第23話 旅立ちの日
「こ、これは!?」
「おう!帰ったか」
「おっさんこれは――」
ギルドから出てきたおっさんは、それはもう笑顔であった。
そのまま俺に近づいてくるもんで、てっきり褒められると思ったわけだが……褒められることは何一つしていない。
野性味のある太い腕で、襟元を引き絞られた。
「ぐべっ……」
「ギルド戦争だってなあ!?久々におもれえ事になってきたわ!」
「わ゛、わがりましだがら、放じて」
「この荷車使って、ギルドの支部を作って来い!」
「ゔぇぇぇ」
「おお、悪い悪い。興奮しちまってよお」
ドサリ――。
「はあ、はあ、野生がすぎるだろ!興奮して人の首を絞めるって……」
「だから悪いって言ってんだろッ!」
「ぇぇぇ、逆ギレェェ?」
そう、ギルド前に置かれていたのは、リヤカーだった。
これでギルドの支部を作れとか、ウンコから金でも作れって言ってるようなもんだ。
万物の錬成方法から叩き込んでやりたいわ。
「こらぁよお、昔使ってた荷車でよお……」
ほうほう。どうやって使った?何をどうしたら、この荷車からギルドに変わるんだ?
「さあ行けっ!ギルド戦争に勝利するぞッ!」
「続きわいッ!昔使っててよお、の後が気になるんだよ!」
「いやねえよ。昔使ってただけだ」
「……古い荷車ってことか」
この知能……本当にゴリラなんだな。悲しきゴリラなんだな。
いや、ゴリラと人間のハーフってとこか。
獣人からも迫害されて、人間からも迫害されて、腰を振ることしかできず寂しくしてたら、ビリガン夫人という種族不明の生物を捕獲したと。
悲しいなおっさん。
「守りは万全ですかぁ?プリッケギルドと国の両面から、攻撃がくると思いますけどぉ」
「カカアも秘宝もきっちり守るぜ。おめえらの心配はこのギルドだろう?
前にも言ったがよお、おらあ、ギルドよりもカカアが大事だ。できる限りのことはするが、いざとなったら手放すぜ」
「また新しい拠点を作ればいいだけですしねぇ。ご希望の場所はありますぅ?」
んあ?
「へいアドミラ。新しい拠点作るってなんや。ここを守るんとちゃうんかい」
「なぜ守るんですかぁ?私たちは
「んん?そうだよ、
「はあ。ギルドというのは、ギルドマスター、拠点、冒険者の3点が揃って成立します。
なのでぇ、この建物がなくなったとしても、別の建物を拠点にすればいいんですよぉ。
それがぁ、
「死……わ、分かりました。あ、あのーそしたら、もしもこの建物が消えたら、ちびっ子冒険団とか、俺たちは、別拠点に行くってこと……っすよね?」
「……はあ」
「お、OKです」
あー、そうすか。
いやなんていうか、てっきりこの建物を守るんだ!と思ってたんだけど、違うのね。
俺はここから離れたくない派だったんだけど。
まあそうか、ちびっ子たちは浮浪児だって言ってたしな。別に移り住んでも問題はないか。
「希望の場所なんかねえからよ。おめえらの好きなとこに作んな」
「ではぁ、ギルド勢力拡大の旅、行ってきますぅ」
「おうっ!頑張ってこいやッ!」
グッと親指を立てているが……いや聞いてない。
「あ、あのーすみません
シン――。
「この辺で支部を出すとか、そういった方法は……?あ、浅知恵ですんません」
「この辺はプリッケの縄張りだろう?」
「あ、ああーそっか。だ、だから割り込む隙間がないんすね」
くっ、くそ。
レイアのあの表情……。
「当然だろ?」みたいなツラが腹立つ。
いやそうだよ、俺がアホなんだけどさ。
レイアに指摘されるとは。
「よっしゃあ!ジュンよ、おめえが守ってやんだぞ!」
バシンッ!
背を叩かれたわけだが、あんまり納得がいってない。
だって俺、強さでいったらこの中で……3番目ぐらいじゃね?
アドミラよりは強いはずだけど、アイツは守らんとこ。
下手に守ったら、後ろからグサリとか全然あり得そうだし。
「う、うーす」
「よし!そうと決まれば……」
レイアは、腰にぶら下がる小物入れに手を突っ込んだ。
スチャッ――。
なぜかグラサンをかけた。それに続きシェリスとアドミラまで。
「お、お前らなにしてんの」
「出発前に神の祝福を賜りたい。さあ、ジュンもグラサンをかけて、儀式の準備を!」
「あ、ああ」
そうして俺たちは、プリッケギルド前でみせた、あのポーズをとった。
まあなんていうか、普通に悪ふざけだったんだ。
ちょっと悪っぽい感じのポーズって言ったら、ヒップホップとかギャングとかのポーズかなって。
まさか、ギルマスが凝視してる前で、ポーズするなんて、思わないじゃない。
「……んだよこの、へんちくりんなポーズは。どこの宗教だ」
「
「
「日本にも同じ宗教があるんじゃないのか?ジュンが嘘をついているとは思えない。そうだろジュン?」
こ、このポーズのまま答えるのか?
脇に手を突っ込んで、親指をピンと立てたまま?
は、はははず、恥ずかしいよ。
「そ、そそ、そうですけど。ちょ、ちょっと宗教の名前は伏せるけど、ほ、ほぼ同じ教義のし、宗教がある、んだ」
「……ジュンおめえ、やるじゃねえか。参ったぜ。今までの日本人とは違うわけだ」
それから一分はこうしていた。
どうせなら一分間、チンコを晒したほうがまだマシだった。
それぐらいの恥辱を心に抱き、俺たちはギルドを後にしたのだった。
ガラガラガラ――。
俺たちは、コウロン町という田舎町へ向けて歩いている。
クィスリア町の隣にあり、結構栄えてるという話だ。
といってもクィスリア町に比べればってだけで、王都を引き合いに出したら、目くそ鼻くそぐらいの差しかない。
そもそもなんで、コウロン町に向かうのかって話だが、それは国から出るためだ。
この国はプリッケが支配しまくってるらしいので、ビリガンギルドが手を広げると、必ずプリッケとぶつかってしまう。
なので、プリッケがいない国へ向かうわけだ。
さてそれはどの国か。
どんな国か。
「プリッケどころか、ギルドがない国ですけどねぇ」
「……一応、理由だけ聞いていいすか?」
「魔王領だからですぅ」
「……は?」
「魔王領でギルド作るとかぁ、フフフ。バカみたいですよねぇ」
「はいバカだと思いますだからやめましょうアドミラ様マジで頼んます死にたくないですていうか冒険者は魔物を殺すんですよね?なのに魔物がうようようしてる魔王領に冒険者ギルド?キチゲエもほどほどしにしてください」
「わぁ、スゴぉぉい。早口が上手ぅ」
バカにされてるのは分かっている。だがコイツ……。
可愛い。
それが腹立つわ。
一見するとバカげた案だが、アドミラはバカじゃない。
考えがあるのだろうが、ただ他にも方法はありそうな気がするんだよ。
コイツはわざと、俺たちをいじめようとしてるとしか思えないんだ。
「……他の国はどうなんだよ。ギルドが進出してない国、ないのか?」
「ありますよぉ」
「ほれきた、そこに行けばいいだろ!クソサドイカれポンチめ!危うく死ぬところだったぜ」
「人間を憎むドワーフ国。女人の国アマゾネス。ギルド――」
脊髄に電流が走り、俺の口からは言葉が発せられていた。
「アマゾネスだ」
「えぇ?」
「女人の国アマゾネスへ行くぞッ!」
意識して口を動かすなど二流、いや三流の人類だ。
これだけ待てをされた俺が、俺の肉体が、俺の息子が、すべてが求めているのだ。
アマゾネス……女を!
っしゃあオラ!
そこだったか俺の居場所は!
ありがとう神。
ありがとう踏み台の残念ヒロインたち。
お前たちの顔を思いっきり踏みしめて、アマゾネス国でハーレムを築きます。
子どもはたくさん作って、必ず年賀状書くよ。
子どもが多すぎて、卒業アルバムの俯瞰写真見たくなると思うけど、それは許してな。
「……さん?ジュンさぁん!?」
「あ?あ、ごめん。幸せな家庭を夢見てた。お前らの住所だけ聞いといていいか?年賀状――」
「まず股間を切り落としますぅ。その次はぁ、何らかの障害が残るように暴行されますぅ。そして奴隷になれますよぉ」
「……ん?」
「アマゾネスの国に立ち入った、男の末路ですぅ。大変有名な話ですが、どうします?行ってみますぅ?」
「……へ、へへ。どうせ嘘だね。そうだろ?」
この中で唯一信頼できる者へ視線を向けた。
そう、レイアである。
「本当だぞ。しかしジュン、さっき家庭を作ると言っていたが、
アマゾネスは独自の宗教があったはずだから……」
そんな教義知らんわッ!
結婚できるってのが驚きだが、んなことよりもマジかよ。
アマゾネス……無理なのか。
いやしかし、主人公補正が……って無理だ。
周りを見てみろ。どこに補正がかかっている?
確かに見た目は最高だ。ボディーが最高なのは、俺の息子をの反応を見れば分かる。
だが性格が、キャラが、ダメなんだよ。ヒロインじゃない。
補正なんてありゃしないんだ。
「諦める。あ、いや、
「知らなかっただけか。そうだ、まだこの世界に来て1日だからな。ハハハ危ないとこだったなジュン」
「ああ、はははははははははは」
ははははははははは。
――――作者より――――
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