18.敬虔なる信徒
「ウチの人数考えてみ、2秒で決着つくって。オワタよねこれ、オワターよね?」
「死ななければ良いんですよぉ。バカなんですかぁ?」
「……あはい。さーせん、ばかなんで細かくせつめーしてもろていいすか」
「ギルド戦争はぁ、ギルドの拠点数と登録冒険者数、依頼達成数でポイントが加算されますぅ。高難度の依頼ほどポイントが高いですからぁ、戦争が始まると人がよく死ぬんですよねぇ」
「あー、そゆこね。ややこしい言い方しおって」
「ということでぇ、行きましょうかぁ」
「あ、ああ。どこ行くの?」
「どこって、商会ですよぉ。先立つものが必要ですからねぇ」
そう言って立ち上がったアドミラは、鼻に乗っていたグラサンをかけ直し、倒れ伏している冒険者たちに中指を立てた。
「おつかれぇー」
まさに煽りの真髄を見た瞬間だった。
ただヤンキー座りをしてただけの小娘に、あんな事言われて腹立つ気持ちはよーく分かる。
地面をガリガリと引っ掻いてるおっさんに、とんでもない同情をしながらも、言わずにはいられなかった。
「ふっ。おつかれー」
これぞ異世界無双!っしゃあオラ!
チェレーブロ商会へ向けて、てくてくと王都を練り歩いていたが、時々すれ違う騎士に、体が震えてしまう。
犯罪者の心境はきっとこんなんなのだろう。
つーか俺、なんか悪いことしたか?
いやしてない。
良いことすらさせてもらえてない。
俺を喚んだからには、せめて良い目を見せてくれよ!
修行僧じゃあるめえし、禁欲生活を望んでるわけじゃあねってんだよ。
「はっ、ジュン!アソコ見てみろ!」
「あ?俺の股間を貶してんのか?」
「こか、何を言ってるんだ!ほらあっち!」
レイアが、指さした方向を見てみると、不気味な一団がいた。
ボッロボロの貫頭衣を纏い、手を合わせて練り歩き、ブツブツと何かを呟いている。
血走った目でギョロギョロと辺りを見回しているので、ビビった人々が面白い具合に避けていく。
「アレがなんなんだ?あんまし、人を指さして笑わんほうがいいぞ」
「あ、ああ、すまない。
「えっ!?」
「ジュンの同胞のようなものだろう?話したいかと思ったんだが……たしかに、嘲笑と取られてもおかしくない無作法だったな」
「あ……」
や、優しい心だ。
眩しい!俺には眩しすぎる!
「へぇ。ジュンさんは
「……い、いや」
「そうだぞ。かなり敬虔な信徒だ。ゴブリン討伐の時は、綺麗な祈りの姿を見せてもらった。まったく尊敬するよ」
「へぇぇ」
ホーリーシッッ!
やべえやつに目をつけられた。
はぅっ!?
ヤバい、ヤバいぞこのニオイは。
面白そうなニオイだ。
迫りくる
このドSイカれポンチは、間違いなく面白臭を嗅ぎ取っているはず。
動く前に抑えねば。
「シェリス!アドミラのパンティーにシミが付いてたぞ。見たか?」
「へ?な、何を言ってるんですぅ?」
「マジ。これはマジ。さっきウンコ座りしてたろ?その時見えたんだよ」
「ジュンさん?人のお尻がユルイみたいな言い方止めてもらえますぅ?」
「さて、誰がお尻と言ったかなあ?」
ふっふっふっ。
シェリスよ、お前の性癖は既に把握している。赤子の手をひねり、バク転を決めて、社交ダンスまで踊ってから、寝かしつけるぐらいに簡単だぜ。
「はあ、はあ、はあはあはあはあはあ」
「シェリスちゃん?ダメよぉ!?お薬飲んでぇ」
「あ、アドミラたん、アドミラたんも興奮してたんだね」
よし、これでイカれた信者たちと関わらずに済む。
後は奴らが通り過ぎれば、万事解決と。
ああ、なんか主人公してるなー。
二枚目イケメン主人公キャラかと思ってたけど、頭脳派イケメンモテモテ主人公キャラもいけるな。
はあ、俺の才能がやんなるぜ。
「ね、ねぇ、ちょっとぉ、んッ、みんな見てるからぁ」
「はあ、はあ。何もしてないよアドミラたん。ちょっと耳の匂いを嗅いでるだけだもん。はあ、はあ」
「耳たぶ噛んでるじゃないのぉ、はあっ、おねが、あンっ、止めてぇ」
「はあ、はあ、アドミラたん、興奮してるんだね。はあ」
……あれ?おかしいな。
なんだろうこの、虚しい気持ち。
すごく、妬ましいんだけど。
妬ましいけど、エロいな。
おっかしいなー、息子が震えてやがる。
「おいおい、アドミラが嫌がってるじゃないか。おふざけもその辺にしろシェリス」
「はあ……はあ、レイア……うん。そうだぴょん。ごめんねアドミラたん――」
冷静さを取り戻しただと!?
ちっ、薬が効いてるのか。
いや、でもまあいいか。
俺の前で始められても困るし。
てか、道のど真ん中だし。
うん、これでいいはずだ。
もうちょっと見たかったけど。
「私、レイアでも良いんだぴょん」
「おっと、大丈夫か?前を見て歩かないから転ぶんだぞ」
「ぴょん」
えええええ?そっち?
マジで見境ねえなてめえは!
俺よりも酷いぞ…羨まけしからんぞ!
もっとやれ!
オカズを提供しろバカヤロー!
「んん?どうしてお尻を触るんだ?」
「な~んでもないぴょん。この方が落ち着くぴょん」
「……ふむ、まあいいけど。くすぐったいから、指は突っ込むなよ?ハハハハ」
おっさんか!
もっと女の子っぽく恥ずかしがれや。
でも、こうなってくるとだな、アドミラが嫉妬するんじゃないか?
いつもシェリスがベタベタくっついてきてたから、寂しくなったんじゃないか?
どうなんだアドミ……。
ヒェッ。
なぜ俺の真横に!?
しまった!
激エロゆりシーンに溺れていた俺の、意識と視野の死角をついてきやがったか。
コイツ、戦い慣れてやがる――。
「フフフ、嫉妬にかられると思いましたぁ?」
「い、いや?」
「私、男の人が好きだって言いましたよねぇ?シェリスちゃんは妹みたいな子だって。レイアさんと結ばれるのが一番ステキなんですからぁ。本望ですよ、今の状況」
「はい」
「それにぃ、あの集団から目を逸らさせる気だったんですよねぇ?」
「……は、はあ?なんの話かな。興味があるなら、話しかけたら良いじゃん」
「フフフ。バァァァカ。墓穴掘りましたねぇ」
クソぉぉぉぉぉ!
「すいませーん。
余計なことさえしなければ、もしかしたら話しかけなかったか?
俺の行動が火に油を注いだというのか?
いやそれはない。
コイツはなにをしようが、なにもしなかろうが、必ずあのイカれた信者共に声をかけていたはず。
最初から詰んでいたのだ。
クソッ!ドSのサイコパスめ!
ああ、
口元がパクパクして、呪いでも唱えてんのか?
ガリガリで目元のくまがすごいし、唇もカッピカピだ。
全員……ツルッパゲだし、カルト感があって……ヤダ。
怖い。
「はあはあはあはあはあはあははあはあはあはあはあ。ど、はあはあはあはあは、なんでしょう、はあはあはあはあはあは」
「ひぇっ」
こ、怖いよ。
なんでこんなに息切れしてんの?
しかも臭っ。なんだこの臭いは……まさか死臭?
ぇぇぇ、ヤバいよアドミラ!
ニヤリ――。
あ、オワタ。
「実はぁ、この人も敬虔な
アドミラの言葉を聞いた瞬間。
ゾンビマンたちの動きがピタリと止まった。
ギギギッと首だけが俺に向けられ、乾燥した眼球がギョロギョロと俺を舐め回す。
ち、チビリそう。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ。嘘だ。絶対嘘だ」
バレた!?
そりゃそうだ!こんなに干からびてねえもん俺。みずみずしい体だよ!?
今思えば、おかしいよな。
レイアも、あのプリッケギルドの陽キャたちも。
コイツらと俺を見比べたら、全然違うってすぐに分かるはずだろ。
やっぱりこの世界の住人はアホしかいなんだろうな。
「精神を保てるはずがない。はあはあはあはあはあはあ、嘘だ嘘だ嘘だ」
「……精神?」
「お、おおおおお、おん、おおおん、おんお、おおお、だ、ダメだ言えない。言えばまたあの苦しみが……」
おん?
怨怨怨……恐えよ。
「ジュン!良かったな!同胞としばらく話すと良い。私たちはここで待つ!」
「ごゆっくりぃ」
「あ、チョトマテ、ください!」
ギロリ――。
「はあはあははあはあはあはあはあはあ、危ない。声を聞くだけで、ああああ、落ち着け落ち着け、ああああ神よぉぉぉ」
「……」
唖然としていたが、その動きには見覚えがあった。
俺の目の前にいる信徒たちは、皆、祈りのポーズをとっている。
そう。
俺が森でした、あのポーズ。
「もしかしてお前ら、勃起してる?」
「はあはあはあははあはあはあはあはあはあはあはあははあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ」
コイツら良いやつな気がする。俺の勘がそう言ってる。
――――作者より――――
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