第32話 時間差チキンレース
ルキアとニックの顔が暗闇の中にぼんやりと浮かんでいた。
二人は、今日は語り合いたい気分だった。互いの声に昔の記憶が思い起こされ、幼い頃の思い出がじわじわ蘇ってくる。幼き日々が手招きするかのように、自然と言葉が紡がれていく。
「なあ、ルキア。オイラ達にもいつか子供ができるとするだろ? 」
「ああ」
「その時に、どう説明すればいいんだろうな。お前たちの生活を豊かにするため、お前たちの首を締めているようなもんだ、ごめんなさい。と、でもいうのかよ。人間なんてさ、時間差チキンレースをやってるようなもんだと思わないか?」
「なんだよ。時間差チキンレースって?」
「例えばある国で黄金の実のなる木が見つかるとするだろ。黄金の木は、最後の一個を残さないと二度と取れなくなっちゃうとするだろ? 当然初めに採った人間は、そのことを知ってて、とうぜん黄金の実を残すだろ」
「うんうん」
「問題はその後さ。誰かに話を聞いた人間が、甘い汁を吸おうとやってくるだろ? 大体の人が情報を掴んだときは、情報はすでに古いんだよな」
「なるほどな」
「でさ。まだ残ってる、まだ残ってるって言いながら、後から後から人が来るだろ? そうやって、人間は残さなくちゃいけない最後の一個まで取り尽くしちゃうんだよ」
「ああ。人間の欲望なんてそんなものだろうな」
「そこだよ、そこ。生きる事って、まるで、世界の全員で谷底でメラメラ燃え盛る破滅という業火の中へ、順番に飛び込んでいるのと同じだと思わないか?」
「なるほど。だから、時間差チキンレースなのか。ニックと話しをしてるとホントに飽きないよな、アハハ」
「どこか変だったか?」
ニックの相変わらずの世界観にはいつも驚かされた。価値観というか、考え方というか、決して一般的なそれではなかった。今日もニックワールド全開だ。
「そこがニックらしくていいよな。でもさ、その意味わかる気がするよ。視点を変えて考えてみれば、世界の金属化を止められないのも、この世界に住んでる全員の責任ってことになるよな」
ルキアは相槌を打ちながら、ちらりと刀に目をやった。いつも常識を打ち破る発想をするニックの頭の中身がどうなっているのか、一度くらいは覗いてみたいと思った。
「もしかするとさ、このまま全てが金属化しちゃった方が、人間は逆に幸せなのかもしれないな。なんだかオイラ、毎日頑張る意味がわからなくなっちゃったよ」
珍しくネガティブな言葉を口にしたニックは、続けざまに「はぁ」と、複雑な気持ちの入り混じったような深いため息をついた。
ルキアはニックのため息を聞くと、しばらくの間、黙り込んでいた。星空を見上げながら、どうやってニックを励ますべきか考えてみたが、答えがすぐには浮かばなかった。
コンロの火に照らされた二人の顔が暗闇の中に揺らめいていた。ルキアは沈黙を破って、ゆっくりと口を開いた。
「奇妙なことばかりが続いたら、誰だって自分を見失っちゃうのかもしれないな……」
「おお。やっぱり、座禅やってる人は言うことが違うねえ。オイラも座禅をやろうかな」
とは言うものの、ニックは座禅をやる気など微塵もなかった。
「まあ、全てが金属化したら、それはそれで新しい冒険が待ってるかもしれないぞ。金属の混じった海で泳ぐとかさ。人間はいつだって新しい環境に適応してきたんだし、今度は自分たちが金属の世界に順応する番だって考えたら、ちょっとワクワクするんじゃないかな」
ニックはルキアの言葉に驚いた様子で目を見開くが、次の瞬間、声を上げて笑った。
「ルキア。お前今、無理して話を合わせただろう」
二人は目を合わせると大声で笑い合った。幼い頃のような無邪気な笑い声が薄闇の中に響いた。ルキアとニックは懐かしみながら、空を見上げた。
「ルキア、ありがとな。お前と久々に語り合えて、本当に良かったよ」
「ああ。ニック。これからもよろしくな」
二人は空に広がる無数の星々に思いを馳せた。世界の中で様々な人が異なる輝きを放ち、遠く離れた場所でそれぞれの物語を紡いでいる。ルキアとニックは、どうあがいても自分がこの世界の一員なのだと感じていた。
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