第9話
新学期が始まって最初の休日という事もあって、ヒナタはシンシアとアイビーと一緒にショッピングの約束をしていた。
楽しみ過ぎて待ち切れずに朝早くからシンシアの部屋へと突撃していた。
「全く。
早過ぎるのよ」
シンシアは呆れながらも部屋に通してブドウジュースを出した。
それを美味しそうに飲むヒナタを見ながら苦笑いをした。
「えへへ〜
そう言いつつ入れてくれるシンシア大好き」
「はいはい」
シンシアは軽く遇らうも満更でも無く自分の分のブドウジュースを入れてから迎えに座った。
「シンシア知ってる?
新しい遊園地出来たんだよ」
「知ってるわよ。
それ何回目よ」
「今度お兄ちゃんと一緒に行くんだ〜」
「ハヌル王子とも行くんでしょ?」
「そうだよ。
でもその前にお兄ちゃんと下見に行くの」
「ハヌル王子じゃなかったら怒られてるわよ」
「なんで?」
「あんたね〜」
シンシアは呆れて訳を話そうとする前にヒナタの言葉が続いた。
「お兄ちゃんとシンシアとのデートプラン考えに行くだけだよ」
「えっ!?
はっ!?
はぁ〜!?」
突然の事にシンシアは今のわからない声が出るだけだった。
「お兄ちゃんにちゃんとエスコートさせるから楽しみにしててね」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ちなさい!
なんの話してるの?
私とあいつがデート!?
聞いて無いわよ!」
「だって言ってないもん」
「言ってないもん。
じゃなくて、なんでそんな話になってるのよ!」
「えー、いいじゃん。
お兄ちゃんとのデートは嫌?」
「嫌では無いけど……」
「じゃあ決まりね」
「ちょっと待ってよ。
いつなの?」
「決めて無いよ。
でも、大丈夫。
私がお兄ちゃんから誘うように言っとくから」
「それだとヒカゲに会う度にいつ言われるか気が気じゃないわよ」
「確かにそうだね」
ヒナタはケラケラと無邪気に笑う。
「笑い事じゃないわよ」
「ならシンシアから誘う?」
「う〜
それはもっと無理」
「でしょ。
だからお兄ちゃんから誘ってもらおう」
「……それも断っちゃうかも」
「えー!
ダメだよ。
そんな事したらお兄ちゃん誘ってくれなくなっちゃうよ」
「それは困る」
「なら頑張らないと」
シンシアが何か言いたそうな目でヒナタを見つめる。
「どうしたの?」
「人の恋愛には積極的なのに、なんで自分の事には奥手なのよ」
「だって〜
緊張するんだもん。
特にハヌル王子だと……」
「まあわからないでも無いわね。
ハヌル王子はなんと言うかオーラが凄いし」
「そうなんだよ〜
ってもう時間だよ」
「本物だ!
早くしないとアイビー待たせちゃう」
二人はすぐさま準備して寮の前でアイビーと合流した。
「アイビー。
おはよう!」
「おはよう。
わっと。
危ないな〜」
会ってすぐに飛び付くヒナタをアイビーは受け止めた。
「アイビーなら安心だね」
「だからって危ない事には変わり無いでしょ」
「えへへ〜」
「おはよう」
「シンシアもおはよう」
挨拶を交わしたいつもの3人は繁華街に向かおうとした。
その時。
「おはよう」
突然の挨拶に3人は声の方を見ると、ヨーゼフが何食わぬ顔で立っていた。
3人とヨーゼフの目が合う。
お互いの間に沈黙の時間が少し流れた。
「さあ、ショッピングにレッツゴー!」
ヒナタの掛け声と共に4人は自然に繁華街へと向かって行った。
◇
繁華街は休日という事もあって人通りが多かった。
そんな中を4人は楽しくおしゃべりをしながら歩いていた。
「それで今日は何か買いたいのあるの?」
アイビーの問いにヒナタが手を挙げて答えた。
「はいはーい。
シンシアの服買いに行きたーい」
「はぁ?
なんで私の服なのよ」
「お兄ちゃんとデート行く時の服決めないといけないじゃん」
「別に今持ってる服でいいわよ」
「えー。
せっかくのデートだよ〜
可愛い服買おうよ〜」
「へぇ〜
シンシアはアークム兄とデートするんだ〜」
彼女達は恋バナ大好きな女子高生である。
当然のようにアイビーも大好きなので食い付いてくる。
「まだ決まったわけじゃないわよ」
「そんな事無いよ。
お兄ちゃんにちゃんとお誘いするように言うもん」
「それは確定したような物ね。
これはシンシアの可愛い服選んであげないとね」
「二人して面白がってるだけでしょ!」
「でもお兄ちゃんに可愛いって言って欲しいでしょ?」
「……言って欲しい」
シンシアは恥ずかしそうに小声でボソッと言った。
それを2人は聞き逃さない。
「決まりね。
早速服を見に行きましょう」
「良かったねシンシア。
私とアイビーとヨーゼフちゃんの3人でとっても可愛い服選んであげるね」
「やっぱり面白がってるでしょ」
「私はお兄ちゃんが好きそうなコーデ分かるから任せといてよ。
太ももと頸とおへそはしっかり見せていかないとね」
「そんな恥ずかしい格好出来ないわよ!」
「アークム兄ってそんな趣味があるの?」
アイビーは若干引き気味に聞いた。
そんな事気にする事無くヒナタは大きく頷く。
「当たり前じゃん。
だってシンシアの太ももとか超綺麗なんだよ。
見せないのは勿体ないよ」
「うなじとおへそは?」
「ついで」
「ついでで人の体の露出部を増やすな!」
そんなキャピキャピおしゃべりをする3人の前を歩いていたボロボロのマントの男がハンカチを落とした。
ヒナタがそれを拾って駆け足で追いつく。
「落としましたよ」
男が振り向いてハンカチを見た。
「これはわざわざご丁寧にありがとうございます」
男はお礼を言ってハンカチを受け取ってからヒナタの顔を見る。
2人の目と目が合った瞬間ヒナタはボッーと立ち尽くした。
「ヒナタ?
どうしたの?」
後から来たアイビーとシンシアが尋ねるも反応は無い。
その2人が男の顔を見て目と目が合った瞬間、2人もボッーと立ち尽くす。
男はそんな3人の横を通り過ぎてヨーゼフの所まで歩いて行く。
そして素早くハンカチでヨーゼフの鼻と口を塞ぐ。
するとヨーゼフの意識がスッと無くなった。
そのまま男は倒れる前にヨーゼフの体を抱えて走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます