第10話

久しぶりに来たワッショーは一面雪景色で、前来た時とは全く印象が違っていた。

これはこれで風情があるのだけど、あいにく僕はそれに浸っている時間は持ち合わせていない。


僕はホテルの一室に問答無用で侵入した。

そこで荷造りしているスミレ以外で唯一知っている精霊術師のエルフ、トトンアールに後ろから声をかける。


「おい。

精霊王とやらは何処だ?」


トトンアールはビクッとしてからこっちをゆっくりと振り向いた。


「貴殿が来る事はわかっていました。

だけど、こんなに早く来るとは思いもしませんでしたよ」

「僕が来る事がわかっていて慌てて荷造りしてるって事は逃げるつもりだったな」

「ええ。

貴殿の要件はわかっていましたから。

私ではなんの力にもなれない」

「それは精霊達のルールだから?」

「そうです。

それを破れば私は精霊術師としての資格も失いかねません。

それは私としても困ります」

「つまり精霊王の居場所については教えられないって事?」

「そう言う事です。

こちらの事情もわかって頂きたい」


トトンアールはもう訳無さそうに一礼する。

それから僕の顔色を伺っていた。

僕がそう簡単に引くとは思っていないのだろう。

まさにその通りだ。


「その答えも一つの収穫だ」

「と言いますと?」


僕は一瞬で後ろに回り込んで右腕で首を絞めた。

トトンアールが反射的に僕の腕を掴んで剥がそうとするけど、そんな程度じゃ何の抵抗にもならない。


「つまり居場所は分かるって事だよね?」

「貴殿に私は殺せない。

殺せば辿り着く事が出来ない。

だからこんな事しても無駄ですよ」


トトンアールは冷静に言い放つ。

確かに彼女の言う通りだ。


「そんな事は百も承知だ。

だが拷問するのだからはなから殺すつもりは無いよ」

「それを聞いたら尚更話す気なんて無いですよ。

私は『精霊術師生産計画』の被害者です。

貴殿ならその意味がお分かりでしょ?

苦痛なら慣れっこです」

「何も拷問は苦痛だけじゃないよ」


僕は左手で胸ぐらを掴んで思いっきり服を引きちぎった。

色白い先に綺麗なピンク色が付いた二つのお山が柔らかそうに揺れながら顕になる。


トトンアールは目を見開いて驚き、反射的に両手で隠した。


「快楽で堕としてあげるよ。

むしろ僕はそっちの方が得意なんだ。

だって楽しいし」

「人としての品位は無いのですか?」


顔を真っ赤にして涙目で睨んで来る。

冷静を装ってはいるけど、はっきりとはこっちの目と合わせては来ない。

なんだかんだで怖いのだろう。

まあ、僕は楽しむけどね。


「無いよそんなの」


僕はトトンアールの耳元で霊力を込めて囁く。


『隠さずにその腕で下から押し上げてよ』

「!?」


山の先を隠していた腕が下にスライドしてから二つの山を持ち上げる事によって柔らかさが強調された。

トトンアールはもうこれ以上無いぐらい屈辱と恥辱が入り混じった表情をしている。


「『精霊術師生産計画』の全容は僕も把握してるからね。

君が苦痛に強い事はわかってるよ。

でもこう言うのは慣れて無いよね?」


『精霊術師生産計画』では殺す事と犯す事は禁止されていた。

それら忌み子として産まれた者と交わる事が汚らわしいと言う考えと、新たな忌み子を作らないと言う考えからだと推測される。

つまりトトンアールも同じなはずだ。

実際の反応を見ても間違い無いだろう。


「本当はじっくり楽しんでから口を割らせたい所だけど、時間が惜しいから初めから激しく犯すからね。

壊れる前に話す事をお勧めするよ」


僕がトトンアールの強調された二つの山を両手で鷲掴みにするとピクッと反応した。


なんだいい反応するじゃないか。

ならこのまま――


突然僕の首の後ろに強烈な電気が走った。

全身の力が急に抜けて膝から崩れ落ちる。


おかしい。

首から下に力が入らない。


その隙に僕から離れたトトンアールが僕を睨んだ。


「ありがとうトト。

助かりました」


そうか。

精霊の仕業か。

存在を感じられないから防ぎようが無かった。


「脳からの信号を一時的に電気で遮断されて貰いました。

しばらくは動けないですが命に別状はありません。

その内治ります」


そう言ってトトンアールは上着で前を隠して最低限の荷物だけ纏めて僕の横を通り過ぎる。


逃がさない。

そんな簡単に逃げられると思うなよ。


僕は真っ黒の大鎌をトトンアールの首の前に突きつけて動きを止める。


「そんな馬鹿な。

どうして?」


確かに首から下は全く言う事を聞かない。

だけど逆に言えば首より上は使える。

ならば全く動かない自分の体を超能力で外部から動かしてやればいい。

もちろんそれを教えるつもりは無いけどね。


「殺した後で情報を聞き出す方法が無いわけでは無いよ。

ただ面倒なんだ。

だから素直に教えてた方が身の為だよ」


再び首の後ろに電流が走る。

だけど同じ手が通じるほど僕は甘く無い。


電気の流れからトトとか言う精霊のおよその位置を割り出す。

そこに邪神力を込めた布を生成して超能力で飛ばした。

見えてはいないが何かを包み込んで布は地面に落ちる。

それと同時に電流が無くなったから見事捕獲成功って感じだな。


「こいつを踏んづけたらどうなるかな?」

「お待ちください!」

「その慌て様からみるに、やっぱりトトとか言う精霊が中にいるみたいだね。

君は苦痛に慣れていてもこっちはどうかな?」

「私は精霊術師としてやらないといけない事があるのです。

だからルールを破るわけには――」

「それはこの精霊が居なくても出来る事なの?」


僕はリボルバーを生成して銃口を布に向ける。

トトンアールとの間に沈黙が流れる。

リボルバーから火が吹いて布のすぐ横に着弾した。


「次は当てるよ」

「わかりました。

精霊王の居る島までご案内しますのでトトを解放してください」

「僕の目的が果たされるまではダメ」

「トトが居ないと案内出来ません」

「そこはなんとかしなよ。

前にも言ったよね?

僕は絶対に妥協しない」

「……わかりました」


僕はトトを捕まえた布を超能力で持ち上げてトトンアールを脇に抱えてワッショーの地を後にした。

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