第4話

僕は超ダッシュで秘密基地の僕の部屋へと移動した。

ここでさっさとソラに血を吸わせて終わりにしよう。


部屋に着くなり影からソラが飛び出して来て、僕をベットに押し倒して馬乗りになる。


ナース服は乱れてはだけているから色々見えそうだ。

てか、さっきよりナース服小さくなって無い?


「主〜

お注射の時間ですよ〜」

「そのプレイやるの?」

「主が好きって言ってたから」

「確かに好きだけどね」

「じゃあお注射しますね〜」

「ちょっと待った」

「ぶー、早く欲しいのに〜」

「血を吸うだけだよ」

「早く〜」

「わかってる?」

「わかってるから早く〜」


もう目が据わってる。

本当にわかってるのか?


「本当に血を吸うだけならいいよ」

「はーい。

かぷっ」


ソラが首筋に齧り付いて血を吸い始めた。

あれ?

なんだろう?

なんだか凄く気持ちいい。

それにソラから凄く良い匂いがする。

なんだかボーっとして――


急に僕の意識が覚醒した。

この感覚は僕の体の中に入って来た異物を検出して自動的に排除した感覚だ。

もしかしてソラに毒を盛られた?


しばらく血を吸ったソラは首筋から離れる。

またいつものが始まる予感。


「主やろ」


ほらみろ。

言わんこっちゃ無い。


「血を吸うだけの約束だよね?」

「あれ?」


ソラは不思議そうに首を傾げる。


「主やりたく無い?」

「やらない」


やりたく無い訳じゃない。

でも不思議といつも程はやりたいと思わない。

なんかさっき急に吹っ切れた感じがした。


「おかしいな?」

「何がおかしいの?」

「主。

私、成人した」

「そうなの?

おめでとう」

「子作り出来る」

「ブッ」


なんて事言い出すんだ。

思わず咳き込んでしまったじゃないか。


「主の子供作る」

「作らなくてよろしい」

「やっぱりおかしい?」

「だから何がおかしいの?」

「私成人したから吸血の時に異性を魅了するフェロモン出てる。

だから主は私にメロメロになって子作りしたいはず」

「あ〜、なるほどね。

そのフェロモンを毒と判断した僕の体が勝手に打ち消したんだ」

「ぶー、そんなの酷い!」

「いやいや、そんなフェロモンで魅了する方が酷くない?」

「そんな事無いよ。

だって生理現象だから私にも止められない」

「そうなの?」

「そうだよ。

そうやってヴァンパイアは血を吸う相手と子孫を残す相手を確保するってママが言ってた」

「そうなんだ。

なら仕方ないか」

「そう。

だから子作りしよ」

「でも残念ながらそのフェロモンは僕には効いて無いよ」

「ぶー。

今日こそ主とやれると思ったのに〜」


ソラが口を尖らせて拗ねる。


おや?

そう言えば、今日のソラもいつもよりも性欲が表に出てない気がする。


「成人して変わったのはそれだけ?」

「血を飲める量が増えた」

「今までだって沢山飲んでたじゃん」

「もっと飲める。

だからちょうだい」

「吸うだけならね」

「やったー!

じゃあお注射しまーす」

「まだ続くんだ、そのプレイ」

「カプッ」


ソラが再び首筋に齧り付いて血を吸いはじめる。

どうやら成人して性欲も抑えられるようになったみたいだし、血ぐらい吸わせてあげよう。

めちゃくちゃ飲んでるけど……

……

ああ、フェロモン浴びせられてる感じがするや。

体内で打ち消してる感じもする。


でも僕は気付いた。

フェロモン関係無くソラにこんなに密着されたらムラムラする事には変わりないじゃないか。


それにしてもめっちゃ吸うじゃん。

普通の人だったら余裕で死んでるよ。

そんなにお腹空いてたの?

よく考えたらソラに吸われるのいつぶりだろう?


「ソラって僕以外の血を飲んでるの?」

「吸うよ。

たまには。

もしかしてヤキモチ?」


ソラは体を起こして答えた。


「なんとなく思っただけ」

「でも仕事の時だけ。

プライベートは主の血だけ。

だって主の血が一番美味しいから」

「みんな仕事熱心だね」

「そう?

最近私仕事してない」

「そのなの?」

「うん。

だってスミレが何も言って来ない」

「スミレが言って来ないと仕事しないの?」

「私はそう。

ダラダラしてる」


いいな〜

僕もダラダラゴロゴロして暮らしたい。


「そう言えば最近スミレ見てない」

「スミレを?」

「うん。

秘密基地でも見てない気がする」

「ふ〜ん」


ソラが再び首筋に齧り付いて血を吸い始めた。


そう言えば僕も最近スミレに会って無い気がする。

元の世界から戻って来たっきり見てない。

アールニマで女遊びした時も来なかったしな。


でもまあ今は遠くにいるみたいだけど、元気にやってるみたいだからいっか。



◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆



スミレは島の端で佇んで海の向こうを見ていた。

その視線のずっーと先にはボロン王国がある。


「私は彼の居ない世界なんて耐えられない」


誰に聞かす訳でも無く独り言を呟く。

普通の人には見えない精霊達だけがその言葉を聞いた。


「でもノノは私の初めての友達なの。

だから見捨てるなんて出来ない」


幼き頃に迫害されていたスミレの支えとなっていたのが他でも無いノノだった。

そのノノが今囚われの身となっている。

それも自分の所為で。

その事がスミレの心を締め付けていた。


「お願い。

もう一度伝えて。

罪は私が償うからノノを解放してって」


周りにいた精霊達が動き出す。

しばらくして頭に声が響く。


“言ったはずだ、あれはノノの罪だ”


「どうして?

ノノはただ私に彼の事を教えてくれただけよ」


“それも言った。

その事自体が罪なのだ。

あの男は大いなる厄災を呑み込んでこの世から消えた。

それによりあの男の役目は終わっている。

それなのに呼び戻した。

あの男の存在は世界の理を捻じ曲げる”


「全ての罪は私が償うから。

だから――」


“お前には選択の猶予を与えた。

これ以上の譲歩は無い。

お前が何もしないのならそれでもいい。

我々はノノを処刑しあの男を消去する”


「そんなの……」


“我々も同種であるノノを処刑したくは無い。

でもそれが理。

ノノを救えるのはお前のみ。

どうか見捨てないでやって欲しい。

お前が1人だった時に唯一味方になった者の事を忘れないでやって欲しい”


スミレは溢れ落ちそうな涙を目を瞑って必死に堪える。

彼女はまだ選択出来ずにいた。

しばらくして唇を噛み締めながら目を開いた。

その瞳には硬い決意が灯っていた。

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