YES WE CAN CAN (その3)
いよいよエルダートレント討伐出発の日が来た。
ギルドのアイリス塾では、それほど多くの情報は得られなかった。
エルダートレント自体討伐記録が少なく、共通情報もほとんどないためだった。
討伐チームはシュウとセラは確定で、しかし二人だけではいささか火力が心許ないため、ミーナも同行することになった。
例によってシンたちは用事があるとかで不参加だった。
友達甲斐のない奴らだ。
途中までは乗合馬車で行き、下りてから街道を外れ、1時間歩いて森の端に着いた。
森に入る前に小休止し、セラを喚び出す。
3人で地図を見ながらルートを決めていく。
「俺に考えがあるんだけど」とシュウが切り出す。
「うまくいけば安全で簡単にトレントの巣まで行けるかもしれない」
「そんなうまい方法あるのぉ?」
水を飲みお菓子をほおばりながらミーナが訊き返す。
「最近知り合った人たちがいてさ。ほら、俺がセラを連れ帰ったとき、偶然森の中で知り合ったんだけどさ」
「森の中でぇ?ふーん?ハンターなのぉ?それとも猟師?」
「いや、普通に森の中に家を建てて住んでた」
「いやいやいや、それおかしいでしょお?幻覚を見たのよぉ、きっと。”宵闇の森”は人が住めるような場所じゃないし」
ミーナは頭から信用していない。
「ああ、あの人たちですか。それなら大丈夫かも」
「セラちゃんまでそんなこと言ってぇ・・・。ホントにそんな人いるのかなぁ?」
「うん、わたしも会ったよ。いい人達だったわ。森にも詳しかったし。何と言ってもエルフだからね」
「エルフ!エルフかぁ・・・。それなら納得かも。でも・・・」
まだ半信半疑のミーナ。
「会えばわかる。ミーナもきっと好きになるさ。とにかく行ってみよう」
シュウは前回の訪問の別れ際に、エイミーさんから手製の護符を渡されれていた。
森に入り護符にマナを流すと二人の家に行く道が示される、とエイミーさんは言っていた。
言われたとおりにすると、果たして3人の目の前で森の木々が分れ道が造られていく。
初めて見るエルフの魔法に3人はすっかり心を奪われてしまっていた。
道は、道以外とは比較にならないくらい明るく清浄な気配に満ち満ちている。
何処までも続く神秘の道に心が躍り、足を踏み入れるやいなや自然と足が早まっていくのを止めることはできなかった。
獣や魔獣もエルフの道を避けるようで、さっきから全く遭遇しない。
中を歩いていると、不思議なことに道の中では歩いた距離も時間も曖昧になってしまうようだった。
3人はどれだけ歩いても全く疲れ覚えず、それどころか歩けば歩くほど心は喜びに沸き立ちいつまでも歩いていたいと思ってしまうのだった。
やがて3人の前に見覚えのある家が現れた。
「信じられない!本当に家があった」
ミーナが驚きでその場に棒立ちになってしまった。
ややあって驚きから再起動したミーナを、二人は森の家へと誘う。
不可思議で有り得ない家をいまだに理性が受け入れを渋っていたことと、エルフの住む家ということもあり、ミーナは訪問する決心をつけかねていた
それでも最後には好奇心が猜疑心に勝ったミーナは、ようやく訪問に同意したのだった。
板塀の戸を開けて花々が咲き誇る前庭を通て玄関へ。
扉をノックし声を掛けると、返事と共に扉を開けたエイミーさんが出迎えてくれた。
「また会えて
「お母さんただいま。会いたかったぁ」
セラがエイミーさんの胸の中に飛び込む。
「相変わらず花いっぱいの綺麗なお庭だね。エイミーさん」シュウも挨拶する。
「
まんざらでもなさそうに彼女はほほ笑んだ。
彼女はふと、二人の後ろでひどく緊張しているミーナを見つけた。
「
「は、初めまして、エイミー様。あ、あたしはアルカンで魔法店を営んでおります、魔女のミーナと申します。エルフの御方のご尊顔を拝謁する栄誉に浴しましたこと、恐悦至極にございます」
ミーナはいとやんごとない方に会った時さながらにガチガチに緊張している。
「
「そうおっしゃっても」
《ルビを入力…》「
「いや、でも…」
「
「わかりました。エイミーさ、様」
「様はなし」
「エイミーさ…ん」
「
「エイミーさん、マカタさんは?」切りのいい所でシュウが割って入った。
「お父さんは裏に
「わかりました。お願いします」
「エイミーさん、マカタさんって…。もしかして…、いやいやそんな…」ミーナは青ざめた顔でつぶやいていた。
3人は座敷に上がって囲炉裏のそばに腰を下ろした。
「どうしたんだ、ミーナ。あんなに畏まっちゃって」シュウが冷やかす。
「何言ってるの。あの方は只のエルフじゃないわ。本物のエルダーエルフ様がいたしたのよ。エルダーエルフ様は生ける伝説。滅多なことじゃ里から出て来やしない。あのアルカンでさえ一人しかいないの。それぐらい雲上の方なのよ。あたしら魔法使いにとっては神にも等しい存在なの。それをあんたたちは、近所のおばさんみたいに気安く話して。寿命が縮んだわ。ほんとに、もう」
「だって、アイリスさんだってエルフだろ?」
「彼女は“混ざり”、ハーフエルフで、しかも闇エルフの血を引いている。だから彼女はあのポジションなの」
そうやらエルフの中にも複雑な事情がりそうだった。
「ふーん、よくわからないけどまあいいや。とにかくエルフってすごく偉いんだ」
「エルダーエルフ様。間違えちゃダメ!だからあんたたちもくれぐれも失礼の無いようにしなさいよ」
「「はーい、わかりましたあ」」
渋々頷く二人。
「それに、あたしの思い違いでなければこの2人は・・・」
ミーナはその先を続けられなかった。
ちょうどその時、マカタさんとミーナさんが連れだって勝手口から姿を現したのだ。
「待たせて
頭を掻きつつ恐縮するマカタさん。
「こちらこそ、突然訪ねてご迷惑じゃなかったですか」
「
「ありがとうお父さん。何とかやってるわ」
「
「ところでそっちのお嬢さんは?」
「あ、あたしは・・・」
さっきの場面が再現され、やっぱりミーナは押し切られてしまった。
ミーナの紹介も終わり、シュウは二人に用件を切り出した。
「今日はマカタさんにお願いしたいことがあって来ました」
「
「セラのためにお力を貸してください。お願いします」頭を下げるシュウ。
「わたしからもお願いします」セラも頭を下げた。つられてミーナも下げる。
「
照れたようにマカタさんは頭を掻いた。
「
二人の言葉に勇気づけられて、セラとシュウ、ミーナは今までの経緯とこの家を訪れた目的を話した。
「はぁ、
エイミーさんが太鼓判を押す。
「
「
「ここにあります」
護符をエイミーさんの前に置く。
エイミーさんは護符を手に取ると、額の前にかざして何事か唱える。
それが終わるとシュウに渡しながら
「これに、トレントの巣まで案内する
そんなやり取りの後、マカタさんがうっかりした顔で言った。
「
マカタさんによると、トレントはたいてい開けた場所に巣を作る習性がある。
巣の中心にはエルダートレントがいて、その周りをトレントが均等に囲んで守っている。
エルダートレントはトレントと同じく弱点は火で、討伐難易度はそれほど高くはない。
しかし問題は、エルダートレントに到達するまでに、周囲を固めているトレントをいかに効率よく排除するかなのだという。
エルダートレントは眷属のトレント群を指揮する能力があるため、それらを使って消耗戦を仕掛けてくる。
こちらは3人パーティのためいかに余計な戦闘を避けるかが重要になってくるのだ。
指揮能力だけではなく、エルダートレントは魔法を行使する厄介な相手だ。
遠距離では風魔法により刃物のような葉を飛ばし、中・近距離ではマナを纏わせた根や枝による打ち払いとスキがないうえ、枝や根をいくら攻撃しても本体にはダメージはほとんど通らない。
風魔法は炎系の攻撃に対する防御にも使ってくるので攻防一体となった隙のない戦闘をすのだという。
エルダートレントは生きてきた年月により巨体になることが多く、その活動は攻撃は体内の核を破壊するまで止むことがない。
その核は体内を移動させることができ通常の感知系スキルでは見つけることができない。
それらを踏まえたエルダートレント対策は、まず遠距離攻撃で枝を落とし、胴体を丸裸にしたうえで炎で囲む。熱で消耗し動きが鈍ったところで一寸刻みにし核を破壊するというものだ。
近づかず徹底して遠距離で倒すノーリスク戦法が勝利の肝だった。
すっかりにも傾いていたので、その日は泊めてもらうことになった。
おいしい食事とゆったりしたお風呂でリフレッシュし、話に花を咲かせ、床に直に敷いた夜具で川の字になって三人は夢も見ない深い眠りに落ちた。
目覚めると、もうエイミーさんが朝ごはんの用意を整えていた。
皆で食卓を囲みおいしいご飯に舌鼓を打つ。
食後の一服を終えると出発の時間だ。
見送りに出たマカタさんがセラに1本の小枝を手渡した。
セラが首を傾げていると、マカタさんはいたずらっ子の様に
「これにマナを流して
と促した。
セラが言われたとおりにすると、小枝は美しさと力強さを併せ持つ弓に変化した。
驚きに声も出ないセラに
「マナを込めながら弓を
セラがマナを込めながら弓を引くと、何もなかったところに光の矢が現れた。
「マナを込めれば込めるほど、何物をも貫く強い矢がとなる。意志を込めれば込めるほど、相手を打ち倒す必中の矢となる。何時如何なる時も、お前とお前の大事なものを守る力となろう」
マカタさんを疑うわけではないが、頂いた弓の能力を確かめるため試し射ちをすることになった。
的は100m先の巨木だ。
言われた通りセラが大きく深呼吸し、精神を統一し意志とマナを込めながら空弓を引くと、はたして矢が現れた。
矢は彼女が込めたマナの量と意思力により輝きを徐々に増していく。
弓は限界なく彼女の与えるものを取り込んでいくようだった。
セラが込められる限界が訪れる。
セラは目を閉じ、脳裏に的となる巨木を想像する。
そしてそれを貫くことをイメージし、直視できないほど眩く輝く状態になった光矢を放った。
矢は瞬時にはるか先の巨木に到達すると、爆散した。
煙が晴れた後、そこには巨木の姿はなく地面にクレーターが残っているだけだった。
凄まじい威力に3人が啞然としていると、マカタさんは人懐っこい笑顔でセラに言った。
「我が娘セラよ、お前に森と精霊の加護が有らんことを」
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