第二十七話 時間差チキンレース
ルキアとニックの顔が暗闇の中にぼんやりと浮かび上がっている。夜の静寂が二人を包み込み、まるで過去が手招きするかのように、言葉が自然と紡がれていく。
今日は、いつもよりも少し長めに話したい気分だった。互いの声に昔の記憶が響き、幼い頃の思い出がじわりと蘇る。星空の下での幼馴染との会話はまるで時間を越えて、二人を再びあの頃の自分に戻してくれるようだった。
「オイラ達にもいつか子供ができるとするだろ? 」
「ああ」
「その時に、どう説明すればいいんだろうな。お前たちの生活を豊かにするため、お前たちの首を締めているようなもんだ。ごめんなさい。と、でもいうのかよ。人間なんてさ、時間差チキンレースでもやってるようなもんだと思うな」ニックの相変わらずの世界観にはいつも驚かさせる。価値観というか、考え方というか、決して一般的なそれではなかった。
「なんだよ。時間差チキンレースって」今日も、ニックワールド全開だ。
「え? 例えばある国で黄金の実のなる木があって、最後の一個を残さないと二度と取れなくなるとするだろ。当然初めに堀った人間は、そのことを知ってて黄金の実を残すわけさ」
「うんうん」
「そのあと、誰かに聞いた人間が後から後から、その国にやってくるだろ? 大体の人が情報を掴んだときは、すでに古いんだよ。無くなるとわかっていても、最後の一つくらいは残さないといけない最後の欠片まで、人間は取り尽くしちゃうんだろうな」
「ああ。人間には欲があるからな」
「そこだよ。世界の全員で谷底でメラメラ燃え盛る破滅という業火の中へと、順番に飛び込んでいるのと同じだと思わないか?」
「なるほど。だから、時間差チキンレースなのか。ニックと話しをしてるとホントに飽きないよ。ハハハ」
「ハハハって。どこか変だったか?」
「そこがニックらしくていいよ。でもさ、その意味わかる気がするよ。視点を変えて考えてみれば、世界が金属化してゆくことも、この世界に住んでる全員の責任になっちゃうな」相槌を打ちながら、ちらっと刀に目をやった。いつも常識を打ち破る発想をするニックの頭の中身がどうなっているのか、一度くらいは覗いてみたいと真剣に思った。
「もしかするとさ、このまま全てが金属化しちゃった方が人間は幸せなのかもしれないな。なんだかオイラ、毎日頑張る意味がわからなくなっちゃったよ」珍しくネガティブな言葉を口にしたニックは、続けざまに「はぁ」と、複雑な気持ちの入り混じった深いため息をついた。
「奇妙なことばかり続いたら、誰だって自分を見失うのかもしれないな」
「やっぱり座禅やってる人は言うことが違うねぇ。オイラも座禅をやろうかな」とはいってみたものの、ニックは座禅をやる気など微塵もなかった。
ルキアはニックのため息を聞き、少し黙り込んでいた。星空を見上げながら、どうやってニックを励ますべきか考えたが、答えがすぐには浮かばなかった。
「まあ、全てが金属化したら、それはそれで新しい冒険が待ってるかもしれないよ。金属質の森の中を歩くとか、金属質の海で泳ぐとかさ。人間はいつだって新しい環境に適応してきたんだし、今度は自分たちが金属質の世界に順応する番だって考えたら、ちょっとワクワクするんじゃない?」
ニックはルキアの言葉に驚いた様子で目を見開いたが、次の瞬間、くすりと笑った。
「ルキア。お前今、無理して話を合わせただろう」ニックがニヤ付いた。
二人は笑い合い、その笑い声は静かな夜に溶け込んでいった。幼い頃のような無邪気な笑い声が響いた。ルキアとニックは、懐かしみながら、空を見上げると、無数の星々に思いを馳せた。世界の中で様々な人が異なる輝きを放ち、遠く離れた場所でそれぞれの物語を紡いでいる。ルキアとニックもこの世界の中の一人だと感じていた。
「ルキア、ありがとな。お前と久々に語り合えて、本当に良かったよ」
「こちらこそ、ニック。これからもよろしくな」
夜の静寂の中、二人は未来への希望を胸に抱いていた。
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