第29話 合流

 ダンジョンを脱出したオルティスたちは、王都を目指す。

 王都へ近づけば近づくほど、黒色化の猛威は深刻さを増していく。

 被害は植物だけにとどまらなかった。

 いくつかの町を通過したが、住人の姿はなく、家屋にいたるまで真っ黒に変色し、腐食していた。


 途中、雲行きが怪しくなり、ぽつぽつと雨が降り始める。

 オルティスたちは王都まで一日、二日の距離の無人となった街で雨宿りをすることにした。


 携帯食を口にしようとしたその時、アルバートが静かに、とジェスチャーで示す。

 アルバートはゆっくりと腰の剣を抜き、中腰になると、建物の出入り口に向かい、まるで猫のように足音を殺したまま近づく。

 オルティスも光の剣の柄に手を掛け、身構えた。

 稲光が閃いた刹那、オルティスの剣と、侵入者の剣が妖しく光る。

 刃同士がぶつかりあい、火花が散った。


「アル、やめろっ。ジークフリート殿だ!」


 アルバートは距離を取ると、剣を鞘に収めた。

 そう、侵入者はジークフリートだったのだ。

 ジークフリートは驚きに目を瞠り、アルバートとオルティスを素早く見ると、背後に向かって素早くジェスチャーをした。

 ジークフリートの背後には闇に紛れ、十人ほどの騎士がいた。

 その中には、グラムもいた。


「副団長、宰相閣下、ご無事でしたか。アズスが闇に飲み込まれたと聞いておりましたが……」


 駆け寄ってきたグラムが、片膝を折る。

 オルティスもそれに応じた。


「ジークフリート殿たちこそ、どうしてここに……?」

「もう一人、いらっしゃいます。こちらへ」


 ジークフリートの案内で民家の一つを訪ねるなり、オルティスたちは片膝を折り、頭を下げた。そこにはガブリエル王太子の姿があった。


「王太子殿下か」

「宰相、か」

「元、ですが」

「父上は判断を誤ったのだ。すまぬ」


 俺様王太子がこうまでしおらしいとは。


「……国王陛下は?」

「闇魔導士――サイラスの力に飲み込まれてからは分からない」


 ジークフリートが言った。


「!? サイラスが闇魔導士!? 確かですか!?」

「陛下がサイラスを宰相から罷免する使者を送って間もなく、突然謁見の間に現れたかと思えば、闇の力を……。抗うこともままならず、殿下を連れてその場を逃げるしかできなかった。で、二人はどうして?」

「私たちは闇魔導士を討つ為に王都へ向かう途中です」

「魔導士を!? そんなことが可能なのか!?」

「はい、兄上が対抗する手段を」


 アルバートが胸を張ると、全員の視線が向く。

 ドキッとしながらも、オルティスは頷いた。


「宰相殿、本当に……?」


 ジークフリートは半信半疑のようだった。


「この光の剣があれば、可能です」


 腰の剣を見せる。


「まさか、それは光の聖騎士の……? あれは、ただの伝承ではなかったのですか」

「はい。文献を調査し、場所を特定したのです」


 ジークフリートは王太子を見やる。


「殿下」

「宰相がそう言うのなら、本当なのだろう。その光の剣に、我が国の未来を託す他ない。宰相よ、王都を奪還するための算段は立っているのか? 王都の周囲には闇が覆っているだけでなく、城門は固く閉ざされている。あの城壁を越えるだけでも、十数万近い兵力が必要となるぞ」


 しかしこの状況下、それだけの兵士や道具を集めることは不可能だ。


「地下水路をたどります」


 王太子を始め、騎士たちもまた顔を見合わせた。

 仕方がない。その地下水路は建国当時使われていたもので、今その存在はすっかり忘れ去られている。 オルティスは床に簡単な王都周辺の地図を描き、説明する。


「そんなところに……。さすがは宰相だ。そんなところまで把握しているとは。──ジークフリート。お前たちは宰相の下につけ」

「殿下は」

「俺には護衛を一人つければいい。闇の魔導士を討てなければ、王太子と言ったところで意味はないからな」

「はっ」


 ジークフリートは深々と頭を下げた。

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