけよ。
「フフフ。何を漏らしたんですぅ?」
「……下ネタ好きだなお嬢様」
「下ネタ?なんですそれぇ。女子と卑猥なお話できて嬉しいんですぅ?」
「……もうヤダ」
もうヤダァァァァァァァァ。
だって仕方ないじゃないか!
二日生殺しだったんだぞ!我慢しろって方が無理だろ!
は?俺なら我慢できるし、とかふざけたこと抜かすやつは、頼むからここに来てくれ。
もう俺のチンコを切ってくれ。
こんなの地獄だよ。
俺のハーレムはどこに行ったんだよぉぉぉ!
「ほう、ここにもプリッケギルドがあるのか。どこにでもあるな」
臭え荷車を引きながら、レイアはとある建物を見上げた。
『プリッケ冒険者ギルドコウロン支部』
バイオ村よりは栄えてる町だが、こんな町にもあるのか。
王都の支部よりは明らかにおんぼろだが、ビリガンギルドよりはしっかりしてらあ。
「ジュンさん?もう行っていいですよぉ」
「行くってどこに」
「
「……いえ行きません。あ、洗ってこいってことですね。どこに行けばよろしいので?アホなんで教えていただけますか」
「フフフ。向こうの風呂屋なんかどうですぅ?」
「風呂屋があんのか。へぇ、いいねって、え?」
ジャラリ――。
アドミラは、女優帽中に手を突っ込み、革袋を取り出した。
しかもそれを、俺に……。
何がどうなってんの?
「どうぞぉ」
「いやどうぞじゃなくて。その帽子なに?なんでこんな大金くれんの?」
「この帽子はぁ、収納魔法つきの帽子ですぅ。じゃあ私たちはぁ、換金してきますねぇ」
「え?ええ、いやお金が……」
多くね?
全てを言い終える前に行ってしまった。
スーパー銭湯って、高くても500円ぐらいだろ?俺んちの近くのは300円だったし。
これどう考えても多いだろ。
「財布ごと預けたと、そういうことか?」
いやない、アイツに限ってそれはない。
「これで足りますかねぇ」とか言って50ゴールドぐらい手づかみで渡すとかするはずなのに。
なぜ財布ごと!?
怪しいぞ、奴め何か罠を張り回せているに違いない間違いないッ!
「……けど、考えてもわからんし。まあいいか!」
分からんもんは分からん。
とりあえず俺は、風呂屋へ行ってみることにした。
寂れてるって言っても、そこそこ人はいるもんで、騎士もちらほら……。
あれ、俺って指名手配とか……されてないわ。
王都に入らなきゃ、いいんだった。
武器屋も薬屋もあるみたいだ。
おお、ここに来てようやくファンタジー演出きたかよ。
後でどっちも行ってみよ。剣が欲しいだろ?ポーションとかあんのかなー。
悪魔祓いの葉とかあれば欲しいなあ。
それか性欲鎮めの丸薬とかな。
「ほう、ここが風呂屋ですかい」
こじんまりした入口で、町の端っこという立地の悪さ。目立たないことこの上ない。商売も大変だろうなあ。
でもまあ町が小さいから、立地関係なく、来る人は来るんだろうな。
少し緊張しながら戸を開けた。
ガラガラっと、懐かしい日本を思い出させる音がして、早速好感が持てた。
「いらっしゃい。んあ?見ない顔だな」
「あ、あはい。初めてでして……体を流したいなと」
「初めて……ねえ。そしたら向こうの風呂使いな」
カウンターにちょこんと顔を出すおっさんは、左側の通路を指さした。
「ああ、はい。お金は……」
「初めてならまあ、3ゴールドだ」
「……はい、どうぞ」
「ちょうどだな。自己責任だから、俺は呼ぶなよ」
「……自己責任?」
「なんだ、文句があんならよそ行きな」
「あ、いえ。はい、分かりました。気をつけます」
うえー、頑固親父って感じで怖かったわ。
初めてなんだから、ちったあ優しくしてくれよ。
つーか、なんだろうなこの違和感。
おっさんの言葉の端々に、ちょっと引っかかったんだよなあ。
初めてで、通路は分けんやろ。
男女別な。
最後の、自己責任ってのもよーわからんし。
滑って転ぶなよ的なことなんだろうか。
まあまあ、大丈夫っしょ。
初の異世界風呂楽しみや!
短い通路の突き当り、ドアを開けると脱衣所があった。
至って普通だ。棚があって、ご丁寧に扉まだついてる。
セキュリティ概念があるんか?とも思ったが、鍵はなかったので、プライバシー概念のみがあるようだ。
俺は服を脱いで……あ、服がねえや。
ああッ!服も買えよってことだったか。
俺は服を着直して、カウンターのおっさんのとこへ。
「すいません。この辺に服屋ってあります?」
「服?ここにあるぞ。全部か」
「ぜん、あ、はい。全部というか一式欲しいです」
「用意がよろしいこって。ほらよ30ゴールドだ」
30ゴールドだと!?
このちんちくりんの服が?
なんだコレ、素材はなんだ。変な魔物の毛とかじゃねえだろうな。
まあでも、しゃあない。
「ちょうど」
「どうも」
俺は来た道を引き返しながら、やはり気になった。
「用意がよろしいこって」とは?
むしろアンタのほうがよろしいぞ。商才あるよ。
変わったおっさんなんかな。
近所の名物おっさん的な人なのか?
色々と考えながら、俺は服を脱ぎ洗面所へ。
マナーが良くないのは重々承知の上で、服を洗わせてもらった。
特に下着は念入りにな。
ギュッギュッと絞っていると、隣にも一人やってきた。
まあ別に、まじまじと見る訳ではないが、なんか気になった。
なのでチラリと水が流れるところをみると、ソイツも服を洗ってた。
てか、パンツ?
まさかお前、同志なのか!?
ハッとしてソイツに目を向けると、まあまあ若い奴だった。俺と同じぐらいの年齢かしら。
「……うす」
「ああ、ども」
気まず。これはしくじったな。
話すべきでなかったやもしれぬ。
俺だって、パンツを洗ってる時に声かけられても困るし。
絞りの甘さが気になったが、まあ仕方ない。
服をロッカーに速攻で叩き込んで、ひとっ風呂行きたい気分だった。
くるりと踵を返して歩き出そうとした瞬間、奴が話しかけてきた。
「もう終わったんです?」
「……あ、いやこれからっす」
「ああ、そうなんですね。残念だなあ」
「……残念?」
「また次の機会に、
「……はあ」
はあ?意味がわからんて。
なんやコイツ。
まあ、いいや。早く全身流したいわ。
汚物の臭いがするし、鼻の奥には自分の吐瀉物のニオイがこびりついてるし。
いやー今日は散々でしたな。
バタムッ――。
とりあえず服を叩き込み、俺は風呂へと足を踏み入れた。
――――作者より――――
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