第25話 俺、卒業するぜ

「うむ、とてもいい村だあ」


「キヒヒヒヒヒ。無理せんでええぞ」


「……笑い方恐えええよ!つーか、さっきのなんすか。子どもの笑い声やら、カチカチカチって変な音」


カチカチカチ――。


「それい!あ……」


「食事どきじゃからな。スプーンと皿がぶつかる音じゃろ。お前さんらも食うか?」


「……ありがたいです」


バイオババア、略してババアは、この村の元村長らしい。

俺たちはババアの家に招かれて、テープを囲んでいるわけだが……。


「ギャハハハ」


「はっ!?ど、どこから」


子ども笑い声がしたので、辺りを見回してみるが、子どもが隠れられそうな場所はない。

まさか、あの樽の中?


「隣の家じゃよ。遊んでるだけじゃ。うるさいかもしれんが勘弁してくれ。キヒヒヒヒヒ」


「……はい」


バイオハザードの村に迷い込んだかと思っていたが、住人たちは感染していないようだ。

できれば歯型が無いか確認したいところだが、ババアの全身を検査する精神的な余裕も趣味もない。


「悪いな。大したもんはなくて……」


「い、いえ。分けてもらえるだけ、あざっす」


テーブルに乗せられた皿には、うっすらと黄色味ががったスープが入っていた。

匂いは……まあ、なんというか、野菜?を薄めたような。


そう言えばこの世界で初めての飯だ。

ただで食わせてくれるのは、素直に感謝しかない。

スプーンを手に取り、食前の挨拶をした。


「いただきます」


すると、ババアは怪訝な表情を浮かべる。


「……日本人か」


「え、あ、はい」


「……ふぅむ」


うん?なんか急に機嫌が悪くなった。

俺が……というより日本人が何かしたなこりゃ。


「うーん、ほぼお湯ですねぇ」

「こら、失礼だろうアドミラ。美味しいですお婆さん」

「うまいうまい。おかわりくれぴょん」


変な雰囲気など意に介さず、3人はズルズルとスープを飲んでいた。

チラリとお婆さんをみると、さっきまでの表情はどこへやら。


まあ、いいか。

腹減ったしいただくぜ。


「……うーむ、うまあ、い」


ほぼお湯だった。塩味ゼロ。甘み1みたいなお湯。


でも美味い。


空腹を忘れるぐらい激動の一日だったから、温かさと甘みが染みる。


「ごちそうさまでした」


「うむ。んで、アンタら何しに来た」


「隣町を目指してるんですが、夜も更けましたので宿を探していたんです。そしたら村があったので……」


「キヒヒヒヒヒ。泊まれる場所を探しとる?」


「ええまあ、はい」


「そうじゃなあ。この先に村長の屋敷がある。そこなら泊めてくれるかもしらん。行くか?」


「はい。助かります」


松明を持ったババアに連れられ、村の中を突っ切ると、あちらこちらには人の生活があった。

けれど皆、痩せていた。

ボロい服を着て、小さな火をともしてテーブルを、囲んでいるのが見えた。


どの家も扉がなくて、よーく見えた。


村から出て、少し先の雑木林をくぐると、すぐに視界がひらけた。そこには、割りと大きな家がポツリと佇んでいて、月明かりに負けない光が漏れていた。


「あれが村長さんの?」


「うむ。キヒヒヒヒヒ、喜ばれると思うぞ」


「なんでです?」


「アンタが日本人だからじゃよ。そいじゃあ、まあ、ゆっくりせんと明日には出てけよ。キヒヒヒヒヒ」


「……う、うす。ありがとうございました!」


変な別れの挨拶だったが、まあ悪い人じゃなさそうだ。不気味さとバイオさは群を抜いてダントツトップの独走状態だが。


ガンガン――。


「こんばんわー」


ドアノッカーを叩き、しばらく待つと中から女性の声があった。

そして出てきたのは……。


「はーい……って、え?」


「え?日本人すか?」


「は、い」


日本人だった。


「え、えーとどのようなご用で」


見た目は普通。服装も……なんかこの世界の一般的な感じで、至って普通の女性だった。


だが日本人だ。


「この先の町に行く予定だったんですが、宿がなくて困ってるんです。一泊させてはいただけないですか?」


「あー……。4人ですか?」


「あ、はい」


「……どうぞ、とりあえず上がってください」


警戒とかはなくて、当然のように親しみが湧く。


家に上がると、バイオ村とは打って変わって綺麗だった。

家具はあるし、装飾品もたくさんあるが、センスよく配置されスッキリしていて、日本にもありそうな家という感じだった。


4人でテーブルにつくと、食事はと聞かれた。

まあ、さっきのスープじゃあ腹はまったく膨れなかったので、いただくことに。


出てきたのは、加工肉やらパンやらで、普通に美味しかった。


これが村長パワー。

きっと税金を巻き上げて、私腹を肥やしているに違いない。

だがしかし!

俺は権力に媚びて、媚びまくっていく人間だ。

生まれた時から、病院の院長に笑顔を振りまいて好かれてたというから、矯正のしようがない。


「ごちそうさまでした」


「いえいえ。粗末なものしかお出しできず」


「めちゃくちゃ美味かったですよ!」


「フフフッ。それは良かったです」


なぜだろう。

テーブルを囲む3人とは、見劣りする顔なのに。

心が安らぐあの笑顔。

穏やかな声に心がほぐされていく。


これが……恋なのか?


「どうして隣町へ?」


それからは他愛もない会話をした。

クソうるせえ3人の茶々を全部シカトして、ミキさんという、愛しき女性だけを見つめた。


そうすると、不思議なことが起きる。

なんか、可愛いんだこれが。


アバタもエクボとはよく言ったもんだ。


ああ、クソ可愛い。


「ふぁぁぁ。眠いぴょん」


「おう寝ろ。どっか行け」


さっきからレイアの耳たぶばかりをサワサワしてるシェリスなど、目障りでしかない。


「よろしければこちらの部屋で……」


リビングの奥の部屋に誘導された3人は、仲良く消えてくれた。


そして残されたのは、俺とミキさんの2人。


「ここへ来た頃は、お金がなくて……」


「そうですよね。俺もお金はまったくないですよ。ギルドがなかったら、今頃、泥棒でもしてたと思います」


「そうですよねッ!そうなんです。私も、本当は嫌だったんですけど。やむにやまれず盗みを」


「辛かったですね」


「はい。ずっと1人で寂しくて……知り合いもいないし、友だちも。恋人なんかできる暇もなくて」


うぉぉ?恋人がいない?

いや落ち着け俺。

過去の話だ、きっとそうだ。これは神が仕組んだいたずらに違いない。


明らかにするのだ。

今はどうなのかと。


「……そうですよね。恋人なんか夢のまた夢ですよね」


「はい。ずっと一人で……そしたら今日、ジュンさんが来てくれたんです」


「ハハハ。来てくれた……ですか」


うぉっしゃゃぁぁぁああぁあああああぁぁぁ!

どっせい!んぽぉぉぉぉん!


はいキタコレ。これ来たねぇ。

間違いなくチェックメイト。

それロンッ!

王手だしウノ!


きちゃああああああ!


「……明日は早いんですか?」


「いえ。時間は特に決めてませんよ」


「そうですか」


「でもそろそろ……眠りたいですね。今日は疲れちゃいました」


「……部屋に空きがなくて、どうしましょうか」


……どうするってそりゃあ。


一緒がいいなぁぁぁぁぁあ!


ミキさんがお隣にいてくれると嬉しいかもぉぉ!


「あー、アイツらと一緒の部屋で寝るわけにもいかないんで、ここでいいですよ。椅子を並べて――」


「もしよかったら」


ドクンドクン――。


「上に行きます?」


はい行きます隣で寝たいですイチャイチャしたいですていうか卒業していいですかさせてもろていいですかというか筆下ろしオナシャス!


と言いたい気持ちをこらえ、いかにも落ち着き払って言った。


「はい」


ミキさんのお尻を眺め階段をのぼる。


正直、俺の息子はギンギンだった。

だがしかし悟られてはいけない。

俺はミキさんのお尻を眺めながら、奥の手中の奥の手、必殺の技を使うことにした。


素早くズボンに手を突っ込み、息子を上向きにしてウエスト部分で押さえつける。

こうすることで、ズボンのテント化を見事に回避した。

まさに神速、まさに神技。


「ここです」


「はい」


階段をのぼりきってすぐの両脇に一つずつ部屋があり、廊下の一番奥にも一室あるようだ。


ミキさんが示したのは右の部屋。


ガチャリ――。


開け放たれたその部屋には、ベッドが一台。


一台だけ。


すぅ~はぁー。

くぅぁぁぁあぁあ、はあ。

落ち着け俺、落ち着くんだ!


「ど、どうぞ」


「失礼します」


暗い部屋だけど、廊下の薄明かりでしっかりと見えた。

ミキさんの紅潮した頬が。


俺の息子も、紅潮してますよミキさん。

ドンビーシャイ。恥ずかしがらないで。


ガタンッ――。


「ん?」


部屋に入った途端、背後から音がした。

背後といえば、別の部屋があったはず。


振り返ろうとしたら、ミキさんが俺の手を握った。


「気にしないで。いきましょう?」


「……はぁい」


ガチャリ――。


ミキさんは俺を引きずり込み、扉を閉めた。


んぴょぉぉぉん!

はあはあはあはあはあはあはあはあ、やべえよ。

クソやべえ。ああ可愛いッ!くっそ可愛いわ。


お父様お母様。

生んでくれて、育ててくれてありがとう。


俺、大人になるぜ!


ああ、もうそこにはベッドが。


あと何歩でたどり着くんだ。


ああ、あああああ!ついについにこの時がッ!


ガチャリ――。


「ちっ、うっせえな」


え?

誰の声だ?耳がバグったか?


「おーい!ミキ!部屋にいるのか?」


ドタドタドタ――。


男、男の声だと?

今、ミキって呼んだよな?


混乱しながらミキさんの顔を覗き込むと、見たことのない顔で扉を睨みつけていた。


そして……。


ガチャリ――。


「ミキ、面倒見ろって……ん?誰だソイツ」


そこにいたのは、ガチムチの男だった。






――――作者より――――

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