第三十話 フォノンの実家

「あの武器どっかで見た気がする。」ニックは小声でつぶやいた。長老の座るすぐ横に立てかけてあった大きな斧に、どこか懐かしい印象を受けた。ルキアもその斧を見て、静かに頷いた。


「似たような武器なんて、どこにでもあるだろう。」白仮面の女の子が激しい口調で言った。


「ところでおぬし達は、あそこに何の用事で入った?」長老は淡々と問いかけた。


「何もしていない。ただ天狗岩の間を通り抜け、岩を見ているうちに暗くなったから、そこで寝ていただけだ。」とルキアは真摯な表情で答えた。


「ふむ、作り話には思えんが、その言葉を信じるかどうかは別問題じゃな。」と長老は長いひげを触りながら言った。


 今のような混乱の多い時代では、素性の知れない者たちの言葉を鵜呑みにするのは危険である。ましてや、武器を携えたまま立ち入り禁止区域で寝ていたメタルハンターとあれば、その疑念は一層強まるだろう。


「我々は、太古の遺産を守るアキホカの民だ。お前たちも太古の遺産を盗みに来たのだろう?」長老の言葉には、厳しさと警戒が込められている。


「本当に迷い込んだだけなんだ。」ルキアの表情は真剣だ。


「お前たちのような機械に毒された者の言うことなど信用できるか。それに、連れているメタルレイスについてはどう説明する?」そう言いながら、若い女の子は白仮面を外した。


 意外にも、ボブカットのきりりとした顔つきの女の子だった。どこか幼さを残しつつも、力強さを感じさせる。年齢はおそらくクラヴィスと同じくらいで、十七、八といったところだろう。若さからなのか反骨精神が、みなぎっている。血気盛んな年頃なのだろう。


 人の心は言い返せば火が付くものだと、相場は決まっている。火に油とはまさにこういう場面のことを指すのだろう。ルキアは、何を言っても無駄だと冷静に判断すると、何も言わずに目を閉じていた。


 その時、部屋の外から聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきた。


「おーい。帰ったぞ。珍しいな客人か?」フォノンが大声で話しながら部屋に入ってきた。


「あっ!  フォノンおじさん! 実家に帰ったっていったじゃないか?」ニックは驚きの声を上げた。ルキアも目を見開き、驚きを隠せない様子だった。フォノンは、


「だってさ、俺の実家ここだもん。何で両手を縛られてるんだ? 」フォノンはのんきに答えた。


「フォノン、この者たちを知っているのか?」フォノンの父親でもある長老は、苦笑しながら尋ねた。


「こいつらは俺の親友マグナの息子と、その友人たちだ。ハッキリ言って人畜無害だよ」とフォノンは、長老を安心させるように説得した。


「わかった。お前の知り合いなら安心じゃな。」と長老は言い、チノにロープを解くよう指示を出した。


「疑って悪かったわね。」チノは謝りながら、腰から小型のナイフを抜き取り、全員のロープを切った。ルキアたちは、手の痛みに耐えつつも、ようやく自由になったことに安堵の表情を浮かべた。


「ねぇ、今フォノンのこと、お父さんって言った?」ルキアは驚いた表情で訊ねた。


「ん?  チノは俺の娘だからな。どうだ、かわいいだろう?」チノは珍しく照れくさそうに微笑んだ。


「そう言われてみると、少し似てるかも。」ルキアが言った。


「ところでルキア、マグナは元気にしてるのか?  今日は一緒じゃないのか?」フォノンが尋ねると、二人はただ沈黙の中でずっと下を見つめていた。


「おいおい、冗談だろ?」フォノンの表情が一瞬で凍り付いた。


「ホントの話なんだ。」ルキアは目に涙を浮かべながら答えた。


「いったい誰に殺されたんだよ!  誰に!」思わず声を荒げるフォノン。


「ラナティスの街を襲った、『四つ目のひゃく』とかいう四本腕のメタルレイスに……。」フォノンは、悔しさと怒りでこぶしを握りしめていた。

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