第11話

天井の穴から急降下して来たクリファのダブルセイバーを刀で受け止める。

勢いもあってか重たい一撃だ。

そしてその瞳にはさっき以上の憎悪が映しらされている。


「お前はまた龍神様を殺す気か!」

「もちろんだ。

俺に牙を向けたのなら消すのみだ」

「させない!

今度こそさせるわけにはいかない!」

「なら俺を楽しませる事だな」


僕は体を回転させてクリファを受け流すと同時に、流れるように背中に踵落としを入れて真下に落とす。


ガオが下に回り込んで受け止めたから地面への激突は免れたようだ。


岩が崩れる音を立てながらドラゴンがめり込んでいた壁から出て来る。

さっきよりも翼の炎が燃え上がってる気かする。


もしかして怒ってるのかな?

人の事殺そうとしていたのに蹴られたぐらいで怒るとか自分勝手な奴だな。

よし、もう一回蹴ってやろう。


ドラゴンがもう一度羽ばたこうと翼を振りかぶった時には、僕はドラゴンの脳天を踏みつけて地面にめり込む程叩きつける。

そのまま首を掻っ切ろうと刀を生成するが、高速で飛んで来たクリファのダブルセイバーを受け止める事に使う事になった。


「させない!」

「お前もしつこいな。

もしかして俺のファンなのか?」

「誰がお前なんかの!

私はお前を殺しに来たんだ!」

「お前のようないい女に追われるなんて、悪党日和に尽きるな」

「減らず口を!」


クリファのダブルセイバーと僕の刀が均衡を保っていると、足元のドラゴンが頭を大きく上げた。

僕達はバランスを崩して跳ね飛ばされる。


僕と反対側に飛ばされたクリファはしなやかに回転しながら静かに着地した。

そしてドラゴンとの目が合う。

するとドラゴンは大口を開けてクリファの方に突っ込んで行った。


クリファは一瞬恐怖の表情を浮かべたが、何かを悟ったかのように目を瞑る。


「バカ野郎!

なにしてやがる!」


クリファがドラゴンに食べられる寸前にガオが飛び込んで回避した事によってドラゴンの口は空を食った。


「おいクリファ!

ボーッとしてるんじゃないぞ!

食われちまう所だったぞ!」

「ガオーン陛下。

私は龍神様の巫女です。

龍神様が私を食すと言うのならそれも定めなのです」

「そんなバカな話があるか!

お前が死んじまったら1人残されたサイスはどうなるって言うんだ!」

「龍神様がおられたら竜人族は救われます」

「その為になんでクリファが食われないとならないんだ?」

「きっと龍神様にはお考えがあります」

「そんな訳あるか!」


ガオは反転して再びクリファに狙いを定めたドラゴンを睨みつけて威嚇する。

その気迫にドラゴンが突撃するのを一旦辞めてガオを睨み返している。


「おいクリファ!

よくあいつの目を見ろ!

あれはどう見たって本能のまま獲物に狙いを定める獣と同じ目だ!

そんな奴に考えなんかある訳がねぇ!」

「ガオーン陛下!

いくら殿下でも龍神様をただの獣呼ばわりする事は看過できません!」

「クリファ!

今起こっている事から目を背けるな!

自分の目で見て自分の頭で考えろ!

本当にあいつがお前達竜人族を救ってくれる龍神様なのか?」

「そうです。

龍神様がいないと竜人族は滅んでしまうのです」

「なんでだ?

なんでそうなる?

あいつがいると何が変わる?」

「それは聞いていません。

でも龍神様が居ないと滅んでしまうのです。

そう元老院の方々が仰っています」

「ああ、もういい!」


ガオが低い唸り声を出して魔力を増幅させていく。

そしてドラゴンを迎え討つ為に低い体制で構えた。


「俺様はクリファが食われないと竜人族が滅びるなんて信じねぇ!

龍神様とやらがそんな馬鹿げた事を言うなら俺様がこいつを――」


おっと言わせないよ。


僕は横からガオに飛び蹴りをして言葉を遮る。

そのまま壁に叩きつけた。


「どけ!

ナイトメア!

今はお前を相手してる場合じゃねぇんだ!」


ダメだよガオ。

初恋の相手なんでしょ?

君があいつを殺しちゃったらクリファに恨まれちゃうよ。


「お前が俺を呼んだのに酷いではないか」

「相手なら後でいくらでもしてやる!

だから今は邪魔をしないでくれ!」


ガオが離れた事によりドラゴンはクリファ目掛けて滑空していく。


「クリファ!

逃げろ!」


ガオの叫びは虚しく響くだけでクリファは動こうとしない。

僕は空いてる足でガオの横顔を蹴飛ばしてからドラゴンの顔の横まで移動してから殴り飛ばす。

それからクリファの顎をクイッと持ち上げる。


「なあ。

どうせ死ぬ気なら、その前に犯させろよ」

「誰がお前なんかに!」


クリファが振るうダブルセイバーを後ろに飛んで躱わす。


「いいではないか。

お前のようないい女を知性のカケラも無いデカイだけトカゲに食わせるなんて勿体ない。

俺なら最高の快楽に溺れさせてやれるぞ」

「黙れ!」


僕はクリファが投げたダブルセイバーをキックで弾いてから、空中で体制を立て直したばかりのドラゴンにリボルバーを向ける。


「ならば邪魔者は消すとしよう」

「やめろ!!」


飛びかかって来たクリファは僕の残像をすり抜けた。

ドラゴンの真上に移動した僕は再び銃口を向ける。


「グッド・ナイト・メア」


リボルバーから発射された魔力がドラゴンの脳天から真っ直ぐ真下へと貫通した。

絶命したドラゴンは地面に落ちる。

僕はその死体を踏みつけてた。


「ナイトメア!!

よくも!

よくも龍神様を!」


帰って来たダブルセイバーを掴んだクリファが突っ込んで来る。

だけどドラゴンの死体を魔力で蒸発させる時に出る濃い紫色の炎が行く手を阻む。


「なんで!

なんでお前は龍神様を殺すんだ!」

「殺しに来たのはあいつからだ。

ならば迎え討つのみ。

逆に問おう。

何故俺がこいつを殺してはいけない?

やらねばこちらがやられる。

お前が巫女として死ぬと言う愚かな選択を何故俺にも強要する?

その答えをお前は持っているのか?

巫女としてでは無くお前自身としての答えを持っているのか?

他人に死を選ばせるだけの御立派な答えを」


ドラゴンの死体は僕の魔力によって蒸発した。

それと一緒に僕も蒸発したかのように消えた。

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