第14話 炎の街と四つ目の戦鬼
夜明け前の薄闇の中、窓の外に見える木の枝に真っ黒なカラスが舞い降りた。その鳴き声が、深閑とした森の静けさを突き破った。
誰かの叫びを伝えにきたようだ。カラスの言葉を直ぐに理解したツァロー二は、屋根裏部屋で熟睡している二人を急いで起こした。
「二人とも! 直ぐに支度するのよ!」
ツァローニの声が小屋の中に響いた。ルキアとクラヴィスは飛び起きると少し戸惑っていた。
「何かあったの?」
二人は眠い目を擦りながらツァローニに尋ねた。
「あなたたちの故郷の街が紅色の霧に満たされ、火の手が上がっているそうよ!」
その言葉に、二人は驚きを隠せなかった。信じられないという表情のまま、荷物を掴むと一階へと降りていった。
「ねえ、どうしよう」
クラヴィスは顔を引きつらせながら、ルキアの服をぎゅっと掴んだ。
「私の馬を貸してあげるから、街へ急ぎなさい!」
三人は小屋の裏手へと向かった。
裏の馬屋には、柔らかな銀の輝きを放つたてがみを持った純白の馬が繋がれていた。その馬は、雪のように白い毛並みが美しく、月光を浴びてまるで神話に出てくる生き物のようだった。
「この子、ロクザっていうの。とてもいい子よ」
ツァローニが馬のたてがみを軽く撫でながら言うと、ロクザはブルル、と鼻を鳴らした。警戒しつつも興味深げにやさしい瞳で二人を見つめた。
「あなた、ロクザちゃんっていうのね。私はクラヴィス。こっちはルキア」
クラヴィスが優しい声で話しかけると、ロクザは一瞬耳を動かし、柔らかな吐息を漏らしながら近寄ってきた。クラヴィスの指先がそっとロクザの頬に触れると、ロクザは大きな体を少し傾けて身を任せるようなしぐさを見せた。
「さあ、急ぎなさい。あなた馬には乗れるわね?」
ツァローニはルキアの肩に手をおいた。
「はい、大丈夫です」
そう答えたルキアは、ロクザの背中をそっと撫でた。
ルキアはゆっくり鐙に足をかけると、ロクザの背中に軽やかに跨った。クラヴィスは、ルキアの後ろに跨がると、腕を回してしがみついた。馬の背中は思ったよりも高く、柔らかな毛並みの感触が心地よかった。
「ロクザ、二人を頼んだわよ」
そういうと、ツァローニは馬屋の扉を開け放った。
ロクザに乗った二人は、風のようにあやかし森を駆け抜けた。
ラナティスの街に到着した頃、陽の光はすでに西の空へと傾いていた。
街全体が紅色の霧に覆われ、黒煙が渦を巻いて天に届きそうなほどに立ち上っていた。紅色の霧に包まれた燃えさかる街。硝煙の鋭い匂いが混じった空気が鼻を刺す。崩れた建物の影から噴き出す赤い炎が、怒り狂った獣のように唸りを上げて街を焼き払っていた。
霧の中から現れる金属の亡霊――メタルレイス。レイス達は機械的な動きで街を進み、破壊と混沌をもたらしていた。逃げ惑う人々を追い詰めるその様子は、あまりにも無慈悲で、霧がレイスの存在をさらに不気味なものにしていた。
街の中心からは悲鳴や金属同士がぶつかり合う音、さらには重い銃声が轟いてきた。時折、爆発音も混じっていた。
二人は急いでロクザから降りると、手綱を柱に結びつけた。二人は急いで広場へと駆けていく。黒煙が立ち上る中、道を塞ぐ燃え落ちた壁や木片を避けながら、無秩序な混乱の中を広場へ急いだ。
二人は悪夢を見ているようだった。燃え上がる火の手が、霧の中に歪んだ影を作り出し、建物の輪郭さえも曖昧にしていた。
「額にアザのあるやつを探し出せ! この街に『光の器』が必ずいるはずだ!」
冷酷な輝きを放つ四つの目を持つ四本腕のメタルレイスが、仲間に指示を飛ばしていた。
街の中心にある広場ではハンターたちが必死に応戦していたが、敵の数に圧倒されて苦戦していた。
四本腕のレイスは、凶暴な声を上げながら、次々とハンターをなぎ倒している。四本の腕を駆使して一体で二、三人のハンターを相手にしていた。ハンター達は必死に反撃を試みるが、返り討ちにあっていた。
戦闘の最中、四つの目がそれぞれ別々に動いて、額にアザのある者を探していた。ついに、そのうちの一つがマグナの額のアザを捉えた。四本腕のメタルレイスは、すべての目をギロリとマグナに向けた。
「聖王、見っけ」
四本腕のレイスはそう呟くと、切りかかってきたハンターを即座に切り伏せた。レイスは冷徹な目をマグナに向けると突進していった。突進してくる地面の上にはハンター達の血肉が飛び散り、街を真っ赤に染めていた。
迫る殺気を感じ取ったマグナは素早く反応すると身構えた。四本腕のレイスは、真横に振りかぶった剣で攻撃を繰り出してきた。
「シャキーン!」
金属同士の甲高い衝突音が悲しみの渦を作り出す。
「よぉ、マグナ! まだ疼いてなあ、この腕が!」
赤い四つの目を持つレイスが笑いながら言った。
「ん!? その声は『百』か? どうしてお前が生きている?」
マグナは驚きの声をあげた。
「俺様としたことが、お前の額にアザがあったことを忘れていたよ。お気に入りの刀はどこへやったんだ? そんなナマクラ刀で俺様を倒せると思っているのか?」
四ツ目の百は、笑いながら攻撃を続けた。
「お前など、この予備の刀で十分だ」
百に答えを返しながら、マグナは敏捷に攻撃を受け流した。
激しくぶつかる剣と刀が鋭い火花を戦場に散らす。二人は一歩も引かない。押し合う力が均衡を保っていたが、人間であるマグナの息遣いは荒くなり始めていた。マグナはじわじわ身体に伸し掛かる疲労を感じつつも、気力で踏みとどまっていた。
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