第8話

ヒカゲと別れたスミレは真っ直ぐ島へと戻って来ていた。

島に降り立ったスミレは精霊達に囲まれながら島の中心部へと歩いて行く。

中心部には一際大きな木が佇んでいる。

その前でスミレは足を止めた。


「もう報告は来てるのでしょ?

これでわかったかしら?

いくら貴方の力を借りたとしても私では彼には勝てない」


大木に向かって言ったスミレの脳内に返事が返ってくる。


“だからこそあの男は危険なのだ。

故に排除しなくてはならない”


「私には無理よ」


“力づくでは無理かも知れぬ。

だがお前の言葉なら彼は耳を傾けるはずだ”


「私にこの世界から出て行けと彼に言えと言うの?」


“それがこの世の秩序の為だ”


スミレは唇を噛み締めた。

彼女はわかっていた。

きっとヒカゲにお願いしたら彼はすぐにでも元の世界に帰る事を。

そして精霊王がそれを狙っている事もわかっていた。


だからこそ言いたく無かった。

ヒカゲを失うぐらいなら彼に敵になって嫌われてしまいたかった。

あわよくば敵として犯される事を本気で望んでいた。

そうすれば踏ん切りがつくと思っていた。


「ねえ、一度ノノに会わせて」


“それは出来ない”


「どうして?

いいでしょ?

お願い、彼女の顔が見たいの。

会わせてくれたなら彼の説得するわ」


“……わかった。

少しだけ時間をやろう”


大木から柔らかい光が出てスミレの体を包み込んだ。



◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆



僕はギャラン帝国へと飛んだ。

そして一際大きな屋敷の扉を勢いよく開けた。


「おい!

なんだガキ!」

「ここが何処だかわかってんのか!」


中にいた若い男達が怒号と共に立ち上がるって僕を睨みつける。


「ここが何処だかわかって来てるに決まってるじゃないか。

こっちは時間が無いからお前らみたいな下っ端を相手する気は無いし、説明する気も無いから大人しく僕の問いにだけ答えてね。

クラークはこの奥だよね?」

「お前みたいなガキが生きがってるんじゃねぇぞ!

死にたく無かったら――」


僕は殺気を放って男どもを黙らせる。


「お前達こそ死にたいの?

僕は言ったはずだよ。

こっちは急いでるんだ。

少しでも邪魔をするなら容赦無くこの世から消す」


僕は奥の扉に向かって歩き出す。

男達は武器に手を伸ばした。


僕は忠告したよ。

だからいいよね?


あと一歩踏み出したら消そうとした時。


「武器を降ろせ!」


奥の扉から血相を変えて現れた男が若い男達を静止させた。

相当慌ててたのか肩で息をしている。


「この方はボスの客人だ下がれ!

何かあればお前達の首だけはすまないぞ!」


若い男達は素直に持ち場に戻る。

後から来た男が道を開けて扉の中へと入れてくれた。


「ボスは奥でお待ちです」

「ギリギリだったね」

「教育が行き届いて無くて申し訳ありません」

「いいよ。

お前達が何人死のうと僕には関係無い」

「可能ならば事前に連絡をいただけると助かります」

「もしも時間がある時だったらね」

「恐縮です」


男を置いて奥へ向かう。

また扉があったからノックもせずに中に入った。


「これはヒカゲ殿。

お久しぶりだな。

まあそこに座ってくれ」


大層な椅子に座りながら葉巻を吹かすクラークが僕にソファーを勧める。

だかど座ってる時間も勿体無い。


「挨拶は割愛するよ。

僕は時間が無いんだ」

「切羽詰まってるようだな。

私になんのご用かな?」

「ノノと言う精霊を探している」

「なるほど。

それで私の所に来たのだな」


僕は昨日スミレと別れてから考えていた。

彼女が何かの事件に巻き込まれて居るのは間違い無い。

だけどソラの様子から単独で動いていた。

もしナイトメア・ルミナスのことなら他のみんなにも少なからず相談してるはずだ。


となるとスミレ個人の事に関する事の可能性が高い。

そしてその予想が正しいのなら、精霊に関する事の可能性が非常に高い。

そしてスミレと精霊の接点に関してはノノと言う名前しか手掛かりが無い。


だけど今の僕に精霊とアクセスする方法は無い。

そこでクラークを訪ねて来た。

彼は精霊術師では無いが精霊とお話しが出来ると言っていた。

この細い経路を辿るしかない。


「ヒカゲ殿。

ノノと言う精霊は今拘束されているらしい」


少し間を置いてクラークが答えた。


ビンゴだ。

きっとそこにスミレが関係しているに違いない。


「どうして?」

「精霊達のルールを破ったらしい」

「それで捕まってるって事?」

「そうだ」

「何をしたの?」

「それについては教えては貰えない」


精霊達にもルールと秩序があると言っていた。

これは言えない事なんだろう。

それを無理矢理聞き出してる時間は無い。

とにかく今はスミレの居場所だ。


「何処にいる?」

「精霊王の所だそうだ」

「その精霊王は何処に?」

「それは教えられないらしい。

その場所に行く事は精霊と精霊術師しか許されていないとの事だ」


許す許さないなんてどうでもいい。

だけど場所がわからない以上どうしようもない。

精霊が見えない以上脅す事も出来ない。

どうすればいい?

思考を巡らすんだ。

なんとしてもその場所を見つけだす方法を……

そうだ。


「トトと言う精霊は何処にいる?」

「今はワッショーにいるらしい」

「トトンアールと言う精霊術師も一緒だな」

「ああ。

そう言っている」

「わかった」

「ヒカゲ殿」


僕がUターンして部屋を出ようとしたらクラークに引き止められる。


「なに?」

「この時期のギャラン帝国の雪で移動が困難だ。

すぐに移動手段を手配しよう」

「いらない。

僕はここまでなんの苦労も無く来てる。

この国の移動も大した事は無い」

「そうか。

そこまで言うのなら深入りはやめよう」

「それが懸命だよ」


クラークはあっさりを引いた。

裏社会で生きる彼は引き際がわかっている。

現にあまりしつこいと僕は何をしていたかわからない。

僕は自分で思っている以上に余裕が無かった。

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