YES WE CAN CAN (その4)
「
2人に見送られて家を後にした。
言われた通り護符にマナを込めると、来た時の様に木々が分かれてエルフの道が創られた。
トレントの巣に行く道すがら、ミーナがおずおずと2人に告げたことがあった。
「あのエルフのお二人のことだけど…」
「マカタさんとエイミーさんのこと?」
「ワタシの思い違いじゃなければぁ、あのお二人は、邪神戦争時代、エルフ軍の主戦力だったエルダーエルフの魔法使いですよぉ。確かぁ、マカタさんが魔弓聖の“殲滅の金”、エイミーさんが炎魔法では並ぶものなしの炎帝“灰燼の銀”だったはず」
「「え“…」」
「子供でも知っている超有名人ですよぉ。まさかぁ、まだ生きていらっしゃるとはぁ」
「ということは、千歳越えなの?」
「さすがはエルダーエルフ様ですねぇ」
「わたし、そんな凄い人に弓を貰っちゃったの?」
「間違いなく国宝級の逸品ですねぇ。羨ましいですぅ」心にもないお世辞を言うミーナ。
「わたし、そんなトンデモないもの貰えないわ。ミーナあげる!」
ミーナにほっ付けようとする。
「あたしだって要らないわよぅ。セラちゃんが貰ったんだから、自分でなんとかしなさいよぉ」
押し付け合ってギャーギャー騒いでいたが、結局セラが持つことになった。
決着をつけたのはシュウだ。彼が弓を解析してみると、すでにセラが弓の所有者として登録済みで、セラ以外弓の型にすらできなかったからだった。
「それでぇ、あんな危ない場所に住んでいられたのねぇ。あのお二人なら納得ですう」
「そういえばシュウもぉ、何か貰っていなかったかなぁ?」
ふと思い出して訊く。
「これか?」
エイミーさんに貰った護符をミーナに手渡す。
「この護符もエグいわねぇ。トンデモないエルフパワーを感じるわぁ。それにものすごく強い炎の加護が込められてるぅ」
すぐに彼に突っ返して手をブルブル振る。
「マジか」
酸っぱい顔のシュウ。
「そうよね。木が勝手に避けて道を創ってくれるし、獣も魔物も寄せ付けない。道の中では疲れないし考えられない速さで目的地についちゃうもんね。大した御利益ね」
セラがヤケに持ち上げようをしている。
「それでもお前の弓には負けるけどな」
「いやいや、護符の方が凄いでしょう」
「どっちもどっちだねぇ」
魔の森の真っただ中でバカ話をしつつ歩いていると、前方にひときわ大きな木が見えてきた。
教えてもらったトレントの巣の目印の木だ。
用心しながら進み、巨木の影から先を窺った。
その先は広く開けた土地で、不自然なほど統制の取れた間隔で禍々しい気配を放つ木が生えている。
それらの木に囲まれた中心に、一回り大きく最も忌まわしい雰囲気の巨木が一本あった。
(あの奥のがエルダートレントじゃない?)
(そうだな、一番ヤバそうだし)
(どうするぅ?出直してみんなで来る?)
(ミーナの魔法とセラの弓があればやれるんじゃないか?)
(わたし自信ないなあ)
(大丈夫だって。サクッと片付けようぜ。エイミーさんの護符を渡すから、最初にエルダートレントが逃げられない様にミーナが火の壁でエルダートレントを囲って奴らを分断する。次にセラとミーナで雑魚トレントを一掃する。最後に炙られて弱ったエルダートレントを、吹き飛ばない程度の威力に弱めたセラの弓で仕留める。完璧だろう?)
(あんたは何するのさ)
(俺は計画立案と進行管理、素材回収だ)
(えーズルい)
(サボりはだめですぅ)
(仕方ないだろう、俺魔法つかえないんだし。とっととやろうぜ。ほら、行くぞ)
渋々2人は攻撃を始めた。
「炎壁」
エルダートレントの半分くらいの高さの炎をイメージしたつもりだったが完全に見えなくなるくらい高さの炎の壁が出現した。
「げ、ナニコレ?」
「馬鹿、ミーナ強すぎだろ。もっと弱めろ丸焼きにするつもりか!」
慌ててミーナが炎の壁を張りなおす。
「炎弾」
炎の塊がトレントを次々焼き払う。爆風と熱風がひどい。
「俺たちまで焼けちまうだろ!もっと弱めろ」
「乱れ打ち」
セラもノリノリだ。
やっているのは矢を乱射しているだけだが、さすがの神弓。適当に射ても全弾命中し雑魚を吹き飛ばしている。
技名はたぶん後付けだ。
「いけいけ。その勢いでやっちまえ」
想定以上の圧勝に、シュウも応援しかすることがない。
しかしいいことは長くは続かないものだ。
「あたしぃ、もう無理ぃ」突然ミーナがその場にへたり込んだ。
「どうした、ミーナ。何があった?」
「この護符威力出すぎぃ。あたしのマナもう空っぽうよぉ」
「しまった。弱い魔法でもブーストして強魔法並みの威力出してたのか・・・」
ミーナは脱落したが、セラの弓のおかげでなんとか雑魚を一掃することができ、とうとうエルダートレントを残すだけになった。
途中でミーナの脱落と共に炎の壁は消失したが、かなり消耗している様子だ。
「後処理が面倒だから枝を全部払ってくれよ」
「何注文つけてくれるのさ、もう。風刃」
怒りながらも風魔法で律儀に枝を落としていくセラ。
枝もあらかた落とされたエルダートレントは、電信柱のような無残な姿を晒している。
「これくらいで勘弁してやろう。ミーナ核の位置を特定してくれ。その後トドメを頼む、セラ」
「はいはい、人使いの荒い・・・」
ミーナにマナ回復ポーションを飲ませ、エルダートレントの核の位置を探らせる。
「あそこよぉ」
エルダートレントの幹の一部が蛍光イエローでマーキングされた
後はあの部分をセラが射貫くだけだ。
勝った!と3人が思ったその瞬間。
それは一瞬の出来事だった。
最後の力を振り絞った瀕死のエルダートレントが、根を引き抜くと3人にものすごい勢いで迫ってきたのだ。
慌てて撃ったミーナの炎魔法が掠ったため、巨大な松明状態になったエルダートレントの迫力に、パニックを起こした3人は反撃も忘れて逃げ惑う。
「聞いてないよー」
「ギャー、熱い、あーつーいー」
「ミーナ、み、水、水出せ。火を消せ」
火の粉を盛大にまき散らし辺り一面火の海にしながら、業火の化身となったエルダートレントが逃げ回る3人を追い詰めていく地獄絵図が出現した。
「水瀑!!」
命からがら逃げ切り、水魔法を放つミーナ。
エルダートレントを中心に、3人を巻き込み天の底が抜け落ちたかのような豪雨が降り注いだ。
莫大な水がすべての炎を期し去った後その場に残ったのは、火の消えたエルダートレントと弓に縋って辛うじて立ち肩で息をしているセラだけだった。
水に流されたシュウとミーナは地面に仲良く転がっている。
形勢は互角。
向かい合って立つ両者。
次に一撃を決めた方が勝つ。
両者の間に風に吹かれた木の葉が1枚通り過ぎた。
最初に動いたのはエルダートレントだ。
幹から瞬時に生やした枝がセラを貫く。
とその枝が、セラを中心に光と共に二股に裂けていく。
光と亀裂はエルダートレントの幹に届くと、マーキングの中心に穴をあけ貫通していった。
エルダートレントの攻撃とほぼ同時に射られたセラの矢だった。
セラの矢に核を消滅させられたエルダートレントは地響きを立て倒れた。
エルダートレントの最後を見届けたセラは、地面に転がったままの2人の傍に歩いて行った。
「やったわよ」
ようやく絞り出した一言に反応して、二人は片手を持ち上げた。
セラはその手に自分の手を重ねると、糸の切れた人形の様にその場に倒れ込んだのだった。
疲れ切った3人は、トレントの巣で一晩を明かすことにした。
翌朝輪切りにしたエルダートレントをストレージに収納すると、後始末もそこそこに”エルフの道”を起動し、やっとのことで森の家に帰り着いた。
庭にはエイミーさんがすでに出迎えてくれていた。
3人を心配した彼女は感知魔法を全開にし、彼らの無事を確かめると準備していたのだ。
おいしい食事と極楽な風呂、二人の細やかな気遣いはエルダートレント戦の疲れを3人から完全に回復させるのに十分すぎるものだった。
翌日からマカタさんがエルダートレント材の加工にとりかかってくれた。
lこの家を建てたことからも判るように、マカタさんは自給自足の生活を維持できるだけの色々な技術を身に着けていた。建築、農業、採集、狩猟そして金属加工に木工。
もちろんマカタさんがやらない機織り、裁縫などはエイミーさんが受け持っている。
二人揃えばできないことはないと言えるほどだった。
3日の後、出来上がった依り代を3人はマカタさんから受け取った。
トレント材を扱う上での注意点をエイミーさんから教えられた後、礼を言って森の家を去り、3人はようやく拠点に凱旋することができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます