第8話
僕は前世で友達を作らなかった。
当然恋人も作っていない。
まあ、今も作っていないんだけどね。
だから遊園地に行ったのは義家族が連れて行ってくれた一回きりだけだ。
その時の姉さんが楽しそうだった記憶しかない。
と言うか無邪気にはしゃぐ姉さんに合わせてはしゃぐ事しか楽しみが無かった。
だってその時には既に4つの力をある程度使えていた。
つまりジェットコースターよりも速く動けたし、お化け屋敷は気配でわかるし、観覧車よりも高く飛べた。
それなのに一体何を楽しめと言うのだろうか?
いまやあの時よりも力を使いこなした僕にとっては更につまらない物になっているに違いない。
そう思っていたけど、違う意味でこっちの遊園地は面白い物だった。
特に絶叫マシーンは究極にヤバい代物だ。
まず安全ベルトなど無い。
基本2人乗りで、自身の魔力を流し込むとシートと体がくっつく仕組みになっている。
つまり自分の命は自分で守れシステムだ。
もし魔力の供給量が不足すると安全装置が働いてコースター途中の至る所にある避難場所に移動して止まるようになっている。
万が一飛ばされてもスタッフと魔導具によって安全に地面に落ちるようになっている。
その万が一の対策が取られている時点でヤバいのがわかる。
命懸けの絶叫マシーンなのだ。
ちなみにその万が一って言うのが結構頻繁に起きている。
むしろ度胸試しでわざと落ちて行く若者までいる。
それを咎めるスタッフはいない。
何故なら看板に堂々と
『何があっても責任は取りません。
自己責任で楽しみましょう』
って書いてある。
なんて清々しいんだろう。
それなのに列を成す大人気アトラクションだ。
なによりも得体の知れない魔導具に命を預けるという事がただただクレイジーとしか言いようがない。
逆を言えば、この世界には自らの事を自ら責任取ると言う人達が大半なんだろう。
嫌なら乗らなければいいだけの話だ。
それだけの話なのに。
「ねえリリーナ。
乗るの辞めない?」
「なに?
怖いの?」
「だってポンコツの僕には無理だよ」
「心配しなくて大丈夫よ。
2人乗りの時は2人の合計だから。
私がヒカゲの分も補ってあげるわ」
僕みたいに強制的に逃げられない人はどうしたらいいのだろうか?
その場合も自己責任?
なんて恐ろしい言葉だ。
「僕、怖いの苦手なんだよね」
ちなみにこれは本当の話。
僕は怖いのが苦手だ。
だって怖いって感情は防衛本能なんだよ。
それに従う方が無難って物だ。
特に悪党の僕には。
ただ怖く感じる事が殆ど無いってだけ。
この絶叫マシーンもそう。
だけどポンコツを貫きながら、尚且つ飛ばされたり止まったりしないようにしながら特に楽しくも無い事をするなんて理にかなっていないとおもうんだよね。
「仕方ないわね。
乗っている間落ちないように私が抱き締めてあげるわ」
「それだともし僕が飛んで行ったらリリーナも飛んで行くじゃないか」
「あら私の心配してくれてるの?
嬉しいわ」
「そう言うわけだから辞めようよ」
「嫌よ。
せっかく来たのだから全部制覇しないと」
「なら1人で行って来なよ」
「それも嫌。
ヒカゲと一緒に全部制覇しないと明日もここでデートね」
「よし、今日中に全部制覇してしまおう。
って痛い痛い痛い。
なんで抓るの?」
「なによ。
明日も私とデートだと嫌なわけ?」
「違うよ」
「そうよね」
「明日もどころか今日も嫌だって言ったよね?
痛い痛い痛い」
なんで抓るのが強くなるわけ?
本当の事言っただけなのに。
◇
観覧車もなかなかクレイジーだ。
なんと床と周りに鉄の柵があるだけの箱。
乗り越えて飛び降りようとしたら簡単に飛び降りられる。
シースルーなんてレベルをゆうに超えている。
それなのに超高い。
そのかわり吹き抜ける風が心地いいし、景色も良く見える。
僕はこっちの方が好きだな〜
前世では絶対に安全基準とかで引っかかるんだろうな〜
「何処見てるのよ!」
隣に座るリリーナのボディーブローが僕の腹に減り込んだ。
リリーナの理不尽なボディーブローが炸裂した。
全くもって意味不明である
「なんで〜?
外の景色を見てただけなのに〜」
「なによ。
私の方が綺麗でしょ。
私を見てなさいよ」
「あのねリリーナ。
観覧車は外の景色を見る為の物なんだよ」
「知ってるわよ」
「じゃあ僕は間違って無いよね?」
「でも私の方が綺麗よ」
「確かにリリーナは美人だよ。
でもそれとこれとは別の話だよ」
「なら聞くけど。
私と景色どっちが見ていたいの?」
「景色
って痛い」
本当の事を言ったらまたボディーブローをくらった。
「なにするんだよ」
「ヒカゲが嘘を吐くからよ」
「嘘なんて吐いてないよ」
「いえ嘘ね。
だって私と景色の二択で私って言わなかったもの」
「だって本当に景色なんだもん。
って痛いって言ってるじゃんか」
「私って言うまで殴るわ」
「それは最早捏造だよ。
痛っ」
「そんなに私に殴られたいの?」
「そうやって暴力で相手の意見を変えるのは良くないと――
痛いって」
「いいわ。
もう一度だけ聞いてあげる。
私と景色どっちが見ていたいの?」
「けし――」
「景色って言ったら明日も私とここでデートね」
「リリーナ」
強烈なボディーブローが炸裂した。
一瞬息が止まる程の衝撃だ。
「話が違うよ〜
って痛い痛い痛い」
リリーナが無言で連続ボディーブローを入れて来る。
あまりの衝撃に箱が揺れている。
「ストップ、ストップ、ストッープ」
「私とのデートがそんなに嫌なわけ!」
「ちょっと待って。
話し合おう」
僕がリリーナの拳を受け止める事でようやく止まった。
リリーナはムッとした顔で僕を睨む。
「リリーナ。
今のハメだと思うんだ。
どっちにしても殴られてたじゃん」
「私の事好きなのよね?」
「僕の話聞いてる?」
「好きなのよね?」
「好きだよ」
「じゃあなんでデートを嫌がるのよ」
「僕は1人の時間が欲しいんだよ」
「つまりヒカゲが1人でいる時より満足させてあげればいいのね」
そう言ってリリーナが密着して来る。
おいおい。
こんな所で何考えてるんだよ。
僕は離れようと後退りするが、なんせ狭い箱の中。
すぐに逃げれなくなった。
「それは違う。
そう言う問題じゃない。
……おや?」
「また余所見してる!」
「いや、ヒナタ達が居たから」
僕は王都で楽しそうに遊んでいるヒナタ達を指差した。
ヒナタとシンシアとアイビーとヨーゼフの4人でショッピングを楽しんでるみたいだ。
「よく見つけたわね」
「だってあんなに可愛いからね」
「流石シスコン。
で、私を見て言う事は?」
両手で顔を挟まれて無理矢理リリーナの方を向けさせられた。
「首がグキッていったんだけど」
「そんな事より私を見て言う事は?」
「いや結構重要な事だと思うんだけど……
って痛い痛い痛い。
僕の首はこれ以上曲がらないって」
「私を見て可愛いは無いわけ?」
「君が美人で可愛いのはいつもの事じゃないか」
「それでも言って欲しいの」
「仕方ないな〜
可愛いよ」
「仕方なしに言うな!」
「なんたる理不尽。
あれ?」
僕はリリーナの両手をすり抜けてヒナタ達の方を見る。
なんとヨーゼフがボロボロのマントの男に攫われる所だった。
少し間を置いてからヒナタ達が追いかけて行く。
そうか。
あいつがカナリアの父親だな。
「またそうやって余所見する!」
またもや首を無理矢理曲げられる。
そしてまたグキッ音がした。
「痛い」
「あなたがシスコンなのはよーくわかっているわ。
そしてヒナタちゃんもシンシアちゃんが可愛いのもよーくわかってる。
でも私も負けないぐらい可愛いでしょ」
「そうだね」
「じゃあ可愛いって言いなさいよ」
「はいはい。
可愛い可愛い」
「適当に流すな!」
完全に無警戒だったボディーブローが腹に減り込んだ。
なんでだよ。
理不尽過ぎない?
ちゃんとリクエストにお応えして可愛いって言ったのに〜
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