第三十一話 こころの騒めき
フォノンは、マグナが討たれたという報せを受けても、信じがたい思いに囚われていた。プライドがどうこうという問題ではなく、レイスハンターとして名を馳せたマグナが、そう
「ラナティスの街はどうなった? ローズのほうは無事か?」
「母さんは、ニックの父さんのところへ逃げたって聞いた。ニックの父さんは強いから守ってくれてると思う」ルキアは答えた。
「そうか。それを聞いて安心したよ」フォノンは胸をなでおろした。
「父さんが身を
にじませながら言った。
「うむ。四つ目の百って俺たちが知っている双剣の百か?」フォノンは不思議そうだった。
「そうだと思う。四ツ目の百というメタルレイスは、父さんを知っていたから」ルキアが答えた。
百という奴が、メタルレイスとなる以前に人間であった頃から悪名高く、ギルドの方でも手に負えなくて、困り果てていたようだった。当時のクリスタに換算しても、懸賞金は結構な額だった。何組ものレイスハンターが、戦いを挑んだが、
「あいつが生きていたのか」フォノンは、窓の外に浮かぶ遠くの雲を見つめながら言った。その眼差しには親友を失った深い悲しみが宿り、窓枠に触れる手の指先が微かに震えていた。
「………」ルキアはじっと黙っていた。
「俺が帰った後にいろいろあったみたいだな。この二人とはどこで知り合ったんだ?」フォノンは、焔とメタルレイスの華幻のほうへ目を向けた。
「小さい方は、途中で立ち寄った煙霧の里で一人で泣いていた焔。隣にいるメタルレイスは焔の母親の華幻。紅色の霧の中の巨大戦車にいたから、一緒に連れて来たんだよ」
「里のみんなが消えたとか、メタルレイスが母親らしいとか、言っている意味がよくわからないぞ?」フォノンは困惑していた。
「お主たち、よかったらこれまでの経緯をわしらに聞かせてはくれぬか?」黙って話を聞いていた長老がいった。
「どこから説明すればいいかな。長くなるけど説明するよ」ルキアは、これまでの旅の流れを説明することにした。
「………」一同は、静かにルキアの話に耳を傾けた。
「故郷のラティナスの街が、四つ目の百というメタルレイスの襲撃を受けて、メタルハンターたちが応戦したんです。そこで、父マグナが四つ目の百に討たれました。そのとき、クラヴィスと一緒にあやかし森の魔女のところへ逃げたんです。魔女のところで、魔女修行のためにクラヴィスと別れました」
「そのあとニックと合流した後、ビークルの燃料のキューブを買うため煙霧の里へ寄ったんです」
「そうそう。電欠しそうになっちゃって」ニックが説明を付け加えた。
「煙霧の里には人の気配が全くなくて、一人きりで泣いていた焔を仲間にした後、メタルワームがハンターたちに捕まっているのを見かけたんです」
「ほう」長老が頷いた。
「ところでニック。煙霧の里に立ち寄った時、地面が金属だったの覚えてるか?」ルキアが言った。
「転んだ本人が忘れるわけがないよ。だとすると、煙霧の里にも紅色の霧が現れたんだね」地面が金属化していたとなると、紅色の霧が出たのは疑う余地がない。
「それしかないな」
「おいおい、お前ら全員、紅色の霧をまともに吸い込んで幻覚を見ただけじゃないのか?」フォノンは眉をひそめた。
「オイラたちはちゃんと支給されたマスクを装着していたし、左腕の怪我は幻覚じゃない」ニックは左腕の包帯を指さした。
「煙霧の里を出発してからメタルワームを助けることになって、後をつけたら、紅色の霧の中へと向かうことになったんだ。紅色の霧の中心に巨大な戦車が止まってて、紅色の霧は人工物だということがわかったんだ」
「クラヴィス。思い出したんだけど、前にお父さんがいなくなった日に、紅の霧が満ちてたって言ってなかった?」ルキアが思い出した。
「言ったわ。もしかして、わたしの父さんも紅色の霧を吸い込んで幻覚を見て消えたというの?」
「そうだったとすれば、辻褄があうよな」
「やっぱり、私を捨てていったわけじゃなかったんだわ」クラヴィスは、父親の失踪に関する感情をこらえようとしたが、できるはずもなく、涙がとめどなく流れた。不運な出来事の連鎖によって、父が姿を消したことは事実だったが、父の失踪が自分を見捨てたわけではないという確信が、クラヴィスの心の中の長年のざわめきを消した。
「ここからが、肝心なんだ」ルキアが話を続けた。
「ああ」
「巨大な戦車の中には、機械になりかけた人と機械の中間のような生き物がいて、メタルレイスの正体が元は人間だった可能性が高いことが分かったんだ。関係があるのかはわからないけど、メタルワームを捕獲した奴らも生身の人間ではなかった」ルキアは説明を終えると一息ついた。
「そんなことが本当に…………」
「どうやら本当なんだ。メタルレイスの正体が元は人間だった可能性があるんだ」ルキアたちは信じられない事実に行き着いた。
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