第十話 炎の街と四つ目の戦鬼

 夜も明けきらない薄闇の中、窓から見える木の枝に、真っ黒なカラスがバサバサと音をさせながら舞い降りてきた。


「カー!」と、響いたカラスの鳴き声が、深閑とした森の静寂を突き破る。まるで、誰かの叫びを伝えにきたようだった。ツァローニは、カラスからのメッセージを聞き取った。


「え! そうなの? それは、まずいわね」ツァローニは飛び起きると、屋根裏部屋で熟睡している二人を起こしにいった。


「二人とも! 急いで支度して!」二人はツァローニの大声にびっくりしながら飛び起きると、眠い目をこすりながら急いで一階へと駆け下りていった。


「何があったの?」クラヴィスとルキアの声が重なり、ツァローニに聞いた。


「あなた達の故郷の街から、火の手が上がっているそうよ!」二人に伝えた。


「え!? どうしよう」クラヴィスは顔を引きつらせ、ルキアの服をぎゅっと掴んだ。


「私の馬を貸してあげるわ。急ぎなさい!」三人は小屋の裏手の馬小屋へと走った。


「この子、ロクザっていうの」ロクザはブルルひと鳴きすると、クラヴィス達の方へと警戒しながら近寄った。


「あなた、ロクザちゃんっていうのね。私はクラヴィス。こっちはルキア」ロクザはクラヴィスに優しい目を向け鼻を鳴らした。


「さあ。急ぎなさい。馬を操った経験はなさそうだけど、ルキアならなんとかなりそうね」ツァローニはルキアの肩に手をおいた。


「はい。できる気がします」とルキアは頷きながらロクザの体をさすった。


「さあ」ツァローニは馬小屋の門へと向かい、扉を開け放った。ルキアはロクザに飛び乗りクラヴィスを引っ張り上げて後ろに乗せた。


 二人を乗せたロクザは、疾風のようにあやかし森を抜けて、ラナティスの街へと駆けた。


 西の空へと陽の光が傾き始めた頃には、二人を乗せたロクザはラナティスの街に着いた。二人はロクザから急いで降りると入口近くの柱に手綱をくくりつけた。


 街のあちこちから火の手が上がり、女子供の泣き叫ぶ声が響き渡っている。次々と燃え落ちる壁や木片が、瓦石と化しては道を塞いでいる。

 

 街の中心部の広場の方から、金属同士がぶつかり合う音や重たい銃声が轟いてくる。時折、爆発音も混じって聞こえる。


 黒煙が立ち昇る中、ルキアとクラヴィスは、瓦石がせきをよけながら吸い寄せられるように広場へ走った。


「額にアザのあるやつを探しだせ!!! この街に必ず居るはずだ!!!」広場では冷酷な輝きを放つ四つの目を持つメタルレイスが、仲間のレイスに怒号を飛ばして指示を出している。


 奇声をあげて応戦しているレイスハンター達は、数の多さに圧倒されている。


 四つの目を持つ四本腕のメタルレイスが、凶暴な声をあげながら、レイスハンター達を次々となぎ倒していく。四本腕は、一人で二・三人のハンターの相手をしている。首を取ろうと目論むハンター達が、次々と襲いかかるが返り討ちにあっている。


 別々に動く四つ目が、狂騒のような戦闘の中で、ハンターや亡骸に伏せて泣き叫ぶ住人の額を確認していく。別々に動く目がなんだか不気味だ。レンズを絞るように動き続ける四つの目のうちの一つが、マグナの額のアザを捉えた。


 四本腕のメタルレイスは、四つ目全てをマグナの方へと向けた。


「聖王見っけ!」と叫びながら、横から切りかかってきたハンターにとどめを刺すと、マグナの方へと突進していった。行く手を遮るハンターたちを、アッサリとなぎ倒してゆく。肉片と真っ赤な液体が飛び散り地面を染めた。


 マグナは迫りくる殺気を感じとると、素早い動きで身構えた。構えた抜身の刀身で敵の刃を受け止めた。


「シャキーン!」と、金属同士のぶつかる音が、悲しみの戦場と化した街中に鋭く響きわたった。


「よぉ。マグナ! まだ、疼いてなぁこの腕がなぁ。まさか、お前が聖王の生まれ変わりだったとは。俺様もビックリだ」赤い四つ目のメタルレイスの握った剣とマグナの刀身が火花を散らす。


「ん!? その声は『双剣の百』! なぜ、お前が生きている! しかもメタルレイスとなって!」四ツ目の百は質問に答えず攻撃を続けた。


 「お前の額にアザがあったのをすっかり忘れていたよ」マグナが止めた反対側の腕を振り下ろしながら四ツ目の百はいった。


「くっ………!」マグナはギリギリのところで攻撃をかわす。マグナは次々と振り下ろされる百の剣を受け流す。


「それにしても、安っぽいブレードだなぁ。お気に入りのやつは何処へやったんだ? そんな武器では、死地から舞い戻った俺様は倒せんぞ?」剣舞の中で刀と剣の間から火花が飛び散る。


 にらみ合いを続けるマグナの呼吸が、少しずつ荒くなっていく。

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