第14話 説明と検証会(回)

「おめえら、なに考えてんだ」


「プリッケギルドでは……スキルがしょうもないと言われてな。だけどこのギルドは私を受け入れてくれた。この場所を失いたくないんだ。冒険者を手放したくないんだ!」


俺……主人公辞めます。もう無理。恥ずいわ。

よっぽど主人公してる奴が二人いるんだもん。

いやいや、やってらんねえ。絶好の決め台詞チャンスも奪われて、こんなに響く事言われて。


新天地でハーレム作ります!とか言ってたんだぜ俺?

もう無理よ。うん、勝てません。

レイアとおっさんで、新たな主人公の座をかけてバトルでもしてもらったほうが、熱血展開になってよっぽど面白えや。


「わ、私も……。アドミラたんとパーティがいいぴょん」


「おめえら……そうか。このギルドにそこまで情が移ってたか」


レイア、シェリスと来たら、次は俺か。

俺がここに残らねばならない理由……話さないとな。

――正直ない。

早く別のギルド行って、クソエロハーレム作って童貞を卒業したい。

と言いたいが、さすがにな。

俺は日本人だから、空気はちゃんと読める。和を乱す気もない。


拾ってもらった恩とか、これまでの日本人の行いに対する贖罪とか、おっさんには頭が上がんねえって、良い感じのことを、ちゃんと言葉にしなきゃなあ。

ハズいけど、やっぱり伝えんとな。


ふぅ、俺は深呼吸をして口を開いた。


「俺は――」


「で、プランはあんのか?」


「やっぱりぃ、チェレーブロ商会の庇護があったほうが無難なのではぁ?」


「大商会様と関わってロクなことねえや。できれば御免被りたいね」


「あらぁ、酷い言い草ですぅ。ちょこっと見返りをもらえれば、喜んで協力するというのにぃ」


「アドミラ……頼む!ここは仲間として、無償で協力してほしい!なんなら、私が見返りとやらを――」


え?


もう俺、死んだほうがいいかな?


誰かー!召喚してもらっていいですかー。

居た堪れなくて、自殺しそうなんですけどー。


神ー?見てるー?

涙が出そうだから……プライドが紙吹雪みたく散ってるからさあ、もう消してくんね?俺のこと。


「……聞いてるのかジュン!?」


「あ?あ、殺してくれる?頼むよレイア。胸を一突きしてくれ」


「い、いや。剣は壊れてるから……じゃなくて!ふざけてる場合じゃないんだぞ!ジュンも何か案を出したり、スキルでどうにかできたりしないのか?召喚勇者なんだろ?」


「……あったら言ってるわッ!スキルだあ?使えねえよッ!ああ、ちょっと使えたんだ見るか?っと、ほれ!これでも使って殴り込んでみるか、よっしゃ!行こうぜっ!ってなるかぁぁぁあ!」


空中からポロリと落ちたヘッドセット。

レイアは首を傾げながら、それを拾い上げた。


「これは……?」


「ヘッドセットだよ!コールセンターの必需品!戦闘では糞の役にも立たん、コールセンターの宝だよ!」


「あー、これと同じぴょんねえ。落ちてたから拾ったぴょん」


シェリスは、ヘッドセットをつまんでプラプラさせていた。

アイツの性欲が暴走してた時に、俺が投げたもんだろう。


「ほう。物体を生成するか、やるな、ジュン」


「おっさんやめてくれよ。大した事ないのは俺も分かってんだよ」


「大した事ないのはおめえのオツムだ」


「……は?」


「スキルは使う人によって輝き方が違えんだぜ?特に神託スキルってのは、唯一無二なものが多いから、使い方に苦労するのはよー分かる。だがよお、そりゃあスキルのせいじゃなく、おめえのせいだ」


「……」


クソぉぉぉぉ!なんも言い返せねえ!

分かってるよ!俺はなあ、伊達に異世界物を読み込んでねえんだ!

主人公は、スキルをどうにかして上手く使わなきゃならん使命があるって、分かってるけど……。

スキルの使い方を示してくれるガイド的な音声もないし、降って湧いたきっかけとなる場面もない……こともなかったな。


「ヘッドセット」


カツン――。


いやー。ヘッドセットが落ちてきたけども。

だから何よ。


「コールセンターってなんですぅ?」


「……職場、だな。電話対応業務を行う職場を意味する言葉で、そこで従事する人はオペレーターという」


「電話……たしかぁ、思念通話と同じものですよねぇ」


「思念?ああ、まあ、そうなんじゃね?知らんけど。てか、電話知ってんのかアドミラ」


「召喚勇者には何度も会ってますからぁ。ふーむ」


大して貴重でもないんかい。そういや召喚勇者だったのに、コイツらの反応も薄かったしな。

貧乏なこの国にしてみれば、召喚勇者はコスパが良いんだろう。

俺みたく、異世界だぁ!とか言って浮かれてるバカを、適当におだてて戦争やらに駆り出せば良いんだから。

搾取するにはうってつけだ。


実感が湧かなかったけど、マジで追放されてよかったんじゃね?

いやでも、追放されたからこそ、スキルを使えなけりゃただのゴミムシ。

交尾もできず、子孫も残せない、ゴミムシの中のゴミになってしまう。


「思念通話……ってえと、そういや、ちと待ってろや」


そう言って、おっさんは奥に引っ込んでいった。

なんや、美味しいもんでも持ってきてくださるんでしょうか。


「コールセンターと言う職場の必需品ですかぁ。普通はもっとあるはずですけどねえ、必需品」


「いや、まあ、あるけど。この世界にはないんだよ。例えばPCとか、電話機とか」


「ある物はどうですぅ?例えば机とか椅子とかぁ」


たしかにそうだな。

なにも、ヘッドセットだけが必需品じゃない。

PCも電話機もないこの世界では、日本にあるようなコールセンターなんて開設できないわけで。

異世界に合わせたコールセンターにするならば?と考えれば、必需品は自ずと見えてく、る?


あれ?あれれれれ?

きちゃったかなぁぁぁぁぁぁ?


ボクチンの無双英雄譚スタートかなぁぁぁぁぁあ?


「ムハハハ。では行くぞ!椅子!」


ガタンッ――。


「おぉ」

「ぬぁっ、すごい。すごいぞジュン!」

「ぴょん」


空中から降ってきたのは、一脚の椅子だった。

たかが椅子、されど椅子。


「っしゃあオラ!俺の時代じゃぁぁぁあ!机カモーンヌッ!」


ドゴンッ――。


「しっかりした作りの机だな。ジュン、やりゃあできるじゃねえか。よーやったな!」


「あざっす!」


はい!やっぱり俺は完全なる主人公でした。

今からでしたわ。

今からチート無双ウハウハハーレム開始ですわ。

いやー、この分だと卒業が早そうですわー。

息子も喜んでるわ。うむうむ。


「この世界の文明と、大きくかけ離れない物なら生成できそうですねぇ。ところで、これがアクティブスキルならぁ、パッシブスキルはなんでしょうねぇ」


「アク……パッ、え?」


「アクティブは魔力を消費して発動するスキルですぅ。パッシブは、魔力を消費せず常時発動しているスキルなんですけどぉ、知らないですよねぇ」


「……はい。知らねっす。なんすか。必要なのはパッシブよりもパッションよ!俺はスキルが使えるぞぉぉぉ!ッしゃあ!これでギルドも安泰や!」


「使えないことは分かりましたぁ」


「ちょ待てい!使えんことはないだろ!」


……いや、使えん?

言っといてなんだが、使えねえよ。

机やら椅子やら降らせてどうする?

降ってくる位置は、決まって俺の身長を超えない高さからで、敵の頭上からとかは無理っぽい。


……あれ、やっぱり使えないよね。

ぇぇぇ。


「おいしょ。おいコレ、使えねえか?」


おっさんが机に置いたのは、おもちゃ箱のような箱だった。

何やら見たことのない道具が、乱雑に詰め込まれている。


「ガラクタですねぇ。旧世代の……思念通話器?」


「おお。まだ使えるぜ」


おっさんが取り出したのは、紐にぶら下がった金属の板だった。

アニメとかで見たことがある、冒険者が首にかけてるような、プレートみたいな。

それよりも5倍主張が激しい金属板が、ピカピカと光を反射させてる。


「どうせギルドが潰れるんなら、おめえのスキルぐれえは、花開かせてやりてえからよお。やろうぜ、検証を」


「お、おっさん……」


キュンとしたのは、一生の秘密として墓場まで持っていくつもりだ。


「スキルはスキル名称に関連した、アクティブとパッシブのスキルを有するはずですからねぇ。思念通話器で試すのは悪くない……面白くなってきましたねぇ」


「ふぁぁぁ……ぴょん」


「つまんなそーだなシェリス!俺の大事なスキルが爆発するかもしれねんだぞ。ワクワクせんか!」


「あーはいはい。ぴょんぴょん」


くっ。つまらねえってか?ああだろうな。

もしこれがラノベで俺が読者ならば、つまらん説明シーンなんて、すっ飛ばしてらあ。

じゃあどこを見るかって?

主人公がヒロインとイチャイチャするシーンを見て、パンツ脱ぐに決まってる。



だがしかし!ここは異世界、俺は主人公!

なんせ人生がかかってんだから、やるぜ!


「頑張れジュン!」


「お、おう。応援ありがとう!で、なにをすれば良い?」


おっさんとアドミラを交互に見るが、二人もこちらを見ている。


え?俺?


「コールセンターで思い当たるパッシブはねえのかよ」


「パッシブ……」


さあ?

滑舌が良くなるとか?

電話対応しながらキーボード叩けるとか?この世界的に言うと、思念通話しながら速記できるみたいな?

それ以外にある?


「魔力はまだありますぅ?」


「……まあ、あると思うけど。疲れたりとかはないし」


「それじゃあ――」


アドミラの提案で、思念通話器を全員に配布。

んで、みんなで思念通話をしてみることになった。みんなといっても、アドミラと俺、そしておっさんのみだ。

シェリスは「終わったら呼んでー」らしい。

レイアは思念通話器を壊しそうなので、俺が待機を命じた。しょんぼりしているが……すまねえな。今はドジッ子成分不要な時間なんだ。


旧世代の思念通話器は、金属プレートに触れればいいらしい。だから首から掛けておくだけでオーケーと。

そしたら、頭の中に思念が入ってきて、相手に思念を送ることもできるそう。


『聞こえっかー?』


『おお!聞こえる!すげえ!俺の声も聞こえるっすか?』


『ああ。アドミラは聞こえっか?』


『はぁい』


『これ、どういう理屈で繋がってんの?番号とか設定されてるわけでもねえっしょ?』


『予め思念通話器同士を認識させておけば、通話はできますよぉ。ただぁ、認識させた通話器全部に会話が聞こえるのでぇ、秘密のお話には向きませんねぇ』


『グループ通話みたいなもんか。使えねえや』


『使えるだろーがバーロー。こいつがありゃ、いちいち叫ばなくたって、連携が取れんだろ』


『まあ確かに。んで、どんくらい離れられるんだ?国またいでもイケたりする?』


『……魔力お化けじゃないと無理ですよぉ。この距離だから魔力消費は少なくて済んでますけどぉ、距離が離れるごとに魔力消費が大きくなりますからねえ』


『ほえー』


『いや、魔力減ってねえぞ』


『マジっすか?』


『おお。間違いなく減ってねえ。アドミラは分かっか?』


『うーん、まあそう言われてみれば……という感じですねぇ』


『距離が短えから分かりにくいんだろうが、こりゃあすげえや。ジュンを中継すれば、魔力消費なしで遠隔念話できんじゃねえのか?』


『ほう。掛け放題プランてことか』


『掛け放題?』


『なんか分かったっす』


『魔力消費なしならぁ、国際念話も可能だけどぉ、会話は全部聞かれちゃうのかぁ。そこをクリアすれば……』


『すれば?』


『革命起こせそうですねぇ。ますます、このギルドから離れられなくなりましたよぉ』


『……そすか』


でもあれだな。

コールセンターってんなら、絶対にも必須なはずなんだよなあ。

道具ってよりはシステムなんだけど……。

まあでもいいや。


とりあえず、俺がすげえってことは分かったし!







――――作者より――――

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