2−2・後手【分析室】
マジックミラー越しに取調室の様子を注視しながら、高山がつぶやく。
「それにしても、未婚女性とか、毎度毎度よく言うよな」
岸本は、数多くのモニターに目を配りながらも笑みを浮かべる。同時にキーボードを素早く操作し、記者クラブとの回線の設定を進めている。
「気持ちはフリーダムってことなんじゃないっすか。サルさんって小柄で見た目が高校生みたいだから疑われないし、経験不足だと思わせた方が相手の油断を誘うし。やってること、篠原さんと一緒じゃないっすか」
「だが、サルって家庭がうるさいって言ってたよな? あんなに入れ込んで大丈夫か? 爆発の危険があるし、思ったより長丁場になりそうだが……」
「サルさんですよ、言って聞くようなタマじゃないでしょう」
「だからって、刑事でもないのにな」
「旦那は財務省とかの注目株らしいっすけど、それより姑が厳しいってぼやいてたの聞いたことあります。仕事があれば顔を合わなくって済むから――じゃないですか。早く孫を作れって、急き立てられてるそうですよ」
「それ、初耳だぞ」
「強面の刑事さんに話すようなことじゃありませんから」
「あいつにも人並みの悩みがあるんだな」
「変わり者っていっても、一応主婦ですからね。しかも中里ってヤツ、完全にサルさんのツボにハマってるし」
「まあ、興が乗ると周りが見えなくなるところはお前らと同類だからな」
そこに、篠原が入ってくる。中里の前では平静を装っていた表情に、困惑が滲み出している。
「参りました……まさか爆弾まで持ち込んでいたとは……。身体検査を省いたのは失敗でしたね」
高山が言った。
「初手から犯人扱いはできませんので、不可抗力でしょう。悔しいが、あいつの読みは正しい。人質救出が第一ですから、どっちみちこうなっていました」
篠原には慰めにもなっていないようだった。
「総監も中里さんの様子を見てるんでしょう?」
「モニターにかじりついてました。他の署内回線は遮断しています。特ダネ級ですから、変なところから情報がもれるとまずいので。もうすぐ記者クラブにも同じ映像を見せられます」
「許可が降りましたか⁉」
「渋々、でしたがね」
「こんなに早いとは、意外です」
「間もなく麗子さんの父親が到着するようですから。慣例破りよりも、お仲間の娘を優先したってことでしょう。娘を助けろって圧力が激しいようだし……しくじっても、篠原さんに責任を押し付けられるってことですかね」
「ま、僕たちがそういう立場だってことは納得済みですけど。自由にやらせてもらえるなら、不満はありません。で、爆弾処理班はまだですか?」
「緊急要請はしましたが朝も早いし、あと20分はかかるそうです。爆弾が本物だと確定したわけでもないし」
「本物だと思いますか?」
「だったら、解体は取調室でやるしかないでしょう」
「爆発しても被害が少ない場所に移動するべきでしょう」
「別の起爆手段を持っていない保証がありますか?」
「全裸ですけどね……まあ、腹の中に装置を入れてくるのだって、普通はしませんよね」
「取調室の公開を要求している以上、ここから移動させない方が安全でしょう。署員に隠れて場所を変えるのは難しいし、情報がもれて騒ぎを大きくしかねません。わざわざ署内回線を遮断した意味がなくなりますから。クラブに入れないフリーランスに裏話を売って小遣いを稼ぐ輩もいますのでね」
篠原の答えは歯切れが悪かった。
「確かにそうですが……。彼のスマホ、調査は進んでますか?」
岸本が答える。
「中身はほとんど空っぽです。買ったばかりの新品で、Gメールのアカウントが一件登録されているだけ。写真もネットの履歴もないですね。これじゃ偽装にもなりません。犯人だと自白する前提で準備してきたとしか思えません」
「彼の術中に嵌められているのでしょうか……? 何を企んでいるんだか……?」
高山が篠原の困惑を意外そうに見つめた。だが、篠原がかすかに笑っているのも確かだ。
高山は、小声で言った。
「楽しいですか?」
「不謹慎な。こんなに好き勝手やられて、面白いはずないじゃないですか……。しかし、こんなヘンテコな事件は、ここしばらくありませんでしたからね……」
楽しいのだ。
高山は、そんな篠原をよく知っていた。
篠原は畑違いの分野から警察官僚に転身した変わり者だ。そもそもが、上位下達の組織には馴染まない。不祥事続きだった組織改革の〝看板〟として民間人を登用したかった警察と、量子力学研究から人間心理の探究に関心を移した篠原の希望が一致したに過ぎない。警察も、天才と謳われた篠原を一時は歓迎した。
しかし篠原は、基本的に自由人だ。そして徹底した合理主義者だ。非合理的な慣例に縛られた警察組織に馴染めるはずはなかった。数々の軋轢を繰り返した末に落ち着いたのが、〝管理官補佐〟という奇妙な役割だった。捜査本部を率いる管理官の下で現場を学ぶという名目で、警察の常識では手に余る〝奇妙な事件〟を押し付けられるのが常だった。
しかし遊撃隊的なその立場は、逆に警察官としての篠原の可能性を開花させた。いくつかの難事件を、少人数で解決してしまったのだ。警察幹部もその成果を認めない訳にはいかない。そして篠原の立場は、危うい均衡を保ちながらも定着していた。
だが、高山が前回組んだ事件では、〝やり過ぎ〟が非難を浴びた。高山が処分されなかったのは、全ての責任を篠原が負ったからだ。今回の事件で久々に組むことになった篠原は、明らかにそれまでの闊達さを欠いていた。経歴に傷を残すような処分はされなかったものの、厳しく自重を求められたのだろう。
それは、警察官なら誰も扱うような〝ありふれた事件〟にしか関われないということを意味する。『犯罪者の心理を研究したい』と公言する篠原にとって無価値ではないにしても、〝面白くない〟のも事実だろう。
精彩を失っていたのは、退屈だったからに違いない。
だが、篠原には〝奇妙な事件〟を引き寄せる何かがある。というより、警察の常識を破壊するような〝奇妙な事件〟を扱えるのは、篠原しかいない。ある意味、体のいい厄介払いに使える便利な人材だったのだ。
そして〝奇妙な事件〟がやってきた。
警視庁に〝宣戦布告〟を告げた中里は、登場の瞬間から常識を無視している。
こんな〝犯人〟に対峙できる警官は、篠原しかいない。
一方の高山は、現場経験が豊富な刑事だ。一般の犯罪者の理不尽な行動を幾度となく体験している。大半が人格の破綻や無知に起因するのだが、それだけに現場では予測不能な事態が頻発する。理屈や統計が通用しないことが普通だ。求められるのは常識に縛られない皮膚感覚と瞬発的な判断、そして臨機応変な対処だ。
その点では、中里は高山の守備範囲にあるといえた。
何より高山は、奇人とも噂される篠原と〝ソリが合う〟数少ない刑事だった。篠原は現場の捜査員を見下すことはなかったが、特に高山を気に入っていたようなのだ。
高山自身は、篠原のような頭脳明晰な人間が自分を高く評価する理由が分からない。だが、嫌いではない。むしろ、並のキャリアにはない奔放さを高く評価していた。
高山が提案する。
「中里が用意周到なのは間違いありません。俺たち警察を操ろうと乗り込んできたんです。だからこそ、ヤツの真の狙いがはっきりするまでは指示に従った方がいいのでは? 自信過剰の思い上がり野郎が計画を台無しにされたら、どんな報復に出てくるか予測できません。自暴自棄になったら、破滅的な被害をもたらす手段を繰り出してくるかもしれない」
篠原は、まだ決断を下せずにいるようだ。
「すでに爆弾まで持ち込んでいますしね……。しかし、記者クラブにそこまで公開するのはどうでしょう……。簡単に引いたら、また次の要求を出してくるんじゃありませんか? 初手から相手の術中にハマるのはいかがなものかと……」
「上も了承してます。異例とはいえ、報道規制は強化しましたから実害は少ないかと。……まあ、気休めですけどね」
「事後に何を言われても知りませんよ」
篠原は、高山の定年が近いことを案じているのだ。
「実害があっても、篠原さんが被ってくれるんでしょう?」
「まあ、僕はどうなっても構いませんけどね。最悪、警察を去ればいいだけですから」
「人質さえ救えれば、なんとでもなります」
「ですが、身代金以外にも目的があると匂わせています。『警視庁を崩壊させる』とか放言できる人物ですから。迂闊にあっちの手に乗るのは危険だと思いませんか?」
「タイムリミットがなければ、俺もじっくり締め上げたいです。しかし、時間稼ぎの間に人質に危険が及んでは、それこそ非難の的です。父親も来るし、家族を殺される危険を防げなければ、他省の高級官僚にも動揺が広がるでしょう」
篠原もうなずく他ないようだった。
「上が納得しているのでは、僕の権限は及びませんしね……。取調べを公開しましょう。あの方、僕が一番苦手なタイプですしね」
「あなたに苦手なんかあったんですか?」
「警察に入ったのは、人間の心理を深く知りたいと思ったからです。それが僕には最も理解し難いことでしたので。つまり、弱点なんです。なので、僕は当面、中里さんの真意を引き出すことに専念しましょう。幸い、猿橋さんが助けてくれますからね」
岸本がうなずく。
「回線接続は終わってます。そこのモニター2台、取調室に運んでください。双方向で互いを見ることができます」
岸本に指示された部下2人が、取調室に21インチモニターを運び込む。室内に飛び交う電波を撹乱しないために、廊下から細いケーブルを引きずっている。ドアは閉めることができたので、防音効果は損なわれていないはずだった。テーブルの端に据えられたモニターには、すでに記者クラブの雑然とした様子が映し出されていた。
中里が無言でその画面を見つめている。
同じ映像がコンソールの小さなモニターにも表示されている。
記者クラブには70インチを超えそうな大型モニターが置かれているのが確認できた。真っ黒な画面を見つめている記者たちが横から映し出されている。七社会の記者たちも、窮屈な部屋の中で身を寄せ合って息を殺しているようだ。
彼らはすでに必要な現状報告と充分すぎる警告を受けているはずだった。
岸本が言った。
「では、記者クラブへの中継を開始します」
大画面に、2分割された取調室の様子が映し出される。1つは中里のアップ、もう1つは部屋の角から見た全体の俯瞰映像だ。記者たちの間にどよめきが広がる。
取調室にモニターを設置し終えた2人が去ると、中里がテーブル角のカメラに向かって穏やかに笑いかけた。
『大変満足です。記者のみなさん、これが今の取調室の様子です。私の言葉が聞こえていたら、誰かカメラに向かって今日の新聞を掲げてください』
記者たちは、同時に緊張感を漂わせた。その中の数人が、自社の朝刊を頭上に上げて見せる。彼らの目には、中里の姿も、発した言葉もはっきりと伝わっている。
高山がマイクのスイッチを押す。
「サル、記者には概要を説明済みだ。爆弾の件もだ。下手に工作すると後で揚げ足を取られるので、まずは隠し事なしで進める。解除法を聞いてみろ」
猿橋は身を乗り出した。
『ジャケットの爆弾、解除するやり方教えてもらえる?』
中里は悪びれずに答えた。
『解除は必要ありません。ダミーですから』
猿橋は当然のように答えた。
『やっぱりね』
『分かってました?』
『命を捨てる覚悟をしていたって、本物の爆弾と一緒なら平然としていられないのが普通だもの』
『同業者は騙せませんね』
『でも、1パーセントでも間違っている危険があるなら、従うしかない――最初からそう予測してたんでしょう?』
『警察といえどもお役所――ですからね。足元で爆発事件を起こさせる危険は犯せないはずだ。先生も、まだ100パーセントの確信はないと見た。今だって私の言葉が本当かどうか、分析続けてるんでしょう?』
猿橋は無言でにらみ返すだけだった。
篠原がつぶやく。
「そうきましたか……」
岸本がうなずく。
「やっぱり嘘だったか……」
高山の目が岸本に向かう。
「分かってたのか⁉ なぜ言わない!」
「バイタルデータだけじゃ判定しきれなかったんです。データの読み方にだって分析官の個性が出るし、今日初めて調べる相手ですから傾向の蓄積もできていません。何よりコイツ、分かりにくい」
岸本は有能な分析官ではあるが、細部にこだわりすぎる傾向が強い。少しでも疑念を感じれば断定を避ける。〝逃げ〟というよりは、完璧主義なのだ。
それでも篠原は言った。
「これでいいデータが取れたんじゃありませんか? 少なくとも、考え方の傾向は見えてきます」
高山が岸本に問う。
「ダミーだというのも言葉だけだ。調べる方法はないか?」
「ブルートゥースを遮断するならジャミング機を使えばいいですけど、ここにはないし……あ、アルミホイルで包めば電波接続は断てるかも――」
高山が誰にともなく命じる。
「誰か、給湯室からホイルを持ってこい! 他からも、ありったけかき集めろ!」
岸本が焦りを見せる。
「ダメですって! 本物だったらどうするんですか! 遮断したら爆発するんですよ!」
「そこは、賭けだ」
「賭けってなんですか⁉」
「お前の能力に賭けるんだよ。ヤツの本心を見抜け」
「そんな……無謀です」
「時間がないから仕方ないだろう。ヤツが本気で爆発すると信じていれば、データに出ないはずはない」
「でも、爆発したら――」
「ヤツの狙いが潰れる」不意に本音が吹き出す「いい加減頭に来てるんだ! こんなクソ野郎に好き勝手かき回されてたまるか!」
すぐに届いたアルミホイルをつかんで、高山は取調室に戻った。
岸本がつぶやく。
「大体、遮断できるって決まったわけじゃないんだけど……」
篠原は落ち着いている。
「いいんですよ。中里さんが『遮断できる』と信じてくれれば、その反応で真実は見極められます。高山さんの押しの強さなら、誰も疑わないでしょう?」
肩を怒らせて取調室に入った高山はテーブルにアルミホイルを広げた。
中里はその姿を泰然と眺めている。
猿橋が問う。
『何をするの?』
『岸本がいうには、ホイルで電波を遮断できるそうだ。ここでジャケットを包む。本当にダミーなら何も起きない。本物ならドカンだ。サルたちは隣に行ってろ』
中里がモニターを見て冷静につぶやく。
『この様子も記者たちが見ているんですよ?』
『見せてるんだよ! お前が記者たちに刑事の爆死を見せたいなら、念願成就だ。それでも、人質は俺の仲間が救出してみせる』
『そんなに力まなくてもいいですって。ダミーなんだから』
高山は猿橋と井上に視線を送った。2人は廊下に出てから、分析室に入る。
その間に高山は、ジャケットを小さく折り畳んでアルミホイルで包み始めていた。空気で膨らんだダウンジャケットは畳みにくいが、その手元は落ち着いている。
テーブルに置かれたモニターの中でも、記者たちが身を乗り出して取調室の映像を見守っている。
猿橋が言った。
「中里の反応は⁉」
「バイタル、変化なし。表情からは激しい感情は読み取れません。恐怖のような動揺は皆無ですね」
「ダミーで決定ね」
それでも高山は厳しい表情で、ジャケットを包み込むことに苦心している。ドアが開き、数人の職員がアルミホイルを追加する。職員たちは、ホイルを投げ出すようにテーブルに置くと、慌ただしく去って行く。〝それ〟が爆発物であるかもしれないという噂は、すでに署内に行き渡っていたようだ。
高山は不器用な手先で次々にアルミホイルを空にしていく。
その姿を、中里は無表情に見つめていた。
高山はジャケットを完全に包み終え、小さなため息をもらした。
『これで電波は遮断された……。お前の言葉が裏付けられたわけだ』
『ご苦労様でした。私のこと、信じてもらえました?』
『これだけで誘拐犯の言葉を鵜呑みにするわけにはいかない』
岸本がコンソールの時計を見て、マイクにささやく。
「もうすぐ爆弾処理班が着きます。ジャケット、こっちに持ってきてください。解体して精査してもらいます」
いったんは分析室に入った井上が、無言で取調室に戻る。交代で高山がアルミホイルの塊を抱えて立ち上がる。
猿橋が篠原に言った。
「わたしもあっちへ」
篠原は不機嫌そうだ。
「あなたは警官ではありません。こっちで心理分析を手伝ってくれるだけで充分です」
「それじゃ、実力を出せません。認めているから呼んでくれたんでしょう?」
「彼は危険です。何を企んでいるか予測できません。あなたの身に危険が及ぶ恐れもあります」
「だからこそ、わたしの経験が活きるんです。多少の怪我くらいなら、文句は言いませんよ。労災も出るんですよね?」
「爆弾が本物なら、怪我どころではすみませんでしたよ」
「でも今は、教授は丸裸。危険物は持っていないはずです」
「そんなにスリルを味わいたいんですか?」
猿橋が小さく肩をすくめる。
「だって、この犯人、興味深いんですもの。篠原さんの言うとおり、何かとんでもないことを企んでいる。腹の底を見極めたいんです」
分析室に入ってジャケットを部下に手渡した高山が毒づく。
「この犯罪フェチが! 何を企んでいようが、結局目的は身代金だろうが。外に仲間がいるはずだ。なんとか手がかりを喋らせて、人質を助ける。仲間も捕まえる」
中里の警察を舐めきった態度への苛立ちが、抑えきれないようだ。
篠原が高山をなだめるように言った。
「そう決め付けるのは早計でしょう。全てが誘拐の常道に反していますから。そもそも、被害者の父親に、『警察に知らせろ』と命令するのは聞いたこともありません。身代金目的なら『知らせるな』が常識でしょう? 警視庁に乗り込んできたのは、記者たちを巻き込むためだと思います。だが、その先に何を企んでいるのか見当がつかないんです……」
猿橋がうなずく。
「早く目的を見抜かないと、もっと大ごとになるかもしれない」
高山が言った。
「お前なら見抜けるのか?」
「捜査経験はないけど、犯罪心理は専門だから」
決断したのは篠原だ。
「取調べには僕と猿橋さんが当たりましょう。高山さんは、捜査の調整をお願いします」
と、ミラーの向こうで中里が動きを見せた。テーブルに残っていた身分証を取ると、それをカメラに向けたのだ。当然、記者たちに内容を見せるためだ。
中里はカメラに向かって言った。その声がスピーカーから流れる。
『私は東帝大学の中里です。南麗子誘拐の犯人として自首しました。でも、それは事実ではありません――』
篠原がマジックミラー越しに中里をにらんで、うめく。
「なんですって⁉ 今度は何を――」
中里の語気に、不意に激しさが加わる。
『私は誘拐犯から脅されてこんなことをしてるんです! 娘が……不倫の子ですが、実の娘が、麗子さんと一緒に拐われています! 言うことを聞かなければ娘を殺すと脅されています! 偽物の爆弾を使って記者クラブに情報を流させろと命じられたんです。みなさん、お願いです! この件を報道して娘を探してください! 娘を救ってください!』
篠原が茫然とつぶやく。
「なんですか、それ……」
一方の猿橋は、かすかに笑っていた。
「これが記者を巻き込んだ理由……? 教授……面白すぎるわ」
高山が叫ぶ。
「報道規制を厳しくしろ! 記者を外に出すな! 外部とも連絡を取らせるな! パソコンもスマホも取り上げろ! 私語厳禁、禁足厳守で、缶詰にしろ。規制破りは絶対に見逃すな!」
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