第十三話 光の器

 生き物達から連絡を受けたあやかし森のツァローニは、二人を乗せた白馬のロクザの到着を待っていた。ロクザの蹄が地面を蹴る音が、だんだん大きくなってくる。


 小屋の戸口で待っていたツァローニがロクザを降りた二人にやさしく声をかけた。


「一度にいろいろ起こり過ぎたわね。さあ。二人とも中に入って」ツァローニはそういって、二人を小屋の中へと招き入れた。


 ルキアが「森の魔女に聞け」といった、父の最後の言葉をツァロー二に伝えると、マグナからのメッセージだとすぐに気が付いた。ツァローニは何かを思い出し表情を変えた。壁に掛かった一枚の写真を外すと、二人の前に静かに置いた。


「バチン」と薪の音が響く。


「この前ここへ来たときに、この写真が気になっていたんです」クラヴィスは写心を覗き込んだ。


少し色褪せた写真には、キテラ、フォノン、マグナの三人が戦利品を前に、仲良さそうに写っていた。


「やはり、ツァロー二さんとソックリだわ」クラヴィスはいった。ツァローにの顔と見比べてみるが、ほくろの位置まで同じで、娘であるクラヴィスでさえ、ほとんど見分けがつかなかった。


「どうしてかしらね」ツァローニは、そう言いながら写真をトンと軽く突くとゆっくりはなし始めた。


「何から話したらいいかしら。写真に写っているあなたの母親キテラはね………。私の双子の妹なのよ。そして………」そう言いかけたとき、クラヴィスが話を遮った。


「ちょっと待って? お母さんが、双子だったなんて私一度も聞いたことないわ」


「ええ。知らなくて当然よ。マグナ夫婦とテリア夫婦、私とフォノンの六人だけの絶対的な秘密にしてたからね」


「ふーん。そうだったんだ」クラヴィスと一緒でルキアも不思議そうな顔をしていた。


「テリアの隣に写っているのがルキアの父さんマグナでしょ。こっちがマグナの親友フォノンよね。三人は、レイスハンターとしてこの世界を共に旅した仲間だったの」三人は凄腕レイスハンターとして名を馳せていたようね。


「マグナ。フォノン。キテラの三人は、ある時、敵の生死は問わないという荷物の回収の依頼を請け負ったそうよ。荷物を盗んだのは『双剣の百』をリーダーとした盗賊団だったらしいの。百という男は相当な腕の持ち主だったらしいけど、人格にかなりの問題があったそうね。私がキテラから聞いた話では、マグナ達に死の淵まで追い詰められた双剣の百がこう命乞いをしてきたらしいの。

『俺は放っておいてもどうせ死ぬのだから、トドメをさないで欲しい』そう命乞いをしてきたそうよ。


「もしかして………」ルキアが思わず呟いた。


「そうらしいの。優しすぎたマグナ叔父さん達は、双剣の百にとどめを刺さずに見逃してしまったようね。その後どういうわけかメタルレイスとなった『四つ目の百』の部隊が、ラナティスの街を襲ったってワケね」


「でも、どうしてメタルレイスとなった『四ツ目の百』は街を襲ったんだろう?」黙って話を聞いていたルキアが口を開いた。


「そうよね」クラヴィスが続いた。


「確か四つ目の百が額のアザがどうとか言ってたよね」ルキアはクラヴィスに聞いた。


「うん。確かアザの話をしていたわ」クラヴィスは答えた。


「そこなのよ。『四つ目の百』が街を襲った理由は多分ね。『光の器』を探していたのだと思うの」


「『光の器』って、あの伝説の?」クラヴィスはいった。


『光の器』の伝説とは、世界ではよく知られた物語ではあったが、多くの人は都市伝説程度の認識しかないだろう。


「そう。あれはね。唯の伝説ではなくて、千年前にも実際にあった本当の話だと、そこの本棚にある私の祖母の残した書物の中にも、書き残されているのよ」ツァローニは頑丈そうな本棚のほうを指さしながら言った。


「その本の情報は確かなのですか?」


「そうねぇ。祖母の残した本は太古の文明の暗号数式に紐づけられてると聞いているから、書かれている情報に嘘はないとは思うけど」


「太古の文明かぁ」クラヴィスは太古の文明に思いをはせているようだった。


「ええ。伝説の一節を暗唱するわね。


 『世界に終末きたるとき、

 光の矢が指し示す。

 妖雲華の蕾がひっそり花となる時、

 聖王の産まれ変わりが世界に現る。

 生まれ落ちた聖王は、

 人々を新時代へ導く光とならん』と。

 

 これが、書物の中の言葉よ」ルキアとクラヴィスは驚きを隠せなかった。

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