第30話 スキルってしゅごい 前編
「コウロンの町までどんくらいなの?」
「今日には着きますよぉ。なぜですかぁ?」
「あーよかった。この人たちのシモと世話とか嫌だなと思ってさ」
「またまたぁ。喜んでやるくせにぃ。ミキさぁん?おしっこしますかぁ?」
「んーーッ!んーーッ!」
もうツッコむのもメンドイわ。
誰がス◯トロマニアだ馬鹿野郎!俺はド直球の素◯もの大好きっ子なんだよッ!
つーかもう、手遅れだろ。
プンプン香ってくるもん。
「漏らしたんですかぁ?あーあー可哀想にぃ。あとでキレイキレイしてあげますからねぇ。騎士さんの前でぇ」
「んーーッ!んーーッ!」
哀れなりミキよ。アドミラに目をつけられては逃れられないぞ。
そしてありがとう。いい玩具になってくれて。
俺へのヘイトがいい感じで和らいでるぜ!
それから数時間ほど、草ボーボーの道を歩き続けた。
通商路の名残で、周囲の雑木林のように木が生えてるわけじゃないが、下草やら花やらが生え放題で、荷車を引くのは大変だった。
ひーひー言いながら歩いてると、ようやく整備された道にぶつかった。
丁字路になってるみたいで、目の前の左右に道が伸びている。
俺たちが来た道は、まるで考慮に入れられてない造りだ。
あっちには村があるってのに、酷いな行政!
「この道は?」
「さあ。なんでも私に聞かないでもらえますぅ?」
「……うぜぇ」
「はい?シェリスちゃん、ジュンさんをとっち――」
「嘘嘘!マジで嘘!そうだよね、俺も自分で調べるクセをつけなきゃね!ありがとう良い気付きになったよ!」
「フフフ。バカが賢くなりましたねぇ」
「……はい」
ぐっっっっっぬぬぬぬぬぬ、クソ。
「意外と平和なもんだな。てっきりその辺から盗賊が出てくるのかと思って、剣の準備をしていたんだがな」
「レイアよ。そういうのは言わんほうがいいぞ」
「それはな――」
フラグというやつがあってな、と言いかけたら、来ちゃいましたよ。
早めの回収が!
ガサガサ――。
「ゲヘヘ。荷を置いてきな。それから女は抵抗せずに俺たちについて来い」
「久しぶりの女だぜ。ジュルリ」
雑木林から飛び出してきのは、野性の盗賊たちだった。
いかにもな見た目で、ベロベロとナイフを舐め回している。
どこかで見たなこれ。
「シェリスちゃん、やっておしまい」
「ぴょん!」
「私も行くぞ!」
敵の数は5人。
まあ簡単に片付くだろうと思っていたのだが、それは大きな間違いだった。
「ヒャッハー!」
前に出てきたツルッパゲは、臭そうなナイフを振り回しながら、俺に狙いを定めている。
ちっ、鍛え抜かれた屈強な肉体を見破ったか。
コイツら、できるッ!?
俺はくるっと振り返り、荷車を思い切り押して、後進した。
シェリスとレイアが出張ってくると信じてのことだったが……。
「あ痛ッ!ジュン邪魔だ!」
「は、え?おめ、避けろよ!」
なぜなんだレイア!なんで荷車の真後ろにいるんだお前は!
普通は荷車を避けて前に出るだろ!
背後を気にしつつ、早く行けと視線で伝えると、レイアは焦りながら腰に手を伸ばした。
「くっ、あ、あれ?剣が、剣がない!?」
だがなかった。
剣がなぜなくなるのか……。
まさかスキルで取られた?
そう思って盗賊たちに目を向けるが、誰も持ってないぞ?
「ぴょん」
わちゃわちゃするレイアをよそに、シェリスはぴょんと飛び跳ねて、ツルッパゲの顔に蹴りを入れた。
ライダーのキックよろしく、それは綺麗な蹴りで、間違いなく失神ものだ。
スタッと着地を決めた直後、体を縮こませた。次の盗賊へ飛びかかる準備のために。
だがそこで予想だにしないことが起きる。
ガシッ――。
「ん?」
「へへへ。終わりか嬢ちゃん」
ツルッパゲがシェリスの足を掴んだのだ。
あんな蹴りを受けて耐えられるのは、格闘家か真性のマゾ以外にいないはず。
奴はマゾ!?
「触ってんじゃねえよクソックソックソックソッ!」
シェリスはハゲの顔に蹴りを入れた。
ハゲ頭は鈍い音を立てながら、ピンボールのように地面と足とをバウンドする。
これならば、さすがのマゾでも失神間違いない。
俺もシェリスも安心しきった、のだが。
「終わりかい?」
「……ッ!?」
「マゾかよ、あ、マジかよ」
言い間違えてしまうほどの驚きだった。
ピンボールされたってのに、まだ意識があるだと!?
しかもシェリスの蹴りを受けて……。
「ゲヘヘ。どうやら戦闘スキル持ちはいねえようだ」
モブAの言葉で、俺はハッとした。
童貞卒業に思いを馳せてばかりで、スキルについてはなんにも知識を得ていない。
レイアのスキルは分かるが、ほか2人のスキルなんて知らない。
ホーリーシッッ!
これはまずいんじゃないのぉぉおお?
「シェリス!鼻と目だ!潰しちまえ!」
「……ちっ」
ガスガス――。
蹴り込まれたハゲ頭は、面白いぐらいにブルンブルンと震えていた。ボクサーがリズム感を養うために殴る、パンチングマシーンみたく、いい感じの反動でブルンブルンしてる。
バタリ――。
超一流のドMだったが、急所を執拗に蹴り込まれ失神した。
失神だよな?たぶん、死んではいないと思う。
「ジュン!剣がないぞ!私はどこに置いたっけ!?」
「知るか!つーかお前のスキルに剣はいらんだろ!早く戦え!」
「いやしかし命――」
「どこに置いたか忘れた奴が、命よりも大切とか言うなよ!」
「うっ、わ、分かった」
ようやくその気になったレイアは、タタタッと俺の横を通り過ぎ、シェリスと共に戦う態勢を整えた。
この盗賊たち、なかなか厄介かもしれん。
今日はドジを封印してくれよな。
「ゲヘヘ、ちょっとはやるみてぇだ。てめえら、本気でいくぜ!」
ありがとな、盗賊のみんな!
俺たちが準備するまで待ってくれて。お前らは、敵の鑑だよ!
「ゲヘヘ!スキル【分身】!」
大変ありがたいことに、モブAがスキル名を叫んでから、背中を丸めていきみ始めた。
たぶんアイツ、うんこする時も力を入れる派だ。
痔になるから止めたほうがいいのに。
ボヤーッ――。
モブAの横には薄い煙みたいなものが現れ、みるみると形を変える。
そして完成したのは、モブAと全く同じ容姿の人間だった。
【分身】というスキル名なだけある。分かりやすくていいなぁ!
「やるぞ俺!」
「分かった俺!」
クソださい掛け合いをしたモブAたちは、戦闘態勢のシェリスとレイアに飛び掛かった。
「近づくなボケ!」
シェリスの拳が顔面にめり込み、モブAは吹き飛んだ。
「拳は得意じゃないッ!」
レイアのアッパーカットが顎にクリーンヒット。
ガクンと膝をつき、ドサリと倒れるもう一人のモブA。
これからだ。
コイツらは特殊な訓練を受けたド変態集団。
必ず起き上がってくる。
「……無念」
ん?なんか白目剥いてるけど。
本体のモブAが呟いた後、レイアの前で倒れてたモブA分身体はスゥ~と消えていった。
……コイツは、特殊な訓練を受けてなかったようだ。
「次は俺だ!ヒャッハー」
よしいいぞ、代わりばんこに出てくるタイプの敵でたいへん助かる!
今度のモブBはスキル名など言わずに、素早く間合いを詰めた。
シェリスの顔面にナイフを突き出したと思えば、パッ手放し、もう片方の手で、腹へとグサリ……。
「は!?刺さってんじゃねえか!レイア!助けてあげて!」
洗練された動きに翻弄されて、シェリスも不意を突かれたのだろう。
生身の肌からタラリと流れ出る血が、リアルな切迫感を生む。
「ベンジャミン!もう一人をやれ!」
モブBの合図を受けて動き出したベンジャミン。
この世界のベンジャミン率を一旦調べたいところだが、このベンジャミンの身のこなしも凄まじく、そんなことしてる暇もなさそうだ。
ボクサータイプの軽快な動きで、レイアの眼前に立つと、タンタンタンと拳の連撃で攻め立てる。
しかしレイアには全然効いてない。
ベンジャミンのパンチが弱いようには見えないが、レイアがそもそも強いのか、鎧がスゴイのか、それともスキル【徒手格闘術】のおかげか。
知らんけど……。
「攻撃しろレイア!」
「……分かっているッ!」
レイアは大きく腕を引き絞り、拳を勢いよく振り抜いた。ブンッと風を切り、ちょこまかと動くベンジャミンの顔面に叩き込まれる……はずだったが。
直前に呟いた言葉を、俺ははっきりと聞いた。
「スキル【盗賊】発動!」
――――作者より――――
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