第22話 レイアさんさあ

「ふむ。ギルド戦争をするから、金が欲しかったのか」


「そうなのぉ。それでぇ、おいくら投資してくれるぅ?」


「ふぅむ、いくらでも構わんぞ」


「フフフ、そう言うと思いましたぁ」


……そう言うと思ったとこ、あったか?

皆無だったけどな、俺の目腐ってんのかな。

なんか渋々みたいな感じだったけど、何がそうさせるんだおやっさん。


やはり可愛さか。

娘可愛さに金を出すのか。


「スキルの将来に期待している。ジュン君、これから宜しく頼む」


「よろしくどうぞ。会長様」


っしゃあオラ!

やはり、この俺の激ヤバウルトラMAXのスキルパワーに、惚れちまったんだな。

それはそうだろうな。

この俺がビシバシと、多彩な表現を織り交ぜてスキルの有用性を説いたのだからな!


ムハハハ。

最強の商会をバックにつけて、最強の召喚勇者がこの世界で無双すると。


これで主人公街道まっしぐらだな。

金がガッポガッポ入ってきて、奴隷を買い込んで、チョロインを助けて、お気楽ハーレムを作って、そして!


ハイ卒業。

お疲れした!


「ところでそちらの、金髪の美しいあなた。お名前は?」


うん?娘の前でナンパか?


「レイア・スタルトスです」


「レイア殿。うむ、どうして騎士の格好を?ドレスを着たら、きっと美しいだろうに」


「……私は、騎士に憧れがあるのです。騎士になるまでは、ドレスなどチャラついた服は着ません」


「ハハハハ。そうか、これは失礼。いや私も昔は、騎士に憧れましてな。他人事とは思えんのですよ」


「はあ」


「よければ剣を見させていただいても?」


「剣……ですか。いや、実は壊れてまして」


「なんと」


レイアはおもむろに立ち上がると、柄を握った。

スポンと取れたのは、言うまでもなく柄だけ。

刃はというと、鞘の中に収まっていて、鞘をひっくり返さないと取れないような有り様だった。


これを目の当たりにした、おやっさんはポンと手を打ってこう言った。


「剣を一振り差し上げましょう」


これってナンパじゃね?




というわけで、一階の武器コーナーへ来ましたと。

さっきシェリスが錯乱していた場所だ。

ナイフ、剣、ナックルダスター、弓、ボウガン、盾に槍。色々揃ってるが、どれもこれも目ん玉が飛び出そうになる値段だ。

いや実際に目が飛び出たので、押し込んだのはマジな話だ。


武器はまだまだある。

銃のような造形のもの、刀と思しきもの、薙刀っぽいものや十手、さすまたまで。

異世界人もとい日本人が、かなり馴染んでるようだ。

馴染んでるってか、知識チート使いすぎて、価値が半減してそうな気がする。


「さあ、好きなものを選ぶといい」


「い、いやこんな高いもの――」


「貧乏だったかつての私も、こんなものは買えなかった。そして夢破れたが、この道に進んだことは間違いではなかった。だから、かつての私へご褒美を上げたいのだよ。受け取るのは君だがね」


「……本当に良いんですか?」


「ああ。好きなものを選びなさい」


俺が目を細めているのは、ごく自然なことだろう。

このオヤジ、企んでやがる。

いかにして自室へ連れ込み、いかにしてレイアを脱がせるかとな。


金持ちはいいなあ!

余裕があっていいや。

こんな風に余計な邪推もしないんだろうよ。


だが本当に邪推かな?

奥さんは海外へ出張なのだろう?

あれれれ?なんか寂しいなーとか思ってたら、若くて健康的な、金髪美女が現れたから手を出そうってんだな。


バレてるぜおっさん。

外見では分からねえが、心のポコチンはギンギンなんだろ?


「こ、これなんかいいですね」


「おお、そうだな。うむ、持ってみなさい」


「……おおっと」


「おっと危ない。慣れない内は、ふらつくものだったな。ハハハハ」


おいおい、ふらついたレイアの腰に手を当てて、他にはどこを擦り付けてんだろうな。


「一度振ってみるといい」


「え?ここでですか?」


「ああ、振っているところが見たい」


本当は乳のブルンブルンをご所望なのだろうが、そうは問屋が卸さないぜ。

レイアの胸当ては金属製。1ミリも揺れんぞ。

どうするのだ!どこを見てオカズにするというのだ!


「は、はあ。ではいきます。はああっ!」


レイアが剣を振り下ろす直前に、俺は思い出した。


コイツが真性のドジっ子であることを。


そして、そしてぇぇぇぇぇ!


「ちょっと待――」


ジャギンッ――。


レイアが向いている方向には、あのがあることを思い出した。


ドシンッ――。


ちょっとだけ揺れた、チェレーブロ商会の一階フロア。

その原因は、真っ二つに切断されたである。


100億ゴールドのテーブル。

世界樹ユグドラシルの生木から切り出したテーブル。

日本円で一兆円の


誰も口を開けなかった。

あのドS大怪獣のアドミラでさえ、表情を失っていた。


「あ、あ、ああ、ああああの、あの、すみ、すみません、すみませんでした!」


その言葉にどれほどの価値があるのだろうか。

100億ゴールドの輝きはあるだろうか。


答えは否ッ!


あるわけねえ。


「ぁぁ、ハハは、ああーあ、ハハ、ははハ」


壊れてしまったおやっさん。

本当に悲しいよ。ナンパしてお持ち帰りしたかった美女が、100億ゴールドを叩き斬ったのだから。

ちょっとカッコつけて、いい剣をプレゼントして、パコパコしたかっただけなのになあ。

奥さんがいない隙に、ちょっと羽目を外したかっただけなのにな。


そりゃあ、涙目になるわ。


「本当に、申し訳ない!」


「ハハはハハ、いやいいんだ。私が振れと、フレと、言ったのだ、からなあああはははは」


壊れてしまったおやっさんは、正装の男たちに担がれて、どこかへと消えていった。

そして俺たちは、従業員たちからの無言の圧力を受けて、早々に退散したのだった。






「……アドミラ、本当にすまない。私はどうしたらいいだろうか」


「……死んで詫びたらどうでしょう」


「そ、それはできない!だが、それほど重い罪だよな」


とてつもない雰囲気だった。

ドンマイドンマイ、切り替えてこーぜ!とか言えない。

なにもドンマイじゃないもん。

普通にこいつが悪い。


「てか、あれどうやったんだよ。斬撃が飛んでたろ」


「……これは魔法剣なんだ。魔力を吸い上げて、斬撃を伸ばしたり魔法を付与したりできる」


「へえ。すげえじゃん。ちゃっかりもらってるしな」


「ちゃ、ちゃっかりではない。従業員の方が持ち帰れと、頑なに言うから……いや、まあ、ありがたいのだがな」


あーあ。

どうなんのかなー。

おやっさんが正気に戻ったら、まずブチギレるだろ。

次は俺のスキルの件は破談になって、商会からの金は当てにできなくなり、ギルド戦争で負けると。


これで、この旅にも幕がおりますか。


「みんな家はどこぴょん?泊めてほしいぴょん」


「突然だな。俺ん家来いよ。一緒に寝てくれるなら、バフォッ」


「お前の家なんてねえだろカス。次肩組んだら、ケツの穴から心臓引っこ抜いて、お前のチンポと交尾させてやる」


「ひょ、表現が独特なこって」


クソッ、肋骨が折れた気がする。これは完全に折れてるわ、間違いない。慰謝料を請求しないと……。


「折れてねえよ」


「くっ、思考を読んだだと!?貴様スキル持ちか!」


「ツラ見れば分かるわ」


ちっ。

ちょっと触ったぐらいで怒るなよな。

本当はもっとナデナデしたいんだからな!

こんなもんじゃ済まないぐらい、ナデナデしたいけど、むしろ抑えてやってるんだからな!


はあ。

そうか。

俺ってホームレスなのか。

いいなー、追放されなかった召喚勇者は。


今頃ぬくぬくのベッドで、クソエロいメイドにあーんなことやこーんなことしてもらってんだろうな。


あぁぁぁあぁあぁあぁぁぁああいいな゛あ゛!


「私は基本的に野宿だが、一緒に寝るか?」


「の、野宿ぴょん?え、えーと、アドミラたんは?」


「私はぁ……考えてませんでしたぁ」


「金あるんだろ?宿に泊まればいいじゃん。ついでに俺も泊めてくださいお願いしますアドミラ様!」


「フフフ。いいですよぉ?肥溜めに突っ込んだ私の靴を、べろべろと愛おしそうに舐めてくれるならぁ」


「……悪魔め」


で、ギルドに到着したわけだが。


どうなってんだおい!






――――作者より――――

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