第十五話 父からの手紙

 ランタンの明かりが室内をやさしく包み込み、ツァローニとクラヴィスの顔を穏やかに照らしていた。クラヴィスは魔女になることを決め、ルキアの方は、マグナから譲り受けた装備を身に着け、様々なポーズをとっては感触を確かめていた。


 装備の間に挟まっていたのだろうか。ルキアは床の上に落ちていた一通の手紙を拾いあげた。色褪せた手紙の上には、『ルキアへ』と、男性的な文体で書いてあった。ルキアは、父マグナからの手紙を手に取ると真剣に読み始めた。


―――お前が生まれた日、生まれたばかりのお前を父さんが抱きかかえていた時の話だ。いきなり矢のような鋭い光が差し込んできて、生まれたばかりのお前と父さんの額を貫いたんだ。額を貫いた光が影となったあと、父さんとお前の額にアザが浮き上がってきたんだ。アザにどんな意味があるかは知らないが、何かが起きる前触れだと父さんは直感した。


 これをお前が読んでいるとすれば、父さんの予感は当たってしまったのだろう。父さんはまだまだ世界に刀術は必要だと思っている。それで、お前に刀術を教えることにした。母さんは、刀術などは必要のない時代が来ると言ったんだがな。


「刀術の鍛錬の最中にできたキズ」ということにしておけば、お前が余計なことで気を病むこともないだろうと思ってな。額のアザは父さんと母さんだけの秘密にして心の奥にしまい込むことにした。


 父さんのような流れ者で毒づく親でも、お前が苦しんでいることくらいは見抜いていたぞ。子供の将来を心配しない親など何処にもいない。お前が親となった時に必ずわかる。


 刀術の鍛錬のときは厳しくしすぎたかもしれないが、それもお前のためだった。何かに躓いたときは、座禅でもして心静かに落ち着かせるんだ。


 決して怒りに飲まれるな。怒りはすべてを失うからな。決して最後まで諦めるなよ。


 父さんの装備一式と我が一族に伝わる刀をお前に譲る。刀については出所は父さんも知らないんだ。父さんの父親が話していたのは、俺達には武人の血が流れているとか言ってたな。刀のほうは異国の老人に託されたというが、今となってはその話もホントかどうか。


 ツァローニさんには感謝するんだ。なんたって長生きだからな。そこは突っ込まない方がいいと思うぞ。


 父さんはお前が最後まで生きてくれたらそれでいい―――


 ルキアの目から零れ落ちた涙が手紙の文字を滲ませた。とめどなく溢れる涙を拭いながら、手紙を机の上に静かに置いた。


 ルキアは父から受け継いだ刀を水平に持ちかえ鞘から抜き去ると、一定のリズムの刃紋の描かれた白刃に写り込んだ自分の目をじっと見つめていた。美麗な刃は刃こぼれ一つ無く、あまりの美しさに吸い込まれそうだった。自分に課せられた血筋という名の重圧に押し潰されてしまいそうだった。


「二人とも、今日はもう遅いから寝なさいよ。さぁ。また屋根裏部屋で仲良くね」ツァローニはくすりと笑った。ルキアとクラヴィスは屋根裏部屋へと上がった。

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