第12話

洞窟から出た頃には夕方となっていた。

ガオとの決闘に予想以上に苦戦を強いられて早々と逃げ出したから、てっきり不完全燃焼で不満が出てるかもとか思っていたけど、全くそんな事は無かった。

そんな些細な事よりもお祭り騒ぎに忙しいってな感じだ。

その勢いは衰えるどころか時間が進む毎に騒がしくなっている。


「よお、ブラザー。

楽しんでるか?」


僕より少し遅れて洞窟から出て来たガオの後ろには少し暗い顔のクリファが居た。


「やあガオ。

どうなったの?」

「それがよ。

逃げられちまったぜ」

「逃げ出したって事はガオの勝ちだね」

「そうか!

確かにな!

俺様の勝ちだな!」

「兄様ー!」


嬉しそうに笑い声をあげるガオの元にレグロスが走って来て抱きついた。


「兄様。

おかえりなさい」

「おうよ。

ただいまだ」

「兄様は勝ちましたか?」

「ああ!

もちろんだ!」

「流石兄様です」


レグロスが憧れの眼差しでガオを見上げた。

ガオは照れ臭そうに頭に手置いていた。


凄く和む光景だ。

これこそが正義が勝つからこその光景なんだろう。


「クリファお姉ちゃん?

どうしたの?

どこか痛いの?」


サイスの方は心配そうにクリファを見上げる。


「え?

ううん。

どこも痛くないわよ」


クリファは心配かけまいと首を横に振ってぎこちない笑顔を見せる

これが悪党によって奪われた者の表情なのかもしれないね。


しかしあの龍神ってのは一体何なんだ?

そしてあの扉。

三回目となると間違い無い。

あの扉は僕が触ると倒れるんだ。

その理由も全くわからないよ。


「さあ!

まだまだ今日は長い!

思う存分祭りを楽しもうじゃないか!」


ガオの掛け声で僕達はまだまだ衰える気配の無い屋台立ち並ぶ祭りへと繰り出した。


先頭をガオとクリファが歩く。

元気の無かったクリファもガオの完璧なエスコートと祭りの雰囲気に乗せられて楽しそうな笑顔を見せていた。


いい女の笑顔だ。

あんな事の後なのに笑顔を引き出せるガオはいい男に違い無い。


その少し後ろをレグロスとサイスが仲良くおしゃべりをしながら歩いていた。

僕はその子守り役ってポジションに収まっている。


「ねぇレグロス君。

あの2人ってお似合いだと思わない?」

「サイス君もそう思う?

僕もそう思ってるんだ」


なんてマセた会話なんだろう。


「兄様はきっとクリファさんの事好きなんだよ」

「クリファお姉ちゃんもガオーン陛下の事は嫌いじゃないと思うよ。

毎年ここに来るの楽しみにしてるし」

「そうなんだ。

なら兄様の言ったみたいにこっちに引越して来たらいいのに」

「僕もそうしたいな。

そしたら毎日一緒に遊べるね」

「そうだね。

毎日一緒に遊べたらきっと楽しいね」


いつの間にか子供っぽい会話に変わってる。

この無邪気さが推せる。


「それにね。

クリファお姉ちゃんはこっちに来た方がいいと思うんだ」

「どうして?」

「お仕事大変みたい。

いっつも帰って来たら辛そうなんだ」

「クリファお姉ちゃんってどんなお仕事してるの?」

「わかんない。

教えてくれないんだ」

「サイス君。

待ってるだけだとダメだよ。

自分で知ろうとしないと気づいた時には手遅れになっちゃうよ」

「そうなの?」

「そうだよ。

僕達は子供だから出来る事は限られてるけど、僕達が大人になるまで待ってはくれないよ」

「なら僕はどうしたらいいのかな?」

「まずは知る事だよ。

わからないで終わらしたらダメ」

「わかった。

僕、頑張ってみる」

「それがいいよ。

応援してるね」


そう言ったレグロスはポケットから牙の形をした石の付いたネックレスをサイスに差し出した。


「なにこれ?」

「お守り。

僕からのプレゼント」

「ありがとう」

「どういたしまして」


少年達のほのぼのする会話を聞いてるうちに僕達とガオとクリファとの距離が少し空いた。

代わりに2人の距離は縮んでさっきよりも楽しそうだ。

今は声をかけるのは野暮ってものだ。


「あっ!グラさんだ!」


屋台の一つで肉を焼いてるグラさんにレグロスが手を振るとグラさんも振り返していた。


「ヒカゲお兄さん。

一緒にお肉食べよう」


そう言ってレグロスは僕の手を引っ張る。

サイスも一緒に引っ張って来る。

お肉が食べたいて言うよりも、ガオ達を2人っきりにしたいみたいだ。

仕方ない、乗ってあげよう。


「グラさん。

飛び切り美味しいの3つください」

「わかりやした」


グラはそう言って串に刺した肉を焼き始めた。

この串折れないかと心配するぐらい大きなお肉だ。


「ヒカゲさんもご無沙汰しておりやす。

先日も店にお越しいただきありがとうございやす」

「前と変わらぬ美味しさだったよ」

「ありがとうございやす。

今は団長と一緒で無いでやすね」

「まあね。

いろいろあってね」

「そうでやしたか。

はい、出来やした」


グラが焼けた肉を出してくれた。

やっぱりこの肉とスパイスの組み合わせは最強だ。


「人生いろいろあるものでやすからね。

あっしもいろいろあって今は肉を焼いてやすからね」

「そうだね。

僕もいろいろあって今は美味しいお肉を食べてる」


確かに人生はいろいろあるよね。

なんたって僕は人生二回目だからね。

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