第2部 SCRATCH - プロローグ ー

「そう、お仲間は皆揃ったのね。よかったじゃない。それでお仕事のほうはどうなったのかしら?」

ほうっと小さく吐息を漏らし、声が語りかけてくる。たっぷりと情感がこもった、それでいてどこか冷静に観察しているような情念と理性がないまぜになった声色だった。


「そう急いてはいけないな。もう何度もこの話はしただろう?」

男は訝しみ聞き返した。


声の主は、単なる確認ではない言葉のやり取りを楽しんでいるようだった。

「わたしたちは言葉に込められた感情を食べているの。極上の話は極上の味わいを持っているわ。話に込められた強い感情は、語られる度何度でも甦り私たちを満足させてくれる。おいしい料理は幾度食べてもおいしいもの。だからね・・・」


「そんなものか・・・。いいだろう。お楽しみはこれからさ」

好奇心が満足したのか、男は続きを話し始めた。

「それにまだ全員じゃない。大事な人が残っているんだ。いい子で聞いていればそのうち登場するさ。そこからが本当の始まりなんだよ・・・」


「当時の俺たちは、俺たちならきっとうまくやれる、と根拠のない確信で頭がいっぱいだった。ここまで思った通りに事が運んで気が大きくなっていたんだろうな。俺たちはこの世界のことをまだ何もわかっちゃいなかったのに。だから・・・」

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