第十一話 血塗られた運命

―――マグナは刀を振り下ろし、双剣の百の腕が地面に転がり落ちる音を聞いた。金属が砂地に当たる鈍い音が、荒野の静寂に響く。目の前の光景が、双剣の百を冷たい感情で包んでいく。視界の隅で仲間たちが動きを止めているのが見えたが、マグナの心は過去の戦場へと引き戻されていた。


 幾度となく繰り返された戦い。相手がメタルレイスだとはいえ、破壊の中で生きてきた自分。機械の異臭がが鼻を突き、かつての仲間や罪のない人々の悲鳴が頭の中で、何度も何度も繰り返される。無数の人生や流れを自分の選択によって変えてしまった。それらの重みが、今もマグナの心にのしかかっている。


「どうするよ。フォノンにキテラ。」マグナのこころは揺れている。


 フォノンが冷静に百の状態を確認する声が聞こえた。しかし、その声はマグナの耳に届いていないようだった。マグナは今、過去の自分と対話していた。


 キテラの鋭い言葉が、マグナの思考を現実に引き戻した。「こういう奴は、とどめを刺しておかないと、キケンだわ。」


 マグナはその言葉に反論しようとした自分がいたことを悔やみ、すぐにその感情を押し込めた。ここで必要なのは冷静な判断であり、過去の過ちを繰り返すわけにはいかない。マグナは胸の奥で苦しんでいた。どれだけの悪の道を貫いてきた敵とはいえ、目の前で苦しむ者に対して、とどめを刺すべきかどうか決められない自分の無力さを痛感していた。


「この怪我では、もう助からんだろうから、とどめは刺さない。好きなところで最後を迎えればいい。」


 そう言いながらも、マグナの心は穏やかではなかった。マグナの優しさが、この決断を導いたのかもしれないが、それが果たして正しいのか、自分でもわからなくなっていた。


 双剣の百の呟きが、マグナの決断を試すように響く。「お前達のやさしさには敬服するぜ。」


 マグナは深く息を吐き、心の中で揺れる感情を抑え込もうとした。過去の自分と今の自分が重なり合い、戦場で失った無数の命がマグナのやさしさを苛んでいた。彼はただ、残されたわずかな人間性を守りたいと願っていた。


 血の海に沈む百の視界がぼやけ、意識が遠のいていく。かつては強者として恐れられた自分ですら、なんてちっぽけで無力な存在なのだと百のを心を蝕んでいた。


「なんで、俺様がこんな目にあわなくてはならんのだ。」


 百の心には、かつての栄光と今の惨めさが交錯していた。百は敗北を認めることができず、ただ自分の運命を呪った。視界が霞み、呼吸が浅くなる中で、未練と怒りが心を支えていた。百は、死というものを恐れてはいたが、それ以上に、無様に死ぬことを嫌悪していた。


 重厚な巨大戦車が地面を揺らしながら接近し、巨大なキャタピラが砂を巻き上げた。戦車の扉がギシギシと開き、冷たい金属の音が荒野に響く。扉から現れたのは、奇怪な金属装甲に身を包んだメタルレイスだった。メタルレイスは無言で、静かに百の元へと歩み寄る。


「ネザン様もモノ好きだよなあ。こんな盗賊団のリーダーを回収してこいなんてな。」


 メタルレイスの一体がつぶやく。その言葉は無感情で、まるで決まりきった仕事をこなしているかのようだった。


「ネザン様が、失うには惜しい悪だと言ってたぞ。」


 もう一体が応じる。メタルレイスの会話が、双剣の百の未来を暗示していた。百は、自分が何かに利用されようとしていることを感じ取ったが、抗う力は残されていなかった。


 メタルレイスたちは、百の身体を乱暴に担ぎ上げると、巨大戦車の檻の中へと放り込んだ。百の身体が振り子のように揺れ、乱雑に扱われる様子は、百がただの道具として見なされていることを象徴していた。


 巨大戦車が紅色の霧と共に消えていく時、百は薄れゆく意識の中で、マグナ達への復讐を誓った。その誓いが果たされる日は訪れるのか、双剣の百、自身にもわからなかった。―――

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