第十四話 託された思い

 ミックスハーブティーの香りが温かな部屋の中にほんのり漂っている。

 

 ツァローニは、ゆっくり話しを続けた。


「実はね、この伝説には書物に書かれていない話の続きがあるの」


「どんな話なんですか?」


「うんうん」クラヴィスもルキアに続いた。


「話の続きはこうよ。聖王となる光の器は『緑の証』を持つ。だそうよ」ツァローニはいった。


「へぇ。『緑の証』ってなんだろうか」ルキアはクラヴィスに聞いた。


「うーん。なんだろう」


「証」と言われても、漠然とした考えしか浮かばなかった。しるしか何かが身体に現れるのだろうか。


「これは私の考えだけど、それってマグナの額のアザの話だと思うの。そうするとね、マグナが光の器だった可能性が出てくるの。マグナは光の器である誰かと間違えられて百に討たれてしまったのではないかしら?」


「私は信じるな。オカルトの類の話はホントだって父さんに聞いたことがあるし」クラヴィスは本気のようだ。


「え? もしかして………」ルキアは自分の額に手を触れながらごくりと唾を飲み込んだ。


「そうなのよ。ルキア。あなたの額にもマグナと同じアザがあるでしょう。もしあなたが『聖王』の生まれ変わりだとしたら話がつながるとは思わない?」


「だとすると、『光の器』は二人いたってこと?」


「一人だとはどこにも書いてないわよね」


 ルキアは額のアザを触っていた手を止めニックにもらった鉢がねをゆっくり外した。


「このアザは僕が小さかったころ、頭から転んだときの傷あとなんだって父さんは言ってた」ルキアはその話を信じ切っているようだった。


「転んだことが本当の話だとしてね。転んでついた程度の傷がずっと残ると思うの? それは小さかったあなたに額のアザから目をそらすための、マグナのやさしさだったとは思えない?」


「マグナ叔父さんなら、そうするかもしれない」クラヴィスは言った。


「どちらにしても、ラナティスの街からは離れるほうが賢明だと私は思うわ」ツァローニは言った。


「うーん」ルキアはローズのことご心配だったのか、少し戸惑っているようだ。


「ローズおばさんなら、ニックのお父さんのところに向かったっていってたから、きっと大丈夫よ。ニックのお父さんって若いころに特殊な仕事についてたって聞いたことがあるから」クラヴィスは言った。


「追手が来てないということは、向こうはあなたのアザのことはまだ疑っていないということになるわ。マグナのことはとても残念だったけど、マグナの死で『光の器』である『聖王の生まれ変わり』は討たれたことになってるわけでしょ? だったら、しばらくはルキアが狙われる心配はなさそうね」


「父さんは危険を予見していたんだ」ルキアはまだ現実を受け止めきれていないように見える。


「いつかあなたが、ここを訪ねて来ることがあったら、渡すようにとマグナに頼まれていたモノがあるの」そう言うと、ツァローニは部屋の奥から父マグナの形見となった刀とハンター装備一式を大事そうに持ってくると机の上に丁寧に並べて置いた。


 ルキアは装備を体にあてがいサイズを確認している。


「ツァローニさん。この前、ここにきたときには聞けなかったんですけど、わたしは本の表紙を裏返す癖があるんです。裏返した表紙の裏の白いほうの下の方に、『428 キテラ・サウセイル』と書いてあったんです。筆跡まで母と同じ。この本もしかして、母さんのものでは?」


「まだ話してなかったわね。その通りなの。その本はキテラのものよ。本の表紙に428と書いてあるのは、キテラが魔女として割り振られた番号なのよ。だから、その本はキテラの物で間違いないわ」


「あの。わたし、この本に書かれているすべての本当の意味を知りたいの。母さんの通った道なら尚更……」


 過去に同じ道をたどったことのあるツァローニは、その単純な動機を決して否定することはしなかった。


「この本の全てを学ぶということは、物事の真理を知ることに繋がるの。物事の真理を知るということは、突き詰めてゆくと魔女になる選択をするということなの。今はこの意味がわからないとは思うけど、それでもいいと感じるのなら、私の知っている全てを教えてあげるわ。妹キテラと同じ魔女になってみる?」


「はい」クラヴィスの目は真剣だった。

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