第36話 こころの騒めき
フォノンは、マグナが討たれたという報せを受けても、信じがたい思いに囚われていた。プライドがどうこうという問題ではなく、レイスシーカーとして名を馳せたマグナが、そう容易く討たれるはずがないと信じていたし、何より信じたくはなかったからだ。
「父さんは身を賭して、僕たちを逃がしてくれたんだ」
ルキアが涙をにじませながら言った。
「あいつらしい選択だな」
フォノンはグッと涙を堪え、こころの中で泣いていた。
黙ってルキアは頷いた。
「ローズのほうは無事か?」
フォノンは心配で仕方がないようだった。
「母さんは、ニックの父さんのところへ避難したって聞いた。ニックの父さんが守ってくれてるハズだから」
「ニックの親父さんが付いているなら大丈夫だろう。それを聞いて安心したよ」
フォノンは胸をなでおろした。
「百はどうやってメタルレイスになったんだろうな?」
フォノンは不思議そうに首を傾げて言った。
「わからない……」
百という男はメタルレイスとなる前、人間であった頃から悪名高く、ギルドの方でも困り果てていたようだった。当時のクリスタに換算しても、懸賞金は結構な額だったらしい。何人ものレイスシーカーが、戦いを挑んだらしいが、ことごとく返り討ちにあったという。
「俺が帰った後にいろいろあったみたいだな。この二人とはどこで知り合ったんだ?」
フォノンは、焔とメタルレイスの華幻のほうへ目を向けた。
「小さい方は、途中で立ち寄った里人が消えた煙霧の里で一人で泣いていた焔。隣にいるメタルレイスは焔の母親の華幻。紅色の霧の中の巨大戦車に囚われていたんだ」
「里のみんなが消えたとか、メタルレイスが母親らしいとか、言っている意味がよくわからないぞ?」
フォノンは少し困惑していた。
「お主たち、よかったらこれまでの経緯をわしらに聞かせてはくれぬか?」
黙って話を聞いていた長老がいうと、周りに座る村の若者達もそれに合わせて頷いた。
「いいけど、どこから説明すればいいかな。長くなるけど説明するよ」
ルキアは、これまでの旅の流れを説明することにした。
「……」
長老たちは、静かにルキアの話に耳を傾けた。
「故郷のラナティスの街が、四つ目の百というメタルレイスの襲撃を受けて、レイスシーカー達が応戦したんです。そこで、父マグナが四つ目の百に討たれました。そのとき、クラヴィスと一緒にあやかし森の魔女のところへ逃げました。魔女のところで、魔女修行のためにクラヴィスと別れて」
「ふむふむ」
長老は頷いた。
「そのあとニックと合流した後、ビークルの燃料のキューブを買うため煙霧の里へ寄ったんです」
「そうそう。ビークルが、電欠しそうになっちゃって」
ニックが説明を付け加えた。
「なぁニック。煙霧の里に立ち寄った時、地面が金属だったの覚えてるか?」
ルキアは何かを思い出すようにニックに聞いた。
「うん。転んだ本人が忘れるわけがないよ。煙霧の里が紅色の霧に包まれたのは間違いないね」
ニックは煙霧の里で確かに転んだ。
「そうだな」
ルキアは相槌をうった。
「おいおい、お前ら全員、紅色の霧をまともに吸い込んで仲良く幻覚を見たんじゃないのか?」
フォノンは眉をひそめたが、マスクを装着していたことは、全員ハッキリと覚えていた。
「紅色の霧の中で怪我をしたのは幻覚じゃないよ?」
ニックは左腕の包帯を巻いた腕を、これ見よがしにフォノンに見せた。
「そんな怪我は幻覚みたいなもんだ」
フォノンは笑いながら言った。
「どっちにしても、これだけ色んな情報が一致するんだから、紅色の霧が現れたのは事実だろうな」ルキアが言った。
「煙霧の里で、一人で泣いていた焔を仲間にした後、メタルワームがシーカーたちに捕まっているのを見かけたんです」
「ほう。確かメタルワームの子供は狩猟禁止だったのぅ」
長老が頷いた。
「それで、メタルワームを助けることになって、レイスシーカー達の後をつけて紅色の霧の中へと向かったんだ。紅色の霧の中心に巨大な戦車が止まってて、紅色の霧は人工物だということがわかったんです」
「ふむ」
長老は真剣に耳を傾けいる。
「巨大な戦車の中には、機械になりかけた人と機械の中間のような生き物がいて、メタルレイスの正体が元は人間だった可能性が高いことが分かったんだ。関係があるかは分からないけど、メタルワームを捕獲した奴らも生身の人間ではなかった」
ルキアは説明を終えると一息ついた。
「そんなことが本当に……」
チノは耳を疑った。
「それが本当なんだよな」
ニックはそう言いつつも、腑に落ちないようだった。
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