第33話 それぞれのスキル

「私のスキルはぁ、一般スキル【速読】【家庭料理】、種族スキル【探検家】ですぅ」


「……はあ。効果は?」


「【速読】はぁ、書物を一瞬で読めるようになりますぅ。パッシブで文字習得も早くなるのでぇ、外国語習得は得意ですよぉ」


「一番気になるのは種族スキルなんですけど。【探検家】じゃなくて【サド女優】の間違いじゃないのか?」


「試してみますかぁ?ジュンさんの体を探検してもいいんですよぉ?」


「さあどうぞ。できるものならやってみな!顔面からすごい臭いがするだろうけど……さあ!探検してみたまえ!」


「……【探検家】の効果はぁ」


ふっ、勝ったぜ。

初めてじゃなかろうか。このキチゲエを成敗してやったのは。

ふむふむ、なかなか心地よいぞ。


「パッシブで恐怖を低減しますぅ。アクティブではぁ、魔力を半分消費して馬鹿力を出せますよぉ」


「……馬鹿力?なんか雑だな。具体的にどんぐらいの力なんだよ」


「うーん一説にはぁ、ドラゴンの首をへし折ったなんて話もありますねぇ」


「はっ!?マジで?最強じゃん」


「人によりますよぉ。その方はもともと強い冒険者さんですからぁ、首をへし折れるだけよ素養があったってことですぅ」


「すげえな。で?アドミラはどんぐらいの力が出せんのよ」


「使ったことありません」


「なぜ!?絶対使いたいだろそんなスキル!」


「普段抑制されてる力を、スキルで解放するから馬鹿力が出せるんですぅ。使った場合はぁ、まともに動けなくなると、本には書いてありましたよぉ」


「なるほど」


スキルがパワーアップさせてくれるわけではなくて、スキルがリミッターを外して、本気を出せるようになるってことか。


でも悪くないスキルだな。

……ん?

コイツさらっと言ったけど、パッシブは恐怖の低減だって?

ドSに怖いものがなかったら、どうやってコントロールすればいいんだよ。


はあ、今思い返せば、そういやそうだな。

戦わないとか抜かす割には好戦的だし、敵を煽るし。

そもそもビビってないから、あんな事が出来たのか。

しかも本人は、それが楽しくて仕方ないと。


可愛い顔してるから【探検家】なんてスキルあげたんだろうけど……神よ、大きな間違いだ。

コイツ、人類を滅ぼしかねない悪魔だぞ?


「興奮してますぅ?」


「してねぇわ!次ッ!シェリス!君のスキルを発表しなさい!」


「いやぴょん」


「はあー?ノリ悪ッ。ぴょんぴょん言うくせにノリ悪くッ」


「関係ないぴょん」


「……」


え?マジで言わないつもりか?

言いにくい系のスキルなのか?

【暗殺者】とか?ああ、いやシェリスなら【魅惑のバニー】とか【百合の花】とかあり得るな。うん、あり得るし、それはもう……聞くだけで、ぴょんぴょんしちまうな、うん。


「シェリスちゃん?あんなに激しくしたのに、言わないのぉ?」


チュパッ――。


アドミラはシェリスを見つめながら、自分の指をいやらしく……それはもう淫靡なまでに舐め回している。


それ止めてくれ。また荷車に顔を突っ込まなきゃならんだろ!


「……わ、分かったぴょん。私の特殊スキルは【金勘定】で、種族スキルが【聞き耳】だぴょん」


ほうほう。

【聞き耳】は何となく分かるな。耳が良いのは、バイオ村で証明済みだし。

だが【金勘定】は気になるな。商才があるとかそんなんか?


「一般スキルはないのぉ?」


「……なぃぴょん」


「シェリスちゃん?」


「……言いたくないぴょん」


……なんか、いや、あれ?

キャラに似合わずマジで嫌がってね?


「ちょっと待ってくれみんな。無理やり言わせるのはよそう。シェリスが嫌がってるじゃないか」


「そ、そうだな。まあ、アレだ。おいおいな、言えそうな時に言ってくれればいいんじゃね?」


まさかここまで嫌がるとは……。

クソッ。とても気になる、とてつもなく聞きたい。

だが俺の紳士ジェントルマンな部分が、紳士ジェントルマンたれと叫んでやがる。

諦めるしかない、か。


「ダメですよぉ。ちゃんと教えてくれないとぉ。フフフ」


「……ぃやだ」


「シェリスちゃん、もう知ってるんですよぉ?使ってるんでしよぉ?」


なんだこの超展開は!

スキルを使ってるだって!?

シェリスが……アドミラに?

何か変わってるのか、何か変化が?


いや分からん、分からんけど気になるぞぉぉぉ!

一旦、止まろうか。レイアの肩を叩き、荷車を止めさせた。


「私たちが出会ってすぐスキルを使ったでしょぉ?そして昨日の夜、眠ると同時にスキルの効果はなくなってぇ、今日の朝起きると同時にスキルを使ったぁ、合ってるぅ?」


「……ち、違うぴょん。私は、使ってないぴょん」


「私が気づいたのはぁ、昨日の夜なのぉ。ジュンさんが起こした時にぃ、とっても違和感があってぇ」


「ううん!違うよアドミラたん!私は何も――」


「シェリスちゃん、私、嘘つきは嫌いなのぉ」


「……」


シェリスの顔がどんどん青ざめていく。

俺とレイアは、何も言うことができず、黙ったまま二人の会話を見守った。


「お願いアドミラたん、嫌いにならないでぴょん」


「……」


無言の圧力は、シェリスの硬い口をこじ開けた。


「【魅惑】だぴょん」


「【魅惑】か。強力な一般スキルだと聞いている。スゴイじゃないかシェリス」


「黙れレイア。今は静かにしてろ」


「あ、ああ」


レイアに注意したものの、俺の心は爆発寸前だった。

言葉で表すならば……。


んぴょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんッ!

ぽぽぽんぽんほんぴょぉぉぉぉんっ!


といったところか。


【魅惑】なんと甘美な響きか。

チャームというやつだろう?

知っている、ああ知っているさ。


おそらく、俺にも【魅惑】が掛かっているのだろう。

出会った時に、俺はシェリスの【魅惑】に掛けられた。

ああ、おそらくではない。

間違いなく、【魅惑】にやられている。


「私だけに使ったのぉ?」


「……うん」


掛かってなかったか。ああ、だろうと思ったよ。

知ってたし。普通に知ってた。


「いつからぁ?」


「アドミラたんが言った通りぴょん」


「アクティブは対象者を虜にする、あってるぅ?」


「う、うん」


「シェリスが眠ると効果が切れるのぉ?それとも――」


「私が眠ると効果が切れるぴょん。アドミラたんは、眠っても……私のこと……好きなままだぴょん」


あれ、ラブコメ?ファンタジーラブコメ始まった?

俺の居場所は?俺のラブコメまだっすか神!?

ずーっと待ってますけど。首を長くしすぎて頸椎がビヨンビヨンに伸びてますけど。


「シェリスさん、スキルを解いてくれますぅ?」


「……ッ!?あ、アドミラたん」


「早く解いてくれますかぁ?気持ち悪いんでぇ」


「……ぅっ、ご、ごめんなざい。解く時も、触゛らないどいげないから゛、ごめんね゛」


ちょっとふざけるのは止めよう、と思うぐらいの大泣きだった。

体を震わせて、人目もはばからず。


なんか切ないなあ。


マジで好きだったんか。シェリスよ。


シェリスはアドミラの前に立つが、拳を握りしめて動こうとしない。

頑張ってその肩に触れようとするが、なかなか触れられずにいた。


「間違っているぞシェリスッ!」


ど、どうしたレイア!急にびっくりした。


「スキルに頼るなんて、人の風上にも置けない!けれど、誰しも間違えることはある。好きだからこそ間違えたのだろう?

だから、スキルを解いて、心から謝って、それからまた、好きと言え!」


熱いなお前は。熱いのはいいけど、また好きっていうのか?マジで?

お前は今、ストーカーを生み出そうとしているのだぞ。

それでいいのか。


「……ぅぅ゛っ」


「シェリスさん、早くしてもらえますぅ?」


ほおおお、怖い。

あんなに仲良かったのに、シェリスさんなんて。

これもスキルのせいなんだもんな。


悲しいが、頑張れシェリス。


「……わ、分がった」


シェリスはそう言うと、アドミラの肩にそっと触れた。

今までみたいな、おふざけやイチャイチャはなし。

ただ肩に触れ、それで手を離すだけ。


……終わったのか。


見た目に変化はないけど、二人は終わったんだろうな。


はあ。なんだか俺まで胸が締め付けられるよ。


「シェリスさん、口を開けてぇ」


うん?

困惑したのは俺だけじゃない。

レイアも怪訝な表情をしてるし、シェリスだって泣きながら戸惑っている。


「あ~んしてくださぃ」


シェリスは恐る恐る口を開けた。

一体何をする気なのか、俺とレイアは互いに首を傾げた。


すると……。


「はい、よくできましたぁ。ご褒美ですよぉ」


「……ッ!?は、はドミラはん」


チュパチュパ――。


「あ、あのー、何をしてんの?」


「何ってご褒美ですよぉ。これからはぁ、スキルを使わずにいい子でいてねぇ?シェリスちゃん」


「ひょ、ひょん!」


チュパチュパ――。


あ、ヤヴァい。

シェリスがあんまりにも美味しそうにペロペロするから、あ、ヤヴァい。

もう嫌だ、荷車に顔を突っ込むのだけは勘弁してくれ。


チュパチュパ――。


「はあ、はあ、はあ、アドミラたんごめんね、アドミラたん」


「フフフ。これからも可愛い妹でいてくださいねぇ」


あああああああああああ、ヤヴァい!


俺はサッと体を反転させ、歯を食いしばった。

眩しい太陽に目をかっぴらき、網膜を焼き切ることにした。

そうでもしないと、ダメだぁぁぁぁ、これは、エロすぎる……ぐはっ。


精神を整えろ俺!

クソこうなったら、日本の宗教に頼るしかない!


「かーんじんざーいぼーさつ、ぎょうじんはんにゃーはーらーみーたーじい」


「な!?どうしたジュン!なんだその呪文は!」


「しょーけんごーおんかいくーどーいっさいくーやくしゃーりーしー」


「な、なんて響きだ。とても徳が高い気がするぞジュン!」


チュパチュパ――。


「んはあ、はあ。アドミラたん、妹でもいいから、嫌いにならないでぴょん」

「好きですよぉ。シェリスちゃんのこと、大好きですよぉ。ほら、もっと奧に入れてあげますからねぇ」

「アドミラたぁぉぉぇ、はあ、はあ」


喝ッッッッッッッッ!


「しきふーいーくーくーふーいーしきしきそくぜーくう、くうそくぜーしき」


破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


ありがとう、三蔵法師。

ありがとう、ユーチューブ。

ありがとう、摩訶般若波羅蜜多心経まかはんにゃはらみたしんぎょう






――――作者より――――

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