第27話 なんか、可哀想

『ジュンさんどこにいるんですぅ?』

『えーと、家の前に来たとこだ。ちなみにババアもいる』

『中にいないのか?どうした小便か』

『ぴょんぴょん』


『ミキさん一人ならぁ、ジュンさんでも身柄を押さえられますよねぇ?』

『ガチムチの旦那がいたんだよ』

『ほう。鍛えた男がいるのか。戦いがいがある』

『瞬殺ぴょん』


『2人ですかぁ。だったらシェリスとレイアに任せますぅ。ジュンさんは外で待機しててくださぁい』

『は?俺もなんかしたいんだけど?』

『よし行くぞシェリス!』

『ぴょん!』


会話が終わって10秒ぐらい後。

中から怒鳴り声がしたと思えば、ものすごい衝撃音が上から下へと流れてきた。


「キャッ!止めてください!なにするんですかッ!」

「観念しろミキ殿。ジュンから話は聞いているぞ」

「何を聞いたんですか!?ジュンさんは?直接話をさせてください!」


うっ……なぜ胸が痛むんだ。

奴は敵。男の敵だぞ。しっかりしろ俺!


ガチャリ――。


「見掛け倒しぴょん」


ガチムチを引きずりながら出てきたシェリスは、家の前に放り投げた。

服はビリビリに破れて、白目を剥いて伸びている。


「ジュン!話がしたいと言っているがどうする?」


「ジュンさん!誤解なんです!私に機会をください!」


俺は悲しく首を振った。


「ジュンさん!」

「もう大人しくしろ。転んでしま――」


ゴズッ――。


あ……。

うわぁぁぁ。

今のは痛い。


ミキの背中側で、両手を拘束していたレイアであったが、何に引っかかったのか玄関でコケた。

玄関には小さな階段が付けられるほど、地面との高低差がある。

ミキは体を押されて玄関から飛び出し、階段を踏みきれずに、顔面から地面にダイブした。


しかもレイアという重しをつけてである。


鈍い音を立てて倒れた彼女は、体をクネクネさせて声にならない声で呻いていた。


さすがに同情する。

マジで痛そ……うわあ、すんごい血が出てる。

鼻折れてんじゃね?

あ、歯もない。

レイアの前歯よりヒドイや。


「す、すまない。大丈夫かミキ殿」


「ぅぅぅっ」


心配そうにミキを覗き込むレイアであったが、遅れてやってきた悪魔の言葉で、すぐに立ち上がる。


「レイアさん子どもをお願いしますぅ。そのゴミは私が責任を持ってしつけますからねぇ」


「あ、うん!分かったぞ。さあみんな、家に帰ろうな。お婆さん、家まで案内してもらえますか?」


「……あ、ああ」


3人の子どもたちがレイアに懐くのは早かった。

たぶん騎士の格好をしてるからだと思う。

ポンコツだとは、知る由もないだろうな。

ババアはミキとガチムチの捕獲劇を見て驚いていた。

まあそうだろうな。鮮やかすぎるからな。


それもこれもすべて、俺の指揮であると思っていることだろう。

それでいいのだ。

後でギルドの支部を作ってもらうからな。


「じゅ、じゅんざん」


「ひぃぇっ」


ミキの呼びかけに反応し、視線を向けた。

ほんと見れたもんじゃない。

どう見たって感染者よこれ。頭をかち割らないと、何回も復活するやつよこれ。

鼻と口を覆う手から、ボタボタと血が滴ってるのが、もうグロイのよ。暗さも相まってホラーなんよ。


「じゅんざん」


「ち、近づくな!下がれゾンビ!」


「ぢ、ぢがいまず」


警告を無視して近づくので、俺は思わず後ずさった。

お前はゾンビだ!ウイルスに感染してるから、死ぬしかないんだよ!


そう思わないと、心が揺れるから下がれい!


葛藤に胸が張り裂けそうだった。

そんな葛藤など糞だとでも言いたげに、突然、無慈悲な一撃がミキの膝裏をぶち抜いた。


「ふんっ!」


「いがっ……うがっ」


アドミラのローキックがクリーンヒット。

いくら不意打ちだとしても、相手を崩折れさせるのは技術とパワーがいるはず。


つーか、格闘家みたいな蹴りだったな。

一切の容赦なく、腰を捻って足を振り抜く。

躊躇いのなさが、アドミラのヤバさを物語ってる。


ニヤリ――。


そんで、あのニヤリが、キチゲエ感を増大させている。


ガスッ――。


追撃とばかりに、倒れ伏したミキの後頭部を踏みつけると、さっと腰をかがめて髪に指先をねじ込んだ。


そしてグッと持ち上げて……。


「うゔっ」


「ほら言ってごらぁん?ジュンに言いたいことがあるのよねぇ」


え、俺!?

なんか出番ないなーと思ってたら、ここですか。


チラリと見ると、揺れる瞳が俺を見返していた。


「へ、説明させてくらさいズンさん!私は……違うんれす」


痛みで口が回らないのか、俺の名前がズンになっていることは、大目に見てやろう。


たがしかし!貴様は許さん!


「……旦那がいるというのに、エロい雰囲気を出しやがって!お前は敵だ!」


「だ、旦那?この人は旦那ではありまへん!仲間テス!」


「仲間……だと!?なに仲間なんだ、一体どんな激エロプレイを楽しむ仲間なんだ!言ってみろ!詳しく教えろ!」


「ほ、ほれは……」


くっ、そんなにしゅんごいプレイなのか。

言い表せないほどの……ぐはっ。

でも聞きたいだから聞きたい!せめてオカコレに登録させてくれい。


「あれー?アドミラたん!コレって盗賊団のマークぴょん?」


シェリスが示したのは、ガチムチ男の肩に入っていた入れ墨だった。

入っているのは文字のようだが……字体が独特で、ちょっと読み辛いな。


「……盗賊団?シェリスちゃんなにか知ってるの?」


アドミラも知らないらしい。

ほう?珍しいな。

インテリを気取って、金と美貌で他人を見下すドS女に、知らないことがあるのか。

ふーむ。


イジるのは止めとこ。


「【ムカスムカムカ】って盗賊団ぴょん。魔王領とプリンチピウム王国に縄張りを持ってる集団で、荷馬車を襲ったり、通行を妨害したりするって聞いてるぴょん」


「……ふーん、なるほどぉ。盗賊団の男を連れ込み、子どもを拐っているんですねぇ。なんだかぁ、あなたの正体が分かってきましたよぉ」


「……ひ、違うんれす!私は、この男に無理やり」


ミキさんアンタ、盗賊団の女だったのか。

俺がもし手を出していたら……間違いなく、チンコを溶かされていただろう。

金属がグツグツに煮えた鍋の上に両足を開かされ、そして……そうめんをつゆにつけるみたく、チョンチョンと。


ううっ。清い息子ばかりを狙う汚い大人め。

ヤリチンだけにしとけよボケが!


ん?ちょっと待てい!

ミキさん言ってたよな。昔に盗みをしたって。

召喚されて、何かしらの理由があり王都から出て行き、そしてどこに流れ着いた?どこで盗みをしたんだ。


俺は思い当たるぞ。


「貴様……フリー・ビリガンこと、腰振りビリガンを知っているか」


「し、知ってまふ!王都から追放されて、その人に拾われて――」


「そこで金を盗んだ?世話になったのに金を盗った?」


「あああ、あの人は、ビリガンなのよ、その分かるでひょ?」


「いやどういう意味です?」


「ズンさんは知らないのよ。プリッケギルドだから、知らないの。あの人は、嫌がる私を何度も求めて……」


あれ?プリッケギルドって言ったか?

はあはあ、そういや言ってなかったな。

ギルドとは言ったけど、ビリガンギルドとは。


あー、なんかコイツ、すげえウザいわ。


なんか俺、すげえ誇らしいよ。

お父さん、お母さん。

俺さ、まだ童貞だけど、恥じない生き方してます!

二人の育て方が良かったのかもな。ありがとう!


「ジュンさぁん?ビリガンさんがレイプ魔みたいに言われてますけどぉ」

「……殺すぴょん」


ビリガンは鼻毛も出てるし、体毛が濃くて男性ホルモンの権化みたいで、ギルド運営が壊滅的で、俺の扱いも雑だ。


だがしかし!


あのゴリラは優しいんだ!

びっくりするほどのお人好しで、時々カッコいい事を言いやがるんだよ。


「ミキさん。アナタは知らないようだ」


「へ?な、なにを?」


「俺の恩人が誰なのか……」


「へ、ま、まさか」


「腰振りビリガンをバカにしていいのは、俺だけだクソがぁあぁぁああ!」


ペチッ――。


クッソぉぉぉぉ!

叩けないよ!強く叩くなんてできないよ!

なんか改心して、俺とまたいい雰囲気になってくれるんじゃないかと期待しちゃうよぉぉぉ!


「シェリスちゃん、やってしまいなさい」


「ぴょん」


「ひぇっ、ズン、ズンさん、たず、ブゴォッ」


バゴッ――。


「終わったぴょん」


ミキKO。


これでやっと、終わったのか。

あれ?なんでだろ、雨かな?


「フフフ。ジュンさん?今なら無抵抗ですよぉ?チャァァンス」


「泣いてるぴょん。キモいぴょん」


無抵抗の女性を襲う趣味はない。

ドSキチゲエめ。


俺のこの涙は、ヤれなかったからじゃない。


もうそんなのはいいんだ。


俺のこの涙は……。


せめて、頼むから、ヤラせてくれなくてもいいから、本当にお願いだから、一人の時間をくれ。

シコる時間をくれよ神様。


祈りの涙だぜ。






――――作者より――――

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