第19話 父からの手紙

 ランタンの明かりが室内をやさしく照らし、ツァローニ達の顔を柔らかく包み込んでいる。

 

 ルキアはマグナから譲り受けた装備を身に着け、様々なポーズをとって感触を確かめていた。父マグナの装備は少し大きかったが戦いには影響なさそうだ。


 装備の間に挟まっていたのだろうか。色褪せた封筒が床の上に落ちていた。ルキアは封筒を拾いあげると、宛名を確認した。色褪せた封筒には男性的な文体で『ルキアへ』と書いてあった。ルキアは封筒の中から手紙を取り出した。ルキアは四つ折りにされた手紙を広げ、文字を目にした瞬間、表情が変わった。そして、真剣な眼差しで読み始めた。


――ルキア。お前が生まれた日、生まれたばかりのお前を父さんが抱きかかえた時の話だ。いきなり矢のような鋭い光が天から差し込んできて、生まれたばかりのお前と父さんの額を貫いたんだ。額を貫いた光が影となったあと、父さんとお前の額にアザが浮き上がってきたんだ。父さんは何かが起こる予兆だと直感した。


 これをお前が読んでいるとすれば、父さんの予感は当たってしまったのだろう。もし伝説が本当だとすると、額のアザの意味は、光の器の可能性があるということになるからな。


 父さんはまだまだ世界に刀術は必要だと考えている。それで、お前に刀術を教えることにしたんだ。母さんは、刀術などは必要のない時代が来ると言って反対したんだがな。


 額のアザを刀術の鍛錬の最中にできたキズということにしておけば、お前が余計なことで気を病むこともないだろうと思ってな。父さんと母さんの秘密にして心の奥にしまい込むことにしたんだ。


 父さんのような流れ者で毒づく親でも、お前がいろいろと悩んでいることくらいは見抜いていたぞ。子供の将来を心配しない親など何処にもいない。お前が親となった時に必ずわかる。


 刀術の鍛錬のときは厳しくしすぎたかもしれないが、すべてお前のためだったんだ。何かに躓いたときは、瞑想をして心を静かに落ち着かせるんだ。決して怒りに身を任せるな。怒りは全てを失うからな。


 父さんの装備一式と一族に伝わる刀をお前に託す。刀については出所は父さんも知らないんだ。おじいさんが話していたのは、俺達には武人の血が流れているとか言ってたな。刀のほうは異国の老人に託されたというが、今となってはその話もホントかどうか……。


 父さんと母さんはお前が最後まで生き抜いてくれたらそれでいい。少し早いが、先に行ってるぞ――


 ルキアの目から零れ落ちた涙が手紙の文字を滲ませた。とめどなく溢れる涙を拭いながら、手紙を机の上に静かに置いた。溢れる涙が止まらない。ルキアはうつ向いたまま、暫くのあいだ嗚咽していた。

 

 ルキアは落ち着きを取り戻すと、父から受け継いだ刀を水平に持つと鞘から抜いた。ルキアは気持ちが吹っ切れたように、今まで以上に真剣な眼差しをみせた。


 一定のリズムの刃紋の描かれた白刃に写り込んだ自分のまなこをじっと見つめた。美麗な刀身には刃こぼれ一つ無い。あまりの美しさに心奪われ吸い込まれそうになる。武人の血が流れていると知っても、手掛かりは何もなく、今は気に留めないことにした。


「今日はもう遅いから寝ましょうか。また屋根裏部屋だけど仲良くね」

 ツァローニはくすりと笑った。

 ルキアは刀と装備を、クラヴィスは本を、大事にしまった。


 二人は、顔を赤らめながら屋根裏部屋へと上がっていった。

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