第10話

空というのは何も障害物が無い。

あっても鳥さんとぶつかりそうになるぐらいだ。

今まで空を飛んで逃げてる時に追いかけられる経験があんまり無かったから気づかなかったけど、障害物が無い所を逃げ切るのは難しいね。


強いて言うなら前世で最新鋭の戦闘機に追いかけられた事はあったけどね。

でもあれは所詮機械だ。

それに死角が多いし小回りが効かない。


でもクリファは違う。

こんなだだっ広い空で僕を見逃すとは思えない。

こうなったら森の間を抜けていこう。


僕は高度を下げて森の木々の間を縫うように飛ぶ。

狙い通りクリファは翼が邪魔になって思うように追いかけて来れない。


これで逃げ切れる。

と思ったのに。


「俺様ともまだ遊んでくれや!」


ガオの飛び蹴りが飛んで来た。

なんなく避けたけど、ガオの飛び蹴りは大木を砕いて倒した。


あんなの受けたら僕でもタダじゃ済まないよ。

それに困ったな〜

空に逃げたらクリファが追ってくるし、地上に近づくとガオに追われる。


なかなか相性のいい2人じゃないか。

とか感心してる場合じゃないや。


木の反動を利用して突っ込んで来たガオの腕を掴んで投げ飛ばす。

追いついて来たクリファのダブルセイバーを回し蹴りで逸らしてから胴体を両足で蟹挟み。

そのまま体を捻って回転すると同時に縦方向にも回転を入れて地面に向かって投げ落とす。


今の内に空に逃げる。

だけど跳躍して来たガオが僕の足を掴んだ。

その手を起点にガオが僕の腹めがけた蹴りがめり込む。


「やっとまともな一撃を入れられたぜ」

「今のは多少効いたぞ」


僕は逆さ向きで地面を向かって急降下。

地面に逆立ちすると流れるようにガオを地面に叩きつけるとガオはようやく手を放した。


そこに飛んで来るクリファ。

真上に飛んで逃げるもすぐに追いかけて来る。


リボルバーを撃つもダブルセイバーをグルグル回して弾いてからそのまま投げて来た。


なんて便利な武器なんだろう。

使いこなすとこんなに多岐にわたって使えるんだ。


リボルバーを刀に持ち替えてダブルセイバーを弾き飛ばす。

そのまま突撃して来たクリファに刀を振り下ろすも左手にキャッチされ、右手が僕の首を掴んで思いっきり握られる。


凄い握力だ。

並大抵の人間の首ならポッキリと折れちゃうね。


「このまま絞め殺す」


殺意のこもった瞳と低い声。

これは相当恨まれてるな。

まあ人に恨まれるのは悪党のさがだ。

恨まれるのが怖くて悪党なんて出来ないね。

むしろ恨まれてこそ一流の悪党だとも言える。


「その熱い眼差し。

そんなに俺が憎いか?」

「当たり前だ!

龍神様を殺したお前を絶対に許さない!」

「ならばしっかり掴んでおけよ」


僕は一気に急降下してから滑空する。

クリファは更に手に力を入れて来た。

そのまま大木にクリファだけ大木にぶつかるように調整しながら滑空していく。

大木にぶつかる直前にクリファは手を放して回避した。


離れたクリファをリボルバーで狙い撃つ。

だけどその弾はどこからともなく飛んで来たダブルセイバーが阻む。


なんて主人想いのいい奴なんだ。

守った後はしっかりとクリファの手元に戻って行ってるし。


「もらった!」


木々の間からガオが飛び出して来て僕を捕まえた。

その勢いのまま地面に落ちる。

落ちた所が丁度急な斜面だったから大変。

お互いに上下交代しながらひたすら下へ下へと転がって行く。


「今度こそ逃がさないぜ!」


言葉通りガオが放さないから自然の摂理に則って転がるしか無い。


「ガハハハ!

なんかこれは楽しいな!」


ガオが子供の様に無邪気に笑い出した。

確かにこれはちょっと楽しい。

おや?

転がって行っている先に見覚えのある見た目の洞窟が見えたような……

ダメだ。

グルグル回ってるから良く見えないや。


そのまま止まる事無く洞窟の中に入った。

そして1番奥の壁にぶつかる直前に地面が崩れて縦穴が口を開ける。

その拍子に僕とガオが離れた。


まずい。

ガオは空を飛べない。


僕はガオを捕まえようと周囲を見渡す。

だけどガオは僕の心配を他所に崩れて落下する岩を次々と蹴ってゆっくりと下に降りて行っていた。


なんて身体能力だ。

なによりこの突発的な状況に冷静だ。

なんか楽しそうだし。


難なく地面に降り立ったガオに続いて僕も地面に降りる。


「いや〜

ビックリしたぜ。

スリル満天だったな」


相当楽しかったのだろう。

ガオはニコニコしながら周囲を見渡した。


「それで、ここは何処だ?」

「さあな。

とにかくかなり下に落ちたのは確かだ」

「アールニマの地下にこんな所があったなんて知らなかったぜ」


僕は多分三回目だけどね。

だってここってあれでしょ?

龍神様がいた所の隣の部屋でしょ。

ほらあそこにいつものデッカイ扉があるし。


しかし三回目となると新鮮味が無いよね。

もう飽きちゃったよ。

だけど初見のガオは少年の様に目を輝けせながら周りをじっくりと観察している。


「やっぱりこの扉だよな」


ガオは例のデッカイ扉を思いっきり押した。

だけどピクリともしない。

次に思いっきり引いてみる。

それでも変わらずピクリともしない。


「なんだこれ?

不良品か?」


今度は持ち上げようとするけど無駄に終わる。


「おいナイトメア。

これは困ったぞ。

出口がねぇから帰れねぇ」

「俺は飛べるから問題無い」

「あっ!そっか!

お前は飛べるから問題ないな。

と言う事は俺様がヤバいじゃねぇか」


全然ヤバそうに感じない雰囲気でガオが言いながら扉をどうにか開けようと試行錯誤している。

挙げ句の果てには壊そうと叩き始める始末。

それでも全くもって変化が無い。


う〜ん。

やっぱり開かないよね?


僕は音も無く扉の前まで移動する。

そして扉にチョンと触れた。

本当になんの力も入れずに少し触れただけなのに、案の定扉がバタンと向こう側に倒れた。


「マジかよ!

こりゃあ俺様が勝てないわけだ」

「いや、たまたま最後の一撃だっただけかも知れないな」


一応そうフォローしてから中に入る。

そうするといつも通り部屋の真ん中にある大きなクリスタルが輝き出して、真上に飛んで天井を突き破って天の彼方に消えた。


「なんだったんだ?」

「さあな」


だって本当に僕も知らないし。

ただいつも通りならあの穴からドラゴンが出て来るはずだ。


程なくして穴から火柱が上がる。

それと同時に大きな炎の翼を羽ばたかせた赤い竜が現れた。


今回は翼竜タイプだ。

龍神様ってバラエティ豊かなんだね。


「なんかヤバそうなのが出て来やがったな」


ガオの言葉に反応したかのようにドラゴンが翼を大きく羽ばたかせる。

両翼から火の粉の雨が飛んで来た。

僕は超能力で土の壁を作って防ぐ。


「こんな奴を地上に出すわけにはいなねぇ!

おい、ナイトメア。

ここは一時休戦だ。

とりあえずあいつの制圧を――」

「断る」


僕はガオを蹴飛ばした。

突然の事なのにきっちり受け止めているのは流石と言える。


「なにしやがる!」

「くだらぬ事を言おうとするからだ。

あれは俺の獲物だ。

俺は奪うの専門なんだよ。

獲物を奪われるなんてごめんだ。

お前はそこで大人しく見ていろ」

「なんにせよ、やられた分はやり返す!」


ガオが殴って来たけど飛んで躱わす。

そのままドラゴンの方に向かって行く。


ドラゴンは再び羽ばたいて火の粉の雨を降らせたけど、その間を縫ってドラゴンの顎にアッパーを入れる。

そのまま間髪入れずに腹にドロップキックを入れて壁まで蹴り飛ばした。


ガオにこいつの相手をさせるわけにはいかない。

だってこいつとやり合うと言う事は――


「ナイトメアー!!!」


クリファの恨みを買うと言う事なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る