第28話 魔除けのババア

「母ちゃん!」

「ジャクソン!」


「お父さぁん!」

「ベンジャミン!」


感動の再会、といったところか。

どっかで聞いた名前だが、同名なんて珍しくもないか。人気のお名前なんだろう。


ふっ、こんなどうしようもない俺でも、人を救えるのか。

いいねえ。いいじゃんか、ヤれなくてもさ。

性欲に取り憑かれておかしくなってたのかもな。

子どもたちが、こんなに嬉しそうにしてるんだから、本当に良かった。


なぁあぁあんて思うわけねえだろ。

おい神!等価交換って知ってるか?

感謝の言葉なんていらん!金もいらん!

ひとりの時間か、クソエロい女をよこさんかい!


神に怒っていると、隣にやって来たのは……ドSイカれポンチだった。


「フフフ。人助けもいいですねぇ」


「……あ、ああ」


「ミキさんの正体を、どうやって見抜いたのかぁ、色々考えてみたんですぅ」


「……も、もういいじゃない。子どもが助かっただけでさ。村も救われてるし、最高だろ」


「仲よさげでしたもんねぇ。ミキさんとジュンさん。食事を囲んでいる時もぉ、私たちには無愛想だったしぃ、私たちの部屋には来ませんでしたよねぇ」


「……な、なにが言いたい」


「フフフ」


アドミラは意味ありげに笑うと、背伸びをして俺の肩に顎を乗せた。


はぁ――。


と、吐息が耳に。

くはっ……マズイ、これは。


精神を統一するのだッ!悪魔の誘惑に心を奪われるなッ!


「最後までデキなかったんですねぇ。フフフ」


……クッソぉぉぉぉ。

この世界の女は、俺を弄ぶのが好きなんだな!

ああそうかい。そうですかい。

神がクソなんだから、この世界の住人もクソなわけだ!


死ねッ!全員うんこチビって死ねッ!


「俺、雄汝禁オナンキン教徒なんで。そういうの興味ないんで。チンコないんで」


「そうですかぁ。ジュンさんが外にいたのは、ひとりで楽しむためかと思ってましたけどぉ……んですかぁ」


「……ど、どこまで知ってやがる。カメラでもついてんのか?はっ!まさか、そういうスキルの持ち主!?」


「フフフ。どうでしょうねぇ」


はぁ――。


うぉぉぉ!


雄汝禁教オナンキンきょうの神よ!

なんて神だったか知らんけど神よ!

今だけ俺を救い給え、頼むから救ってくれ!

なんでもいいから、この悪魔を祓ってくれ!


するとどうだろう。

この世界で最も神に近いと思われる、老人をよこしてくれた。

棺桶に片足突っ込んでるんだから、ほぼ神だろ。

対悪魔兵器としては、とてつもなく優秀なはずだ。


「ジュン殿、此度の件――」


ババアが全てを言い終える前に、俺はアドミラの誘惑を振り切った。

だがそれだけでは甘い。

あの香しい匂いが鼻に残り、甘く温かな吐息が俺の耳を犯している。


だから俺は、抱きしめた。


「なにも言うな。子どもを救えてよかった。村を救えてよかったよ、ババア」


「は、はあ、こちらこそ、救っていただき感謝しか……」


はあ、なんと心地よいことか。

性的興奮など、一切覚えないこの感触。

ほぼ流木だ。

流木を抱きしめて、誰のチンコが反応するか。

ありがとうババア。アンタのおかげで正気を取り戻したよ。

死んだら葬式に出るからな、たぶん。


「……フッ。やっぱり面白いですねぇジュンさんはぁ」


俺はババアを抱きしめながら、そっと中指を立ててやった。

あの悪魔が、早く別のおもちゃを見つけてくれることを願って。




「……二人は、随分と仲が良くなったんだな」


レイアは俺を見てそう言ったわけだが、大きな勘違いをしている。

これはいわば、魔除けだ。

この骨ばった手、水分のない素肌……。

握っていないと、また誘惑されてしまうだろう。


「フフフ。見境ないですねぇ」

「穴があればなんでもいいぴょんか」


「失礼な奴らだ。お前たちに神罰が下ることを願うよ。すまないなババア」

「……は、はあ」


バイオババア宅に招かれて、俺たちは机を囲んでいる。

どうしても聞かせたい話があるとかなんとか。


「この村もかつては、魔王領とこの国を繋ぐ通商路として栄えていたのです。しかし――」


老い先短いながらも、命を削って長い話をしてくれたババアに感謝だ。


ざっと話を要約するとこうだ。

魔王領とこの国の王都を繋ぐ唯一の通商路だったから栄えてたけど、盗賊団が妨害やら何やらしたせいでどんどん廃れた。

人が寄り付かなくなってからは、通り沿いの村々が襲われて、この村のように税金という名の上納金を支払わされている。


で今回、盗賊団の仲間であるミキとガチムチのおっさんをぶっ飛ばしたので、報復あるかもーてこと。


「あなた方のお力を見込んでお頼みする。どうか、盗賊団から我々を守っていただきたい」


「引っ越せばいいのではぁ?」


「そんな金はありませぬ。ジュン殿、どうか。ワシの体をどう使っても構いませぬ。村を子どもをお助けください」


うるうるした目で懇願されて、俺は手を離した。

あんたの体をどう使うってんだ。せいぜいお部屋を飾るアンティークにしかならんて。


「体で払うと言いたいんですかぁ?いいじゃないですかぁ、ジュンさんにピッタリの提案ですねぇ」


「……黙れアドミラ、そして地獄へ帰れ」


「フフフ」


「ババアよ、アンタの体はいらん!いらんけど、こっちからも頼みがある。というか交換条件だ」


忘れちゃいけない。

俺たちは世直しの旅をしてるわけじゃあないんだ。


「はっ、なんなりと言ってくだされ」


「ビリガンギルド支部の、支部長になってくれ!」


「……ギルド?そりゃあ、構いませんけど。この村には誰も来やしませんよ?」


「アドミラよ、そのへんはどうなの?誰も来ないギルドでも問題ないのかな?」


「また説明ですかぁ?はあ。ギルドの拠点ポイントは――」


端的に言うと問題ないそうだ。

たとえ人通りの少ない、冒険者の来ないギルドであっても、一応拠点としては成立しているらしい。

ただし月に1回以上は、その拠点を経由してギルマスか本拠点へ金が動かないといけない。


この金の動きというのは、いわゆるロイヤリティってやつで、ビリガンギルドの名前を使っている代価みたいなもんだ。

その金を支払うってことは、ビリガンギルドの傘下である証だし、活動実態もあるよねと、認められる。


「……金が動けばいいのか」


「動く金もなさそうですけどねぇ」


金持ちのご令嬢め。たしかにこの村から金の匂いはしない。人も少ないし、ガリガリだし。冒険者になれそうな人もいない。


わざわざここまで来て、依頼を出す奴もいないだろうしなぁ。


「盗賊を捕まえたんだから、騎士から金もらえるぴょん」


「え?そうなの?」


「報奨金で食ってる奴もいるぴょん」


「へえー。それじゃあ、金はできたと。後はちょこっとロイヤリティを献上してもらえば、完璧?」


「そういうことになりますねぇ」


え、チョロいやん。

もう支部できたし。

チョロチョロやん。


「後は、この村を守る人が必要ですねぇ。村がなくなったら支部もなくなりますしぃ」


「それは大丈夫っしょ」


「なにを寝ぼけてるんですかぁ?ヤラせてもらえなくて脳みそ腐り始めてるんですねぇ」


コイツ一言多いな。

寝ぼけてるんですかぁ?で終わればいいのに、なんで追加の弾丸を撃ち込んでくるんだ。


ああ、クソサド女だからだった。

テヘッ。


「……腰振りビリガンって有名なんだろ?」


「そりゃあもう!数多のダンジョンを攻略した上、女性のために一国を滅ぼし、とある魔物を種族ごと根絶やしにした上、各国の王とも仲が良く、魔王にも一目置かれてる存在だからな」


「……そ、そんなスゴイのかあのゴリラ。ま、まあ、だからさ、ギルドって名前を見りゃあ、誰も手出ししないんじゃないの?」


「そうとも言い切れんないんだジュン。これだけの伝説があるからこそ、彼の実力を疑う人間も多いからな」


あー、なるほど。

スゴすぎて逆に、嘘っぽさあるもんな。

それにこんだけスゴイなら、僻むやつもいるだろうしな。


好感度のランキング上位の有名人ほど、嫌いな有名人ランキング上位に入っちゃうのと同じか。


「……滅ぼしますかぁ。なんとかって盗賊団」


と、アドミラさんが言っております。






――――作者より――――

最後までお読みいただき、ありがとうごさいます。

作者の励みになりますので、♡いいね、コメント(ふきだしマーク)をいただけると助かります。

お手数だとは思いますが、☆マークもついでにポチッとしていただけると、本当に嬉しいです!

(目次ページ下辺りにあります。アプリ版はレビュータブにあります)

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る