第1ー2話 勇者コールセンターよ去れ!

走り去っていく騎士を見ながら、俺は思う。

ああ、オワタ。


「良い体つきだ。じっっっっくりと、調べさせてもらうぜ。ジュルリ」


「……い、嫌だ!掘られるとしてもイケメンがいい!もっと若い子がいい!」


「げっへっへ。もうイッちまってるぜ」


「イクかあッ!恐ろしすぎて、萎えるどころか、めり込んでるわ!」


おっさんの握力はハンパじゃなかった。

これが性欲の力、これが獲物を狙うオスのパワー。

抵抗虚しくズルズルと引きずられ、俺はハジメテを失うことに……。


ならなかった。


「なーに言ってんだバカ。野郎のケツなんか興味ねえよ。カミさんいんだぞ?」


おっさんことビリガンの視線の先には、性別不明だと思われていた、未知の生物ことおばはんがいた。

客用と思しきソファで、太腿を見せつけるように、足を組み替え煙草を吸っている。

そう思えば、意味ありげに水晶をスリスリスリスリ。よっぽどタマが好きらしい。


で、笑いよった。

俺を見て、笑った。


ちっ。覚えてろよ。

そのパーマをストレートにして、美容室代で家計を圧迫させてやる。


「んじゃ、これに必要事項を書いてだな。ほんで、これ。おめえさんのスキルやら何から何まで、じっくり見させてもらうぜ。ジュルリ」


「……そのジュルリはなんすか。びっくりするんですよケツが」


「んああ。悪いな。もう3日でよ。見てみろあの足。ああ、たまんねえ、カミさんを早く――」


「あっ、はい。書きました!」


危ねえ危ねえ。

耳が腐るところだった。

おっさんが、何を食ってないかはさておき、受付に置かれた板に手を触れた。


まあ、王城でも見たから、これの使い方は知ってる。

ただ触れるだけで、俺の魔力を吸い上げ、そして……。


文字が浮かび上がる。


「ちょっくら……ほう。神託スキル【コールセンター】か。使えんのか?」


「いえ。神に使い方聞いてもらえます?悪ふざけも大概にしろって文句言ってもらえます?」


「神と話せるんなら、かかあとヤラせろって、とっくに頼んでるわ」


「……そっすか」


クッソ、マジでどうしよう。

変態と思われたビリガン氏は、割りとまともな変態らしい。

助けてとお願いすれば、もしかしたら手を差し伸べてくれるかもしれない。


だが………。


「ウチは、他のギルドみてえに、規則ガチガチってわけじゃねえからよ。自由にやってもらって構わねえ。それに多少の犯罪は目をつぶってやっからな!」


ここがギルドという衝撃。

近所の駄菓子屋かと思ったが、駄菓子はどこにもないし。

バーにしては酒もないし、店員がくたびれすぎてる。

場末のスナックよりも小さいこの場所が……。


「……冒険者ギルド」


「おお。そうだ!ビリガン冒険者ギルドだぜ!俺がギルマスのフリー・ビリガン。昔は腰振りビリガンって呼ばれてたなあ。知ってっか?」


腰振りビリガン……。

きっとイジメられてたんだろう。

カッコいい二つ名みたく自慢してるが、心は泣いてんだろうな。


もう二度と聞きたくない名前だ。


俺は悲しく首を振った。


「知らねえ、だと?」


「当たり前でしょ!なんすかそのイカ臭い二つ名は。だいたい俺は、召喚ホヤホヤなんすよ。知るわけがないんです!」


「……召喚?まさかお前!」


あ、ヤバい。

おっさんが不憫すぎて、なんか正直になっちまった。

こういうのって、普通は隠すんだっけ?

異世界系のファンタジーでは、転生やら転移やらした奴を、殺したり拉致したがるから。


――ミスったかも。


目を剥いたおっさんは、俺の肩をがしりと掴んだ。

分厚い手、ゴリラみたいな握力。

ちょろっと出た鼻毛。


ビビる俺は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

頼む、変態は紳士であれ。

そう願った。


「良かったなあ!逃げられて!」


ほう?






――――作者より――――

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