第15話 血塗られた運命
――マグナの心は過去の戦場へと引き戻されていた。
マグナは刀を振り下ろし、百の腕が地面に転がり落ちる音を聞いた。金属が砂地に当たる鈍い音が、荒野の静寂に響いた。目の前の光景が、百を冷たい感情で包んでいった。
幾度となく繰り返された戦い。相手がメタルレイスとはいえ、破壊の中で生きてきた自分。頭の中に破壊音が響いた。
何度も何度も繰り返される。破壊の中に身を置くことは、少なからず心に悪い影響が出る。それらの重みが、今もマグナの心にのしかかっていた。
「どうするよ。フォノンにキテラ」
マグナのこころは揺れていた。
「こういう奴は、とどめを刺しておかないとキケンだわ」
キテラの鋭い言葉が、マグナの思考を現実に引き戻す。
マグナはその言葉に反論しようとした自分がいたことを悔やみ、すぐにその感情を押し込めた。ここで必要なのは冷静な判断であり、過ちを繰り返すわけにはいかない。マグナは胸の奥で苦しんでいた。
どれだけ悪の道を貫いてきた敵とはいえど、目の前で苦しむ者に対して、とどめを刺すべきかどうか決められない自分の無力さを痛感していた。
「この怪我では、もう助からんだろうから、とどめは刺さない。好きなところで最後を迎えればいい」
そう言いながらも、マグナの心は穏やかではなかった。マグナの優しさが、この決断を導いたのかもしれないが、それが果たして正しいのか、正しくないのか、自分でもわからなくなっていた。
「お前達のやさしさには敬服するぜ」
百の呟きが、ぽつりと響いた。マグナは深く息を吐くと、心の中で揺れる感情を抑え込んだ。
血の海に沈む百の視界はぼやけ、だんだん意識が遠のいていった。百は自分がなんと無力な存在なのかと、ようやく気付いた。
「なんで、俺様がこんな目にあわなくてはならんのだ」
百の心には、かつての栄光と今の惨めさが交錯していた。百は敗北を認めることができずに、ただただ自分の運命を呪った。視界が霞み、呼吸が浅くなる中で、未練と怒りが百の心を支えていた。
百は死というものを恐れてはいなかったが、それ以上に、無様に死ぬことを嫌悪し、恐れていた。
重厚な巨大戦車が地面を揺らしながら接近すると、巨大なキャタピラが砂を巻き上げた。戦車の扉がギシギシと開き、冷たい金属の音が荒野に響く。
開いた扉から現れたのは、奇怪な金属装甲に身を包んだメタルレイスだった。メタルレイスは無言で、静かに百の元へと歩み寄る。
「ネザン様もモノ好きだよなあ。こんな盗賊団のリーダーを回収してこいなんてな」
メタルレイスの一体が呟いた。その言葉は無感情で、まるで決まりきった仕事をこなしているかのようだった。
「ネザン様が、失うには惜しい悪だと言ってたぞ」
メタルレイスの会話が、百の未来を暗示していた。百は自分が何かに利用されようとしていることを感じ取ったが、抗う力は残されていなかった。
メタルレイスたちは、百の身体を乱暴に担ぎ上げると、巨大戦車の檻の中へと放り込んだ。百の身体が振り子のように揺れ、乱雑に扱われる様子は、この時の百はただの道具として見なされていたようだ。
巨大戦車が紅色の霧と共に消えていく。百は途切れる意識の中で、マグナ達への復讐を心に誓った。その誓いが果たされる日が訪れるのかまでは、百、自身にもわからなかった――
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