第13話 腰振りビリガンこと、フリー・ビリガン

クソゴリラめ!

ダンジョン攻略の秘宝になんてことを……。


「例えばミスリルの剣に変えたりできるんですかぁ?」


「ああ、変えられっけど、なんの意味があんだ?」


な、なんの意味があるかだと!?

頬にもらったワンパンで顎がとてつもなく痛かったけど、言わねばならん。


「あるでしょうが!ミスリルって言えば、伝説の鉱物でしょッ!無茶苦茶強くなれるじゃねっすか!イテテ」


「んなもんなくたって、身一つで十分だわ。道具を過信しすぎると、いつか痛え目を見るぞ」


「……くっ。強者の言葉、言い返せねえよ」


やはりこのゴリラは、相当強いアホだ。

そのせいでギルドがちっこいんだろ。

裏でパコパコしてる暇があったら……ああ!だから盗みも入られたのか。

人がいないって分かってなきゃ、白昼堂々盗みに入らんよ。


「ふぅむ、ギルドマスターさん……厄介事に巻き込まれてますけどぉ、大丈夫ですかぁ?」


ん?あんだそれ。

盗みに入られて、指示役はプリケツ……じゃなくてプリッケ冒険者ギルドの誰かで。

厄介事っていうほどの、厄介か?

おっさんならワンパンで吹っ飛ばせるだろうに。


「どういう意味だ、厄介事ってえのはよお」


「秘宝の所持が露見してるってだけで、分かりませんかぁ?脳みそまで筋肉なんですぅ?」


「……おらあよお、女だってイクときゃあイクぜ?」


どっちの意味で?とは言わないでおこう。

握りしめた拳で言いたいことは分かるからな。


「秘宝一つで国が買えると言われてるんですよぉ?秘宝の効果なんて関係なくそう言われてるんですぅ。そしてその宝具はぁ、チェレーブロ商会の私から見てもぉ……国三つは買えますねぇ」


「……んで?」


んで?って。

俺でも続きは分かってきたぞおっさん。


「今回の指示役はぁ、浮浪児しか雇えない、木っ端の冒険者なんでしょうねぇ。でもこの噂は一瞬で広まりますよぉ?次はぁ、浮浪児なんかじゃなく冒険者や騎士が敵になりますけどぉ、大丈夫なんですかぁ?」


「あん?大丈夫だろ」


「えっ!?だ、大丈夫なのか?ギルマス殿」


おお?さすがのレイアも、ヤバさに気づいたか。


「ちゃんと金庫に保管しておかないと、盗まれてしまうぞ。鍵は肌身放さず持っているのがいい」


な~んも分かってねえや。


「レイア、ちょっと黙ろうな」


「あ、うん。分かったぞジュン」


言うことはちゃんと聞くんだよなあ。

憎めない奴め。


「金庫に入れるもなにも、俺が肌身はなさず持ってりゃあいいだろうが。俺を殺せるってんなら、むしろくれてやるぜ」


「やっぱり筋肉しか詰まってないんですねぇ」


「……ちっ。チェレーブロのボンボンが、でけえ口叩きやがる。んだ?言いてえこと言えや」


「私ならまず、ギルマスさんの大切なものを奪いますねぇ。ご夫人とかぁ、このギルドとかぁ」


「……身代みのしろを取るってか」


「対策はあるんですよねぇ?」


「……」


ないんかーい!

ないんかいッ!


つーかアドミラめ、人の反応を楽しむドSなだけある。人の嫌がることはすぐに思いつくわ。

確かにおっさんは強えかもしらんが、奥さんのほうは一般人だろうし。

このキルドは……まあ、ボロいけど思い出が詰まってんだろうな。

いや、ボロいからこその思い出が。


「ギルドはどうでもいいわ。アイシャが心配だ」


「大事にしろよ!オレ!俺俺!職員やっとりますジュンです!大事にしてくださいよぉぉぉぁ!」


「んああ、そうか。そうだな、職員にも生活がかかってんだ。すまねえ、生半可なこと言っちまってよお」


「こちらこそすんません。言い過ぎました」


「明日までに、別の仕事見つけてくれるか?」


「え、クビ?見切りつけるの早くね?」


「キルドにゃ、大した思い入れもねえしなあ。むしろ日本人に荒らされたぐれえでよお……冒険者登録してくれたんは、おめえらと、あと数名の浮浪者だしよお」


「うっ……なんか、すいません。くそ日本人がご迷惑をおかけして」


「いんや。おめえさんが謝ることじゃねえや。そういうこったから、仕事、探しといてくれ」


「……」


クソぉぉぉぉ!

なんか、なんだろうこの気持ち。

なんかおっさんが可愛そすぎる。

絶対に日本人嫌ってるだろうに、なんで優しくできるんだよ。

しかも、俺たち以外の冒険者は、浮浪者だって?

この人のことだ。

強さとか、スキルとかじゃなく、食い扶持を作ってあげたつもりなんだろうな。


もしかして……依頼報酬の1割すらも渡してたりして。


こんなクソボロいギルドだ。

無いとは言い切れない。


人が出来すぎてるよ、おっさん。


「助けましょうかぁ?チェレーブロ商会がぁ」


ニヤリ――。


おっと?

悪魔の笑みがこぼれてやがるぜアドミラさんよお。


「いや悪いが、助けはいらねえよ。おめえらもすまねえな。プリッケギルドで冒険者登録して、頑張ってくれや。おらあ、ギルドよりもの方が大事だからよお」


「……ぴょん」

「……そんな」


シェリスもレイアも困ってるな。

それぞれ目標があってこのギルドの門を叩いたわけだしな。

門、てか戸すらないけど。


「そうですかぁ。残念ですぅ、せっかく楽しそうなパーティを組めたと思ったのにぃ」


「こ、これからも友だちぴょん?」


「んー、どうですかねぇ」


「えええ!嫌だ、アドミラちゃんと一緒がいいぴょん!ぴょんぴょん!」


痛々しいなシェリスよ。

だが、ひと言どうしても言いたい。

俺を差し置いてイチャイチャしやがってよ!


「ふっ。ザマァ」


「おいおい。ジュン、酷いじゃないか仲間に対して」


「いいや!仲間じゃない!俺はギルド職員だったが、今から別の仕事を探してくる!そこから、新たな物語が幕を開けるんだッ!お前らよりもエロくてお前らよりも俺をチヤホヤしてくれるヒロインが、わんさかやってくるはずだ!」


ふっ。

そんな目で見られても痛くないもんね。

唯一、おっさんには申し訳ないと思う。

同情もするし、助けてやりたいが、今は無理だ。


異世界に召喚されたばかりの俺に、どうにかできる問題じゃねえ。

スキルも使えねえし、戦闘能力が高いわけでもねえってのに。


悪いけど、俺は俺の人生を生きるぜ!


「つーことだ。悪いな。ちびっ子冒険団に入れてやりたかったが……頑張って生きろ」


「……ぅん」


シン――。


ん?

おっさんが、盗人である少女に声をかけていたわけだが……なに冒険団だって?


まさか、ウチの冒険者って。

俺たち以外の冒険者って。


「おっさん……ちびっ子冒険団て」


「んああ、ウチに登録してる冒険者パーティの名前だ」


「いや、そうじゃなくて。俺たちの他にいる冒険者って、その、ちびっ子なのかよ」


「ああ。浮浪児をかき集めたザコだが、まあやる気のある奴らだ。ソイツらとおめえさんらで、全員だな」


「……浮浪児」


「冒険者ってのはやる気さえありゃ金は入るし、危険な分勉強も必要になる。だからよお、何も考えず日銭稼ぐよか、冒険者の方がいいだろってことで、登録させてんだ」


「……」


「おいおい、んな、しんみりすんじゃねえや。冒険者ができねえからって死ぬわけじゃねえんだからよ」


おっさんめ。


はあ。本気でアホなんだな。


やってることは、ただのヒーローじゃねえか。


こりゃあ、四の五の言ってる場合じゃねえな。


「っしゃ――」


「みんな!ギルドを救おうッ!」


「俺のセリフじゃぁぁぁぁぁ!」






――――作者より――――

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