AND HERE YOU ARE ー初段ー
メンバーが増えてもやることには変わりはない。
朝一にギルドに顔を出し、依頼を取るとその足で現場へ直行する。
終わると完了報告をし報酬を受け取る。
それらと並行して各々スキルの訓練に励む。
その中で見えてきたことがあった。
エイコーの”イドの怪物”はシンの”THE BOOK”と相性は抜群だった。
エイコーが使いたい魔法を”イドの怪物”で検索・インストールし、魔導書の補助が必要な場合シンが”THE BOOK”で必要な魔導書を召喚し、それを使ってエイコーが使用可能にする。
連携訓練を兼ねた能力拡張によって、エイコーは各種魔法を駆使する名前負けしない本物の賢者の風格を備えつつあった。
討伐依頼を積極的に受け討伐を繰り返していった結果、パーティー単位では”宵闇の森”の中程に生息する魔獣程度は狩れる程度の実力が付いたと、クメールのお墨付きをもらうまでになった。
それが励みになり、より一層訓練が熱を帯びるようになっていった。
クメールと組んだとトシの索敵能力の向上も目覚ましく、遠距離からの探知精度の向上により奇襲を受ける心配が減ったため、シュウは余裕を持って戦術を組み立てることができる。
近接戦闘訓練は、隠密・奇襲能力に優れたクメールが繰り出す攻撃を、ひたすらケイ・シンが凌ぐ。
訓練中は、いついかなる時でもクメールが襲撃してくるため、一時も気が抜けない。超一流の攻撃を無我夢中で凌いでいるうち、知らず知らずに反応レベルが引き上げられていった。
数の多い相手に対しては、魔法による遠距離・範囲攻撃をミーナとエイコーが分担して繰り出すことにより、それまでミーナ一辺倒だったことによるミーナの負担が劇的に緩和され、魔力切れの心配も解消された。
魔法戦が2人で可能になったことにより、使用する魔法の幅が広がり、採れる戦術が増え、その結果結果状況対応力が向上していく。
全体的に、索敵から近・遠・中どの距離の戦闘でも死角がなくなったとてもバランスの良いパーティに仕上がってきたのだった。
そんな頃、クメールから訓練の仕上げの提案があった。課題は今まで受けていなかった討伐遠征で結果を出すというもので、ギルドで見繕ったのはコボルトの被害を受けている村からの討伐依頼だった。
対象地域 コルネ村(馬車で1日半)
討伐対象 コボルトの群れ 10頭程度
期間 10日間
推奨人数 5人以上
報酬 金貨10枚
クメールの説明では、巣の探索・罠の設置・奇襲対応・夜間戦闘・負傷者の救護まで幅広くこなさなければならず、訓練の仕上げには最適ということだった。
依頼内容からミーナは店番で居残り、オブザーバーとしてクメールが同行することになった。
ギルドで借りた馬車に揺られること1日半、すっかり皆尻が痛くなったころ、目的のコルネ村に到着した。
村は周囲3㎞、総30戸人口100人ほどの寒村で、外周は丸太の柵で囲われている。
丸太も隙間だらけで、傷んでいる個所も多く手俺が行き届いているとはいいがたかった。
入口の丸太の隙間が門のようで、一行は門番の村人に誰何された。
滅多に訪れる者もおらず、よそ者は不振の目で見られるのはへき地では珍しくない、とクメールが小声で説明する。
ギルドからの依頼書を見せようやく中に入ることができ、門番役に村長の元に案内を頼んだ。
村長宅に行くまでの間、村内を観察したが、一言でいえば極貧の寒村というのがぴったりの村だった。
家屋は掘っ立て小屋に近く、度重なるコボルトの襲撃に傷んでいる家も多いが、修理されている様子はなかった。
見かけた村人は皆一様に痩せこけ、ボロを纏っている。
村に活気はなく、子供の姿も見かけない。
すぐに村長宅に着いた。
村長宅といってもほかの家と比べてやや大きいというだけで、造り自体に取り立てて違いはない。
だた。壁や屋根には補修の跡があり、壊れっぱなしにはされていないという点が村長のプライドなのだろう。
家からは2人の男が一行を出迎えた。高齢の男が村長、壮年の体格の良い男が村の世話役とのことだった。
まず村長にギルドの依頼書を見せ自己紹介をした後、状況の確認をした。
村はここひと月ぐらいの間、毎日のようにコボルトの群れに襲われていた。
最初は柵の外で木の実や薬草を採りに出たものが襲われていた。
多少のケガを負ったものの、村の中に逃げかえればそれ以上の追撃はなかった。
しかし村から反撃がないとわかると次第に大胆になり、ついには柵の弱い部分から内部に侵入し、家畜を襲ったり、村人と戦闘になり死者を出すまでにエスカレートしていったのだという。
襲撃は夜間が主だったが、村人を恐れなくなってからは、昼夜を問わず発生している。
度重なる襲撃のため、負傷者の数が積み上がり、村人の中で戦闘に出られる男手は、今や15人程度しか残っていなかった。
最も重要なる相手の全体像は。巣の場所や総頭数などはもちろんどの方向から襲撃してくるかすら確認できていなかった。
ただ、1回の襲撃が5頭程度なので、おそらく20頭程度の小規模の群れではないか、という説明だった。
相手の情報が全く把握できていないことは大きな不安材料だったが、依頼を受けたからにはやらざるを得ない。
それに情報不足は、この手の依頼ではよくあることだ。
現地の状況に合わせた臨機応変な対応を取れれば問題ない。
暗くなる前に、柵の状態をチェックした。
柵といってもかなりの年代物で、傷んでいる部分があちこちにあり、そこからコボルトに侵入されているらしい。
拠点になる空き家を借りると、それまでの情報から推測した対応策を話し合った。
まずは巣の場所と規模を突き止めることが先決だ。
その情報なくしては殲滅のプランが立てられない。
そのため、柵の補修を急ぎ相手の侵入経路を絞る。
その上で侵入してきたコボルトを叩く。
ただし殲滅するのでなく、一部逃がしてそれを追跡、巣の位置・規模を特定し、一気に殲滅する、を基本プランとした。
村長宅に取って返し、作戦を説明する。
今日外部からの応援が来たことはコボルトも把握しているであろうから、少なくとも今夜の襲撃の可能性は低い。
来るとしたら最短で明日の早朝夜明け前になるだろう。
その時間的猶予を生かし、すぐに柵の補修に取り掛かってもらった。
果たして、夜明け前、わざと残していた柵の穴からコボルトの一群が侵入してきた。待ち構えていた村人に囲まれ、2頭を残し討伐され、生き残りは穴から脱出した。
全ては予定通りだ。
柵の外に潜んでいたシュウたちは、逃げ出したコボルトの追跡に移った。
反撃や待ち伏せもなくひたすら逃走している。
ケガをしているのだろうか、スピードはそれほど速くはなかったので、シュウたちでも見失うことなく楽に追跡を続けられた。
追跡を始めてから30分以上が経過し、かなりの距離を移動したはずだが、それでもまだ巣に到着する気配はなかった。
「なんか妙だね」
先行していたクメールが止まれの合図を出した。
彼女の目線の先には、立木を背にして休むコボルトたちの姿があった。
反撃され慌てて逃げ出したにしてはやけに落ち着いている。
「ずいぶん余裕だな」
とシュウ。
「もしかしたら時間稼ぎ?」
エイコーが疑問点を口に資する。
「襲われた親鳥が雛を逃がす例のアレ的なヤツか?」
シンがうまい例えを言う。
「「「「「ソレだ!」」」」」
「じゃあ、村がやばい.俺たちを引き離して、そのすきに村を襲つもりだ」
シュウの最悪予想にクメールが動いた。
「エイコー、広域殲滅魔法」
「爆炎」
オーバーキルだが、逃がして挟撃されるよりいい。
「からの水瀑」
でかい水魔法で山火事が消えることを期待しよう。
「最速で撤収」
村までのルートはクメールが覚えている。
こんな時獣身族は頼りになる。
逸る気持ちを抑えてひたすら森を走った。
「ヤツらもう来てる」
クメールの言葉の後、暫くして焦げ臭い匂いがかすかに漂ってきた。森の切れ間から黒い煙が見え、近づくにつれ叫び声や悲鳴が聞こえてくる。
「どうする?このまま突っ込むか?」とシュウ。
「多分中は乱戦。ケイは治療できるからケガ人の救護に。あたいたちは各個撃破で」村の入り口が見えてきた。
クメールは全員の顔を見る。うんみんなビビっていない。
「かかれ!」檄を飛ばし、突入した。
クメールを先頭に空いた入口から村中に突入した。
辺りは煙と人の悲鳴や怒号、コボルトの吠え声でヒドイ有様だった。
村人がそこかしこで倒れている。
その光景に後ろ髪を引かれながら、ケイはあらかじめ避難所に取り決められている、村長宅の隣にある村の集会所に急いだ。
集会所では老人や女性、子供が一塊になって震えていた。ケガ人もいる。避難者の中に村長を見つけると、ケイは、ケガ人はここで自分が治療すること、黒魔団が戻ったのでコボルトはやがて一掃されるだろうこと、状況が落ち着いたら速やかに、ケガ人を集会所に集めることを指示した。
村長が指示内容を理解したことを確認し、ケガ人の治療に取り掛かかる。
手持ちのポーションや薬草類で治療に取り掛かったが、想定より重傷者が多すぎた。高位のポーションはスタンピード騒ぎで使い切ってしまい、補充できていない。
それでも何とか遣り繰りして、懸命にケガ人の治療を続けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます