第29話 ビリガン冒険者ギルド、バイオ支部爆誕

「潰すったって、お前は何もしねえんだろ。簡単に言うなよな」


「ついでですよぉ。かつて栄えた通商路を、私たちは進むんですからぁ、必然的に盗賊団とかちあいますよねぇ?」


「……ん?おかしいな。そんな偶然ないよな。あああ?お前知ってたんか、知っててこの道を通るって言い出したんだな!」


おかしいと思ったんだ。わざわざ雑木林に囲まれた変な道を進みたがるから、なんかおかしいとは思ってた。

この道しかないのかな?とも思ったけど、んなわけない。

道なんか他にも絶対あるはずなのに、コイツは……。


「フフフ。いいじゃないですかぁ。プリッケの手も伸びてないってことなんですからぁ」


「……まあ、そうか」


「盗賊団を捕まえながら国境までいきましょぉ。お金になるみたいですしねぇ。はした金ですけどぉ」


「んなことしたら恨み買うんじゃね?村人たちが被害に遭うでしょ」


「フフフ。名案があるのでぇ、大丈夫ですぅ」


胡散臭い名案とやらを信じていいものか。

いやダメに決まってる。

俺は天気予報の降水確率80パーセントすら信じない男だ。

信じるはずがないだろう!


「なあ、とりあえず明日にしないか?私はもう眠りたいのだが」

「私も眠りたいぴょん」


信じてはダメだ。ダメだが俺も眠りたいそして!どこでどうやって眠るのかな?


僕たちさあ、即席と言えどもパーティだよねえ!


「固まって寝ようぜ。盗賊団に襲われるかもしれんし」


「嫌だぴょん。コイツ絶対シコるぴょん」

「そうですねぇ。私のうなじを見ながら、息荒くもぞもぞしそうですもんねぇ」

「シコる?なんだそれは。ジュン、お前はシコるのか?」


コイツらパーティじゃないわ。

あー、忘れてた。俺はギルド職員であって、コイツらとはなんの関わりもない、第三者。

なんていうのかな、敏腕マネージャー的な?そんな存在だったわ。

あー一瞬でも仲間だと思った俺が間違ってたわ。


俺はそっとババアの手を握った。


「ババア、寝る場所あります?」


「あ、はあ、ありますが」


「俺だけそこで寝ます。コイツらは肥溜めの側で寝かせてやってください」


「あ、いや空いてる家があります――」


「なんなら、雑木林の中でもいいです。とりあえず、臭くて汚くて魔物とかがうようよしてる場所で寝かせてあげたいんです。コイツらのためですお願いします」


こうして俺は、ババアの家で眠ることになった。

残念ながら、3人衆は空き家で一夜を過ごせることになってしまった。

本当に残念でならない。俺の力不足だ。


「ジュン殿」


「なにも言わなくていい」


「……はい」


ババアの家には、ベッドが一台しかなかった。

狭い家で、眠れるところと言えばここだけ。


なぜババアは俺を見つめているのだろう。


どうして、俺の背に手を回しているのだろう。

寒いのかな?

俺暑いんだけど。


「ワシは、構いませんぞ。いつでも……」


「うすおやすみっす。安らかに眠りましょう明日死んでたら葬式します盛大なやつをね」


「そ、そんなに激しいのは……壊れてしまうやもしれません」



ぅぉおおおおおおおおおらあああああああ!


神よぉぉぉぉぉ!今だけでいいから、俺のスキルを変更してくれ!

このババアを美女に変えたい!頼むからぁぁぁぁあ!



こうして俺は、全く眠れずに朝を迎えた。

というか覚醒しすぎて、なんでもできる気がする。今ならドラゴンもワンパンじゃね?とさえ思える。


「おはようジュン!なんだ?眠れなかったか?」

「ジュンさん、だいぶお疲れのようですねぇ」

「ヤッたぴょん?」


「ヤルかボケェええ!」


軒先に出たらこれだ。

ババアを起こさないように身をよじり、音を立てずに家から出たというのに。

朝日を見て、涙の一つも流したかったのに。


「それでは参りましょうかぁ。貧乏すぎて面白味もないのでぇ」


「ひどッ。泊めてもらっといて……クソやな」


「泊めるぐらいならゴブリンでもできますよぉ」


「はあ」


アドミラと会話してたら気が滅入る。

俺も大概のクズであることは否定しないが、奴は次元が違いすぎて怖い。


ため息をつきながら、出発の支度をしようと荷車に近づいた。


「えっ……」


「んーーッ!んーーッ!」

「ん゛ーーッ!」


その中にいたのは、ミキとガチムチだった。

大人二人が寝転がれるほど大きくはないのだが、器用に丸められて、ぴっちりと詰め込まれていた。


「んーー!んー!」


猿ぐつわを噛まされ、何も喋れないみたいだ。


「んーー!んーーッ!」


苦しいんだろうな……。

涙を流しながら絶叫してんだから。

弁当箱に詰め込まれた、ご飯の気持ちなんだろうな。

ミチミチで逃げ場がなくて、体一つ動かせなくて……。


ううっ。怖い怖い。

閉所恐怖症の俺にはキツイや。


「悪いなー。行くぞー」


なーんてな。

ざまあみさらせってんだ。

いろんな意味で、ざまあみろ!


ガラガラ――。


重いわッ!


「おーい、シェリス?ちょっと頼んでもいいかー」


「嫌だぴょん。私は戦うのが専門だぴょん。お前何もしてないぴょん」


くっ。仰る通り過ぎてなんも言えんわ。

基本的にシェリスしか戦ってねえぞこのパーティ。

昨日なんか、私も参戦するぞ!とか言ってたレイアは、ミキを連行しただけだし。


俺も戦ったほうがいいよなー。

【剣術】スキルも試してみたいしなあ。


「なあ、コイツらいくらになんの?」


「んー、ザコは一律で50ゴールドぴょん」


50ゴールドか。悪くない気がするけど、いやどうなんだろう。

悪人だって捕まりたくないから抵抗するだろ?

命の取り合いになるわけで、50って安すぎないか?

いやでもそのために騎士がいるんだしな。

通報してその場から逃げればいいわけで、好き好んで戦う必要は、普通はないわけだから、まあ妥当?


にしても、一律50ゴールドって。


ワゴンに売られてる中古ゲームソフトじゃあるまいし。


「でも……日本人なら高く売れるぴょん」


「売るって。違うだろ。人のため社会のために、引き渡すんだろ?」


「言い方はどうでもいいぴょん。日本人なら最低200、スキル次第でもっと跳ね上がるぴょん」


「え?マジ?」


「有能なスキル持ちは、奴隷にして国のために働かせるぴょん。だから高いぴょん」


なるほど。有効活用ってわけか。

善人の俺には縁のない話だが、奴隷て。


奴隷!?


「もしかして……」


「ああ、大丈夫ぴょん。お前のスキルはゴミだから、誰も拐おうなんか考えないぴょん」


「オブラートって知ってる?」


「知らないぴょん」


今に見てろよゆり女。

俺のスキル【コールセンター】が世界を席巻するからな。

その時お前が泣きながらすがりついても、俺は必ず見捨てる。そしてこう言うんだ。


「お前はもう、仲間じゃないとな」


「あそ。じゃあ、お前は守らないぴょん。襲われたらそのまま死ねぴょん」


「いや、嘘やん。ただの妄想やん。ちょっと心の声が漏れただけですやんか」


「アドミラたーん。今日は隣で寝たいぴょん!」

「ダメですよぉ。昨日の夜だってもぞもぞしてたの知ってるんですからぁ」

「私のお尻を撫で回していたな。そんなに好きなのか?ほら、触ってもいいぞハハハハ」


もういやッ!

私をシカトするパーティなんていやッ!


私だって、もっとちやほやされたいのぉぉ!


「ところでジュンさん?この村のギルドの名前は何にしますぅ?」


「名前?ああ、名もなき村だから、なんとか支部ってつけられないのか」


「日本人特有の感性と知識でぇ、何かスゴイ名前をつけてくださいよぉ」


「こんな時だけ……大喜利みたいなことさせよってか!ああ、決めた。バイオだ。バイオでいい!この村はいかにもバイオだからな!」


こうして、ビリガン冒険者ギルド初の支部は、ビリガン冒険者ギルド、バイオ支部となった。






――――作者より――――

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