第二十六話 燃えない葉っぱ

 少し開けた場所にビークルを停めた。ルキアとニックはビークルから降りると、慣れた様子で野営の準備に取り掛かった。野営といっても寝るところはビークルの中だ。いつでも逃げられる準備をしておかなければいけないからだ。


 華幻は、眠り始めた焔にそっと毛布を掛けた。ほんとによく眠っている。焔は、小さい体で毎日よく頑張っている。最近は、だんだん生意気になってきたが、やはりまだまだ子供だ。戦いにだけは巻き込みたくないと華幻は思った。


 ルキアは、薪になりそうなものを片っ端から拾っている。ニックの方は、石を積み上げ慣れた手つきでかまどを作った。ルキアは薪を抱え込むほど拾ってきては、石のかまどの横に置いた。マッチを擦って拾ってきた枯れ草や枝に火をつけようとしてみるが、まったく火がつく気配がない。


「あれ? どうして乾いてるのに火がつかないんだろう。もしかして…」ルキアが葉っぱを裏返してみると、予想通りの結果だった。葉っぱの裏に葉脈をなぞるようにピリピリと電気が走っている。見た目はごく普通の葉っぱだ。葉っぱの表や茎はどう見ても天然の植物なのだが、葉っぱを裏返してみると、間違いなく金属質の葉っぱだ。


「これじゃあ、燃えるわけないよ。こんな、山奥まで金属化が進んでいるなんてな」そういいながら、ルキアは近くの木の皮をめくってみるが、同じくピリピリと電気が走っていた。


「はあ。こっちも同じだ」ニックのほうも、離れたところの木の皮をめくってみたが、やはり金属質の葉っぱだった。残念そうに嘆いていた。


「今日は、コンロで暖をとろうか」ルキアはそう言いながら、ビークルからカバンを持ってきた。カバンの中から携帯用のコンロを取り出すと、手際よく組み立て始めた。最近の野営の道具の進歩というのは、目を見張るものがある。コンロまでもが、インダストリ社製のキューブに対応しているのだった。それに、だんだんキューブが小型化している。


「なぁ、ルキア。こりゃあ本当に、世界は終わりに向かっていってるのかもな。終わりというか、金属化が進んでいるというか…………。普通の生活の中にいたら、金属化が進んでいることなんて、普通は気にも留めないよな」


「ああ。誰だって、日々の生活に追われてるからな」


「でもさ、巨大戦車で見ちゃったもんな。メタルレイスが元人間だなんて、オイラまだ半信半疑さ」


「父さんを倒した『ひゃく』ってやつが言ってたんだけど、ネザン様って言ってたっけな。メタルレイスとインダストリ社って関連あるよな」


「ネザンの狙いが何だかわからないけど、きっと意図的にやってるんだぜ」ニックは悔しそうに拾った小石をぽいっと投げた。


「本当に意図的だったとしたら、何か狙いがあるんだろうな。どっちにしたって金属化を阻止しないとな。いつか本当に、この世界まで前文明みたいに滅んじゃうだろ?」ルキアは元気のない声でいいながら、組み立て終えた携帯用のコンロに火を点けた。青白い光が点くと、急に辺りががふわっと温かくなった。


「前文明が滅んだのに、まだ人間が生きてるってことはさ、文明が滅んでも人は生き残るってことだろ? あまり、滅びるとか考えなくてもいいのかもね」

ニックは楽観的に考えていた。


「それなら、それでいいんだけど」ルキアは、ニックの考えに納得しつつも、不安と虚しさが広がるばかりだった。

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